キリスト教徒が多く住むイラク北部ニネベ平野にある町ケラムリスでは、キリスト教徒たちが徐々に、この自分たちの故郷へ帰る動きを見せている。過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下となってから2年以上が経過しており、人々は期待とは裏腹に、汚され変わり果てた教会、損傷を受けた家々を目の当たりにした。
11月半ば、ケラムリスにある聖アダイ教会の鐘が、2014年8月以来、約2年ぶりに鳴らされた。しかし、AP通信によると、教会の懺悔(ざんげ)室はただの個室に変わり果て、墓は壊され、赤い祈りの椅子は燃やされていた。
「これ(鐘が鳴ったこと)は素晴らしかったです。鳥肌が立ちました。私たちにとってこの鐘は、大きな意味があります」。妻と一緒にケラムリスの自宅を確認しに来た住民のサヒル・シャモーンさんはそう語った。しかし、この地域では家屋のほとんどが破壊された。「私は大きな悲しみを感じています。いつ戻って来られるのか。また、戻って来ること自体できるのか分かりません。子どもたちのことを考えると、彼らは果たして、この地に将来希望を見いだせるのだろうか、と思います」
タベット・ハビブ司祭は、日曜日の礼拝を導いたが、人々が礼拝堂を歩くたびに、壊れたガラスを踏む音が響き渡ったという。
ケラムリスは、モスルの南東約30キロに位置する、古くからあるアッシリア人の町だが、ISがモスルと周辺地域を奪取し、ケラムリスを2カ月間侵攻した後、住人の大部分は避難した。
モスル奪還作戦を続けるイラク軍は10月末、ISからケラムリスを奪還した。しかし、家屋の大部分は破壊され、多くの住民はイラクのクルド地方でテント生活を余儀なくされ、何百人もの人々が、近隣諸国や欧州、米国やその他の国々へ逃れた。
イラク最大のキリスト教徒の町の1つであるカラコシュは、モスルの南東約30キロにある。カラコシュもまた、10月にISの支配下から自由になったばかりだが、故郷に帰還した住民らは、ISによって破壊された家々や教会を目の当たりにした。町は、崩れ、弾丸の穴だらけになった建物ばかりが並ぶ、すっかり変わり果てた姿になってしまっていた。
アッシリア人のキリスト教団体「アッシリア・ユニバーサル同盟」(AUA)の米国支部は最近、公開書簡を出し、ドナルド・トランプ次期米大統領に祝意を伝えた。トランプ氏は選挙期間中、ISを壊滅させるなどと語っており、公開書簡は、中東で現在も進行中のISによるキリスト教徒の大量虐殺について注意を喚起し、トランプ氏に約束を果たすよう求め、またイラクのキリスト教徒たちが故郷に帰還するための支援を促す狙いだ。
AUA米国支部のカルロ・コークタペフ・ガンジェ氏は、異なる教派のキリスト教徒らからなるアッシリア人は、イラク、シリア、トルコ、イランの各国に昔から住む人々であり、「ISが中東で勃興して以来、ISによる虐殺の被害者である」と述べている。
イラクのアッシリア人は、長い間、ISによる人権侵害、虐殺、暴力などの人権に関わる犯罪の被害者として苦しみ続けてきた。
AUAのヨナサン・ベトコリア事務総長は声明で、「女性と子どもに対するレイプと殺人、高齢者の虐殺、アッシリア人の所有地の支配、アッシリア人への移住の強要、また彼らを人間の盾として使うことは、これらのテロ集団の犯罪のほんの一例に過ぎません。残念なことに、これは、国際人権機関やアッシリア人を擁護する国々などによって、まだ主張されている(具体的に対策が始まっていない)ということなのです」などと訴えた。