狭山茶で有名な埼玉県所沢市小手指(こてさし)町。そこに創設30年目を迎える埼玉YMCA所沢センターがある。同センターは古くから地域に根ざし、YMCAを知らない人はいないというくらい親しまれているが、実際にどのような活動が行われているのだろうか。代表理事・総主事を務める小谷全人(まさと)さんに話を聞いた。
クリスチャンになりたいのなら、すでに
小谷さんの父親は東京YMCAのスタッフを経て主事を務めた。そのため小谷さんは子どものころからキャンプやさまざまな活動に参加して、まさにYMCAで育った。「父は仕事で家にいないことが多かったのですが、キャンプに行けば会えました」と笑う。
「また、私は子どものころ、父親に言われるままに教会に通っていました。教会に行くと50円玉を3枚もらえたのです。父は『この3枚を自分で考えて使いなさい』と言いました。私は50円を献金し、残り2枚はお小遣いにしていたことを思い出します」
その後、しばらく教会から離れていたが、YMCAの職員として働く中で、保護者や周囲の人から人生相談を受けることが増えていったという。
「そうなると、自分の人生経験では語れない部分があることに気付きました。必死に正解を求めて聖書を読みあさりました。しかし、自分にとって都合のいい部分だけを語ってしまい、だんだん苦しくなっていったのです。
このような時に、1つの聖句がストンと心に入ってきました。『信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです』(ヘブル11:1)
ある時、海外研修先で現地スタッフに『自分は仕事が忙しくて教会にも行けないから、クリスチャンにはなれない』と話すと、『あなたはクリスチャンになりたいと思っているのなら、もうクリスチャンだよ』と言われたことで気持ちが楽になったのです」
こうして小谷さんは日本基督教団川越教会で洗礼を受けた。
このような人になりたいと思える働きを
小谷さんはいつも職員にこう語っている。
「教会には教会としての役目があるように、YMCAには社会的な面でイエス・キリストの香りを放っていく使命がある」
特に交わりの中で「この人は何か雰囲気が違うな」と感じてもらい、「この人のようになりたい」と思ってもらえるようなスタンスでこの働きを進めていきたいと小谷さんは言う。
その原点は、子どものころ、YMCAで出会う大学生のお兄さん、お姉さんが、自分を愛し、受け入れてくれる人たちとして憧れの存在だったことにあった。
0歳からシニアまで、一人一人を大切に
小谷さんの案内で館内を見学した。所沢センターには体育館と屋内温水プールがある。
「ここでは、水に入る前にシャワーで全身を洗ってから入るルールになっています。衛生面はもちろん、水がとてもきれいなのも特徴です」
ライトも明るく、子どもの様子が付き添いの保護者からもよく見える。また、安全にも十分配慮されていることがうかがえた。
ここでは0歳からシニアまで、さまざまなプログラムを学び、体験することができる。子どもは小規模保育、プリスクール、幼児園、児童クラブ、特別支援教育、英会話、そしてプールや空手、キャンプ。大人は体操教室、英会話、プール。その他、イベントも豊富だ。
園庭がないため「幼稚園」とは名乗れないが、幼児園ではバイリンガル、英語中心のプログラムを行っている。どのプログラムの中でも共通することは「個人を尊重する」という点だ。
指導にあたる先生やスタッフは「〇〇リーダー」と呼ばれており、小谷さんも「ぜんリーダー」。「全人」の「全」で「ぜん」だ。
本当にYMCAさんは頼りになる
また、所沢市から委託され、児童館も運営している。学校が終わり、共働きなどの理由で児童館預かりをする際も、校門までスタッフが出迎え、安全、安心に努めている。外国人のスタッフも加わり、なかなか体験できない異文化交流も可能となった。館内の園庭では外国人スタッフが子どもたちとボール遊びをし、英語が飛び交っていた。
この児童館の働きについて、地元の人々や町内会からは「本当にYMCAさんは頼りになる」「よくやってくれる」と好評だ。長年、地域の見守りを続けてきたシニアの男性も、「キリスト教精神とはすごいものだね」と地区の安全協議会で発言するなど、高い評価を受けている。
「YMCAがキリスト教の精神と使命を持って地域で高い評価をいただければ、他のクリスチャンの励ましにつながるのでは、とも願っています」と小谷さんは言う。
「愛されている」と知ってほしい
小谷さんには持論がある。
「子ども一人一人にタラント(たまもの)があります。私は子ども自身には『課題』はないと考えています。むしろ、子どもが育つ環境の中に『課題』があるのではないでしょうか。子どもは環境から大きな影響を受けます。やはり、『愛されている』という安心感の中で育ってほしいですね」
小谷さんは、「まず自分が愛されていることを知ってもらいたい。この世に生まれたのは、愛されているから」と熱を込めて語る。
子どもから大人まで大勢が一緒にいるキャンプなどではスタッフに、「一人一人は、大人、子どもではなく、『〇〇さん』という、世界に1人しかいない存在なんだ」と伝えているという。
「この1人に、世界で一番大事に思っている家族がいて、神様に愛されている。その命を大事にしてほしい」
■ 埼玉YMCA