過激派組織「イスラム国」(IS)の襲撃により国外に逃れていたキリスト教徒たちが帰還しつつあるイラク北部のニネべ平原で、現地の主要な3教派が団結し、破壊された1万2千軒以上の家屋を再建しようとしている。
アッシリア国際通信(英語)によると、シリア典礼カトリック教会、シリア正教会、カルデア典礼カトリック教会の3つの教派が、家屋再建のために「ニネべ再建委員会」を組織。カトリック系慈善団体の「エイド・トゥー・ザ・チャーチ・イン・ニード(困窮している教会への支援)」(ACN)が、実態調査や政府などへの働き掛け、資金集めなどで同委を支援する。ACNはニネベ再建のためには1万2千軒の家屋を立て直す必要があり、少なくとも2億1300万ドル(約235億円)の費用がかかるとみている。
米主導の有志連合軍は昨年、ISに支配されていた幾つかの都市を奪還し、昨年12月にはISが拠点としていたイラク第2の都市モスル東部を解放した。現在は西部の解放を目指して作戦が行われている。
昨年、ISから解放されたイラクの古代都市カラコシュでは、最古のキリスト教共同体の1つが破壊されたままになっている。しかし、現地の住民たちは、神が彼らの土地を回復してくださるという希望を抱いている。
非営利団体「クラリオン・プロジェクト」の国家安全保障分析家であるライアン・マウロ教授は、米ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」で公表された報告の中で、「破壊されたカラコシュを、私と共に歩き回った人々は不屈の精神を持っています。彼らの信仰は以前よりもいっそう強くなっており、黒焦げになった教会を再建し、以前よりも大勢の人々でいっぱいにすることを誓いました」と述べている。「神は彼らが耐えているこの地獄をお用いになって、彼らに奇跡を行ってくださるでしょう」
カラコシュは昨年11月に解放されたが、戦闘で全てがなぎ倒され、かつて家が建っていた所には岩とがれきの山だけが残っている。
ケラムリスは、モスルの南東約30キロに位置する、古くからあるアッシリア人の町だが、ISがモスルと周辺地域を奪取し、ケラムリスを2カ月間侵攻した後、住民の大部分は避難した。
イラク軍は昨年10月末、ISからケラムリスを奪還した。しかし、家屋の大部分は破壊され、多くの住民はクルド人自治区でテント生活を余儀なくされ、何百人もの人々が、近隣諸国や欧州、米国、その他の国々へ逃れた。
首都バグダッドにある聖ジョージ教会(聖公会)の担当司祭で、現在国外に避難しているアンドリュー・ホワイト氏は先月、米フォックス・ニュース(英語)とのインタビューで、「終わる時が来ました。キリスト教徒は1人も残されないでしょう。ある人々はキリスト教徒が長い歴史を刻んできた地に留まるべきだと語っていますが、それは非常に困難になっています。彼らの将来は非常に限られています」と悲観的な見解を述べていた。
ホワイト氏はまた、「もし私が米国人に言うことのできることがあれば、それは、あなたがたの仲間である兄弟姉妹が苦しんでおり、必死に助けを求めているということです。そしてそれは、ただ平和を求める祈りの問題ではありません。彼らは多くの物を必要としています。食料や物資、衣服、あらゆるものを。彼らはあらゆるものを必要としているのです」と語っていた。