被災現場を目の当たりにして
2016年4月14日午後9時26分、最大震度7を記録した熊本地震が発生した。その28時間後の16日未明にも震度7クラスの大地震が一帯を襲った。屋外で一夜を明かし、テント泊や車中泊を余儀なくされた被災者の姿をニュース映像で見た方も多いだろう。
熊本空港に着陸直前、ブルーシートに覆われた屋根が眼下に広がった。機内で隣に座った女性が「地震雲が見える」と窓をのぞき込む。トラウマ(心的外傷)になっているのだろう。地震の恐怖が抜けないという。
空港からタクシーに乗ると、運転手は自身も被災者であること、そして地震当日の記憶を語ってくれた。「阿蘇大橋が落下した時はまさかと思いました」。地震以降、観光客が激減したという。
周囲は、崩れた外壁や斜面が至る所にあった。空き地も目立つが、そこは地震で家屋が倒壊した場所なのだという。益城町(ましきまち)に入ると、そうした光景がいっそう目についた。
ボランティアを受け入れる九州キリスト災害支援センター
九州キリスト災害支援センター(九キ災)は、熊本ならびに大分、九州全域に起きた大地震に対し、地域と教会を支援するために本震直後の4月18日に設立された。横田法路氏(日本イエス・キリスト教団福岡教会油山シャロームチャペル牧師)を本部代表とする災害支援団体である。
センターは、熊本県中部に位置する益城町に昨年10月より熊本ベースを構えている。中村陽志(ようじ)氏(熊本ハーベストチャーチ牧師)がそのディレクターを務める。
今も毎日のように日本や世界各地からボランティアがここを訪れ、寄り添う心で人々に仕えている。
解体前の住宅の片付け
朝7時30分、ボランティアがセンターに到着する。宿泊所として市内2教会が彼らを受け入れているのだ。ボランティアは随時募集しているが、ルール、規約が設けられているので、必ずホームページでチェックしてほしい。当日も関西方面の教会から派遣されたボランティアが参加していた。
中村氏やスタッフと共に礼拝、賛美をささげる。その後、ホワイトボードに書き込まれたスケジュールを見ながら今日1日の活動計画を打ち合わせた。
その日はまず、解体前の住宅から荷物を運び出す現場に向かった。公費解体を請け負った業者の手が回らない処分作業を、九キ災が家主から依頼を受けて行っているのだ。
そこには思い出の品がたくさん積まれていた。「これはどうしますか」と立ち会う住民に一つ一つ確認していく。「これは父ちゃんがテレビショッピングで買ったんだ」。そんな会話が続く。当日、作業に関わった40代のボランティアは、「とても複雑な気持ちですね」と声を詰まらせた。
中国大連出身の男性ボランティア(来日2年目)は、「日本は本当に地震が多い国だなと思います。被災すると、家の片付けが本当に大変。かわいそうだなと思いました」と述べた。参加した学生は、「家の中がこんなにひどいとは思いませんでした」と驚く。
東北で被災地支援に関わり、不思議な導きで熊本に足を運ぶことになったという男性は、「家の中が湿気でカビがすごかったです」と語る。彼はボランティアに行った先々でクリスチャンと出会い、やがて自分が愛されている存在だと知って洗礼を受けたという。「誰かのために役立ちたい」と、家の片付けをしながら額に汗をにじませていた。
神戸大学2年生で、日本キャンパス・クルセード・フォー・クライスト(CCC)学生リーダーの遊佐秋友(ゆさ・あきとも)さんは次のように語る。
「熊本に来てみると、まだまだ全壊の住宅の片付けは進んでおらず、震災の爪痕は深く残っています。今回学ばされたのは、私たちが一生を終えた後は何も持っていけないだけでなく、この地上でも残すことのできるものは本当にないということでした。自分自身、天に宝を積む生き方を求めていかなければいけないし、被災者の方にも永遠の癒やし、救いが必要です。主が何か新しい神の働きを始めようとしていることを覚え、希望と期待を持って祈っていきたいと思います」
1日の作業が終わると、報告会をし、祈りをささげて終了だ。この日は、作業にあたった住宅の家主が「皆さんにお礼を言いたい」と足を運んでいた。作業した現場でも被災した男性が、「本当にありがたい。もう1人じゃ、何もできないよ」とボランティアの人に声を掛けていた。
仮設住宅へ
次に、津森地区の仮設住宅へと向かった。国際NGOで培った経験を生かし、今年から新たに仮設住宅担当スタッフとなった諫山(いさやま)由紀子さんが案内してくれた。
昨年10月末にほとんどの避難所が閉鎖され、住民は自宅に戻ることなく、仮設住宅、みなし仮設住宅へ移った。そこに約4万1千人を超える人が暮らしているが、それは全住民の43人に1人という割合だ。
九キ災の活動は行政側から信頼され、広崎、津森、安永、馬水の4仮設住宅の自治会支援・運営企画を町役場の復興課から任されている。昨年のクリスマスには「クリスマスケーキ・プロジェクト」を企画し、集会所にツリーを飾り、担当する仮設住宅総戸数800戸にカードを添えたケーキを届けた。また、親睦を目的とした「新年日帰り温泉バスツアー・プロジェクト」も行った。
この津森地区の仮設住宅でも、益城町役場復興課から委託を受け、コミュニティー作りを手伝うことを目的に活動している。集会所には8人の住人が来ており、使い古しのネクタイを使ったクラフトやブローチ作りが行われていた。うれしそうに作品を手にする姿が印象的だった。
日本ホーリネス教団の協力宣教師である森宗孝さんとサンディーさん夫妻が当日の集まりを担当していた。森さんは、震災時に家の下敷きになりながらも掘りごたつに潜り込んで一命を取り留めたクリスチャンがいることを話してくれた。「活動で一番大事なことは、皆さんのお祈りです」。また、圧倒的に高齢者が多い仮設住宅では、彼らが孤独にならないような関わり方も大切だと話した。
フェイスブックやHPを見て支援を
現在、熊本ベースで10人、福岡本部で4人のスタッフが活動しているが、九キ災のプロジェクトはさらなる広がりを見せている。宮崎の13教会がそれぞれメンバーを派遣し、災害対策のためにネットワークを形成して「宮崎支部」がスタートしたのだ。
同団体はフェイスブックで活動報告や詳細なリポートを配信している。1人でも多くの人に「いいね!」ボタンを押してほしいと語る。
日本は地震大国だ。一人一人が防災への意識を持ち、クリスチャンは「その前」「その後」に何をなすべきか。教会は何を学び、どのように地域に関わるのか。今も被災者が悲しみや不安の中にいることを覚え、祈りの輪が広がってほしいと願う。九州キリスト災害支援センターのために祈りたい。
公式ホームページでは活動支援(献金)を呼び掛けている。全国の教会、団体、個人から運営を支える支援金が多く寄せられている。九キ災の活動はまだ始まったばかりだ。