上馬キリスト教会(東京都世田谷区、渡辺俊彦牧師)のツイッターアカウントには、教会としては異例の3万人を超えるフォロワー(コメントを読んでいる人)がいる。2015年に開設し、昨年、大幅にフォロワー数を伸ばした。そのきっかけは、「#違法ではないが一部不適切」というウェブ上の「大喜利」の中で、イエス様の肖像画とともに「イエス、高須クリニック」とツイートすると、それを高須克弥院長が見て自身のフォロワーに紹介してくれたことだった。
発信者は、同教会信徒である「中の人」こと、まじめ担当の30代、横坂剛比古(よこさか・たけひこ)さんと、ふざけ担当の20代、渡辺さん。横坂さんは現在、音楽関係と行政書士の仕事をしながらツイッターの更新をしている。そんな横坂さんに話を聞いた。
――ツイッター、すごいことになっていますね。
ありがとうございます。最初はこんなつもりじゃなかったんですよ。礼拝説教のブログ掲載のお知らせや、「教会の庭にアジサイが咲きました」のような平和なつぶやきを普通に上げていました。
――横坂さんはいつからこの教会に?
今から15年くらい前、大学生の時です。だけど、教会に来る前から、大学で宗教哲学を学んでいたので、キリスト教や仏教、イスラム教、それからニューエイジについても勉強していたのですが、聖書こそ真理だと気付き、自分なりにクリスチャンだと思っていたんです。そんな時、友人が「カルト」のような宗教にハマって、助けに行ったら、あちらは僕を仲間に引き込もうとするわけですよ。「僕はクリスチャンだから」と必死に抵抗したんですが、考えてみたら、自分で勝手にクリスチャンを名乗っているだけで、教会にも行ってないのにと思い、たまたま家の近くにあった上馬キリスト教会に行ってみたのです。
――すぐに信仰を?
そうですね。聖書はもうすでに読んでいたし、自分で学んだ上で「これしかない」と思ってきたので、教会に来てからは葛藤はありませんでした。洗礼準備会を経て洗礼を受けました。それが2003年のイースターで、3カ月後、米国留学したのですが、その間も日本語礼拝に通いました。
――帰国後、上馬キリスト教会に戻られたのですね。
はい。家から近いし、居心地もいいし。
――ツイッターはいつから?
2015年2月くらいから、ゆるく始めた感じですね。
――フォロワーの年齢層は?
2、30代が多いと思います。高校生もいます。何かでちょっとだけ教会と関わりを持った人、例えばミッションスクール出身とか、昔、教会学校に行ったことがあるとか、そういう人が多いように思います。
――キリスト教に違和感がなく、興味のある人たちですね。
それから、仏教に興味のある人は、実はキリスト教にも興味があるみたいです。日本限定の風潮ですが。何でもいいから「ありがたいもの」がほしいんでしょうね。実は僕はよく、現役の僧侶がやっている「坊主バー」に行くんですが、そこでお坊さんのお説法を聞いていて、「そのへん、聖書にはどう書いてあるの」とか、よく聞かれますよ。
――面白いですね。
「聖☆おにいさん」というマンガで、だいぶ日本人の宗教に対するハードルは下がったと思うんですよ。そこにのっからない手はないじゃないですか。今、日本って宗教が追いやられている状態だけど、「ありがたいもの」は好きで、八百万(やおよろず)の神がいると信じる人もいるように、興味がある人は一定数いるんです。そういう人を引き込むことがまずは重要なのかなと。それはそれで日本人の宗教観なので、まずは教会がそこに理解を示さないと、「やっぱりキリスト教は排他的な宗教だ」と一蹴されてしまうと思いますよ。「ユダヤ人に対しては、ユダヤ人のようになりました。ユダヤ人を得るためです」ですよね(1コリント9:20)。
――それはツイートする時にも大事にしている?
他の宗教宗派はイジらない、尊重するということですね。
――1日何回くらいツイートするのですか。
だいたい10回で、月300回くらい。書きためておいて、いいタイミングで相方(渡辺さん)が出してくれるんです。そこに「ふざけ担当」の彼のセンスが加わってつぶやいていく感じですね。
――なぜあんなふうに面白いことが思い浮かぶのですか。
楽しいからかな。でも、これはネタにしたらいけないとか、これはウケるだろうな、ここまで行ったらやりすぎだなというのは、やりながら覚えていきました。今でも相方と、「それはやりすぎだろう」「そんなのつまらない」などと、しょっちゅうSNSで言い合いながら作っています。
――そこから伝道のチャンスが生まれることは?
「教会からずっと離れていたけど、上馬さんのおかげで、何年かぶりに戻ることができました」とか聞くとうれしいですね。実際、ここの教会も来会者が増えましたよ。現在、求道中の方の中にもツイッターがきっかけの人もいます。
――それはうれしいですね。
もちろん。でも、神様が連れてきてくださった方々ですから、何がきっかけだろうが大歓迎ですよ。何も上馬じゃなくていいんです。全国、どこかの教会につながってくれて、聖書を楽しんで読んでもらえればいいと思います。
――フォロワーから面白い質問もありますか。
「クリスチャンってお焼香してもいいんですか」とか「肉食べないんですか」とか。それから「受験だから祈ってください」とかね。
――悩み相談もあるんですね。
はい。しかし、そこでいきなり「じゃあ、教会行こうよ」と言ったところで、「この人、重たい人だな」と思われるだけ。それより、「クリスチャンって楽しい人たちだな。魅力的だな」と思ってもらえるのが一番だと思うんですよ。そうすれば、「この人を楽しくさせているものは何だろう。そうか、教会か」ってなるじゃないですか。
――ツイッターもそれが狙い?
自分たちも楽しむことが最高の証しだと思うんです。みんな、悪いニュースを聞く時は眉(まゆ)をひそめるじゃないですか。でも、いいニュース、楽しいニュースって自然と顔がほころぶし、笑顔になる。福音は「良いニュース」ということでしょう。だから、楽しく伝えるのが一番だと思います。
――一般の教会がキリスト教の楽しさを伝えるには?
例えば、教会の愛餐会の食事はいろいろ特色があるじゃないですか。そのレシピと写真を載せると、クリスチャンでない人も興味を持つんじゃないですかね。
――何か脅迫めいたコメントやメールは来ないですか。
たまに来ますよ。教会の代表メールに来ると、僕より先に渡辺先生が対応してくださっています。中には心の病を抱えている方もいますが、そのへんは渡辺先生は専門(ライフ・プランニング・センター認定の牧会カウンセラー)なので安心しています。
――今回、つぶやきが日めくりカレンダー「日々笑神」になってキリスト新聞社から発売されました。
うれしいですね。以前、よく相方と「フォロワー数が1万超えたら何か起こるのかな」と話していたんですが、まさかカレンダーになるとは。次に神様が私たちをどう動かし、何をしてくださるかは分かりませんが、期待しています。
最後に、渡辺牧師にもツイッターの反響について尋ねた。
「私たちの世代の理解を超えていますが、彼らは今までの宣教の仕方に風穴を開けました。これこそ現代の路傍伝道だと思いますよ。実際、道端に立っていなくても、彼らの言葉が世界中に飛んでいっているのですから。そこで神学と伝統を踏まえて、メリットとデメリットをどう生かすかが鍵ですね。彼らを信頼しているので、大きく逸(そ)れることはないと思っています。実際、教会に足を運ぶ人が増えたことは、牧師として無条件にうれしい。何より福音を伝えることがあのツイッターの目的ですよね」