By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授
<スピーキング上達の唯一の要因>
英語のスピーキング力を伸ばすためには、日本語を一切使ってはいけないと考える人たちが大勢いる。日本語と英語は構造的にも発音的にも相いれない部分が多いというのがその理由だ。でも、スピーキング上達の唯一の要因は、日本語を使うか使わないかではなく、いかに多く英語音声を発するかである。
ただし、セキセイインコのように音声だけを発するという意味ではない。イメージ(人に伝えたい内容)とそれに相応した音の並び(音声記号)を結合させた状態で、すなわち脳内で意味を明確に意識しながら英語音声を発する練習を重ねると、英語のスピーキング力、そして英語総合力がドンドン伸びていく。
このような練習を繰り返せば、日本語を使っても、あるいは日本語の使用が禁止されてもさほど大きな影響はなく、英語力がアップしていく。日本語を使うと英語が習得できなくなるわけでもなく、日本語を使わないことにより英語が上達するわけでもない。
<日本語不要と日本語禁止は意味が全く違う>
9歳以下の子どもは、どの言語を習得する場合でも、言語による説明を必要としない。日本語を覚えるのに日本語の説明も英語の説明も必要なく、英語を覚えるのにも日本語の説明も英語の説明も必要としない。なぜなら、幼い子どもは、特定の言語が使われている環境の中に置かれると、言葉による説明がなくても、生活文脈だけで音声の意味を的確に推測、自然に、また無意識的に「音声」と「イメージ(意味)」を結合させていくことができるからだ。
しかし、年齢が進むにつれ、徐々に言葉による説明の必要性と依存度が高まっていく。それでも9歳以下であれば、語学環境さえ整えば、それまで知らなかった言葉をほんの2~3カ月でいとも簡単に、また無意識的に習得してしまう。
ここで注意しなければならないのは、小さい日本人の子どもが英語を覚えるとき、日本語の説明を必要としないという話であって、日本語の使用を禁止したら英語を覚えるということにはならないことだ。「日本語不要」と「日本語使用禁止」とは意味が全く違う。
<私が2人の子どもに英語しか話さなかった理由>
私たち家族は息子が5歳半、娘が1歳半の時、米国から帰国した。米国に住んでいたときは、子どもたちには100パーセント日本語で話していた。日本語を習得させる必要があったからだ。でも、帰国2カ月前から、家庭内の言葉を日本語から英語に切り替え、日本語を一切使わなくなった。特に私の場合、それを徹したので、日本における彼らの人生の中で(約40年)、彼らに対して日本語を使ったのは合計1時間にもならないだろう。
私が彼らに徹底的に英語で話したのは、日本語を使うと英語が覚えられないからではなく、英語を覚えるのに日本語の説明が不要だったからだ。でも、日本語が不要だからといって、日本語を使ってはいけないということにはならない。日本で生きていく子どもたちにとって、日本語教育が重要であることは十分承知していた。
それでも徹底的に英語で話したのは、英語に十分触れさせるためだった。日本に住みながら日本の幼稚園や小学校に通い、日本人の友達と遊び、日本語のテレビ番組を見たりしていると、1日の大半が日本語の生活になる。であれば、家庭内で日本語を使わなくても大きな問題は生じないだろうと思った。
家で徹底的に英語を使い、子どもたちが英語に触れる時間を増やせば、米国人の子どもたちと同じように英語を習得するはずだと考え、実行した。その結果2人の子どもはバイリンガルに育った。
<インターナショナルスクールに通う子どもたち>
ある親は、日本語が使われる環境の中に子どもを置くと、なかなか英語が覚えられないと心配し、インターナショナルスクールに通わせ、テレビも本も英語以外はダメという教育をする。その結果、日本人なのに日本語が少しおかしいということにもなり得る。
日本に長く住んだ米国人の中で、インターナショナルスクールで勉強し、友達も全て英語を話す人たちだけだったため、日本語を自由に話せるようにならなかった人が大勢いる。当然のことながら、彼らは日本語を使わなかったことにより英語を覚えたわけではない。日本語をたくさん話しても英語習得に何ら悪影響を与えなかったはずだ。
彼らの問題は、日本語に十分触れなかったことにより、日本語の習得が難しくなっただけである。でも、小さい時からいつも日本人の友達と日本語で遊んでいた米国人は、日本語をいつも使っていたにもかかわらず、英語は母国語となり、日本語も母国語レベルで話すことができるようになる。日本語と英語のバイリンガルに育つ子どもたちは、常に日本語と英語に触れている。
幼い子どもたちは、一方の言語の使用を禁止することにより、もう一方の言語を習得するのではなく、日常的に触れている言語を全て習得してしまう能力を備えている。
<日本語の不要性 vs 日本語の必要性 vs 日本語使用禁止>
英語を学ぶ年齢により、日本語の役割が異なる。それは年齢により脳の働きが異なるからだ。
0歳~9歳:英語に十分触れることにより、生活文脈だけで英語を習得することができるので、日本語を使う必要はない。でも、日本語が不要だからといって、日本語の使用を禁止すべきだという話にはならない。この時期は、言葉の環境が変わると、いままで使っていた言葉を完全に忘れ、新しい環境の中で新しい言葉をすぐに習得してしまう。
10歳~12歳:母国語形成時期で、この時に脳に蓄積されている言葉が母国語となる。2つの言葉が蓄積されていればバイリンガルになり、複数の言葉が蓄積されていればマルティリンガルになる。また、この時期になると、言葉の能力を高めるのに、生活文脈だけでは不十分となり、既知言語、すなわち母国語による意味の補充が必要となってくる。国語辞典や国語の授業があるのはそのためだ。
13歳以降:母国語が完成しており、これ以降に学ぶ言葉はあくまでも外国語(第2言語)となる。13歳以降は、新しい言葉を覚えていくときに、既知言語への依存度がさらに高くなる。英語をすでにある程度知っている日本人の場合、英語と日本語が既知言語になるので、日本語を使わなくても英語だけで英語力を伸ばしていくことができる。でも、英語が不十分な日本人の既知言語は日本語だけなので、日本語の使用が禁止されたり、日本語が通じない環境の中で長く生活しても、英語がなかなか上達しない。
<日本語使用禁止のプラスとマイナス>
英語学習に日本語は無用なだけではなく、英語習得の妨げになるという考えがかなり浸透しているので、英会話クラスや英語集中講座などでは、日本語が禁止され、日本語を使ったら罰金を科すことも珍しくない。
英語を学んでいる日本人たちに日本語使用を禁止した場合のプラス面は、英語を話さなければならない状況に追い込むことだ。人は何を習うにしても、夢や楽しさを感じることができれば、あるいは絶対的な必要性がそこにあれば、学習成果を何倍にも上げることができる。
英語しか話してはいけないという状況は、英語を話さなければならないという必要性を強く感じることと同じなので、英語の上達に貢献する。でも、日本語を話さないことが英語上達の直接要因ではない。
マイナス面は、日本語の使用禁止は、日本語での意味補充があれば「英語音声」と「イメージ(意味)」の結合がなされ、飛躍的に英語力を伸ばす可能性がある人たちからそのチャンスを奪うことにもなる。また、英語をほとんど話せない人が日本語を話すことを禁じられると、沈黙せざるを得なくなり、英語学習はそこでストップする。
<日本語禁止の極端な例>
日本国内では、英会話クラスで日本語使用が禁止されるケースが多いが、海外に住んだ場合、日本語使用をわざわざ禁止されなくても、日本語を使うこと自体が無意味だ。日本語が通じないからだ。だとすると海外生活は、特に英語圏に住むことは、英語習得の理想的な環境ということになる。
でも、海外に住む前に英語をある程度習得していないと、英語を英語上達のための既知言語として使えないので、どれだけ英語漬けになっても、右の耳から左の耳に抜けていってしまう危険性が高い。
私は、米国に20年、30年住んでいても、英語を自由に話すことができない多くの日本人に出会っている。彼らの共通点は、「英語音声」と「的確なイメージ(意味)」とを結合させる手段を持っていないことだ。
<YouCanSpeak で日本語が使われている理由>
13歳以降に英語を学ぶ場合、日本語を「意味提供の道具」として正しく使えば、英語の習得は早くなる。この理由から YouCanSpeak では言ってほしい英語に誘導するために、日本語が使われている。ただし、日本語使用には危険性もある。それはうっかりすると、「イメージ(言いたいこと)」→「瞬間日本語作文」→「英語に翻訳」→「英語で音声化」という順序になってしまう可能性があることだ。
イメージと英語音声の間に日本語音声が居座ると、イメージと英語音声の結合が弱くなり、スピーキング力がなかなか上達しない。日本語の正しい使い方は、次の順序となる。「日本語でイメージ(言いたい内容)を提供」→「瞬間英作文」→「瞬間音声化」。これは通訳者が日常行っているプロセスと全く同じで、英会話習得の早道となる。
スピーキング上達の手段として日本語を使っている YouCanSpeak では、翻訳作業に陥る危険性を避けるために、秒数制限を設けていて、翻訳する暇を与えない仕組みになっている。
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