考古学者らは、現存する最古の聖母マリアの壁画を意図せずして発掘したのかもしれない。
シリア東部のドゥラ・エウロポス遺跡は、最も初期のキリスト教の教会堂が発見された場所。そこでは1920年代に、女性が描かれたある壁画が発見されていた。カトリック系メディア「アレテイア」(英語)によると、最近になって、この女性が受胎告知を受けた聖母マリアを描いたものではないかと解釈されているという。
井戸の傍らにいる女性を描いたこの古代の壁画は現在、米イェール大学の博物館に保管されている。当初は、ヨハネによる福音書4章に描かれている、イエスと出会ったサマリアの女を描いたものと考えられていた。
しかし近年の見解では、イエスの母マリアを描いたものである可能性が示唆されているという。この見解は、2世紀の外典(キリスト教の正典としては認められていない書)である『ヤコブ原福音書』に記された、井戸の傍らにいるマリアに天使が受胎告知する物語に基づいている。
伝統的な受胎告知の物語はルカによる福音書1章26~38節に書かれているが、『ヤコブ原福音書』の記述には次のように書かれている。「(マリアは)水差しを手に取り、それに水を満たすために出て行った。すると見よ。声がして、『汝は豊かに恵まれた者。主が汝と共におられる。汝は女の中でも祝福された者』と語った。それでマリアは、この声はどこから聞こえてくるのかと左右を見回した」
この壁画は、ドゥラ・エウロポス遺跡で発見された3世紀の家の教会のものとみられている。この教会からは、「良い羊飼い」や「水の上を歩くイエスとペトロ」「中風の癒やし」など、現存するものでは最古のキリスト教絵画と考えられている壁画が見つかっている。
壁画では、女性の輪郭線の一部が淡く消えかかっているが、それはマリアがキリストを懐胎したことを視覚的に描写するものと解釈できる。
この壁画は現在、イェール大学で保管されているものの、ドゥラ・エウロポス遺跡は、過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあり、2011年以降、考古学者らは立ち入ることができなくなっている。多くの人は、ISが神聖な芸術作品を遺跡から奪い去ったり、破損したりしているのではないかと危惧している。
マリア画解釈の先駆的学者であるマイケル・ペパード氏(米フォーダム大学准教授)は、イエズス会のメディア「アメリカ」(英語)に対し、「東洋の初期キリスト教の謎を解明する鍵は、ドゥラ・エウロポスのキリスト教徒たちが握っています」と述べている。しかしISの脅威のために、「キリスト教徒としての特権を生かす機会が彼らの手から奪われつつあるのです」と語った。