イラク議会は、同国北部のニネベ平原に新しいキリスト教徒居住地区をつくろうとする計画に反対し、現在の行政上の境界線にとどめておくことを決めたようだ。
旧キリスト教徒地区の中心地にあるニネベ平原の難民キャンプでは、イラクのキリスト教徒が、ヤジディ教徒を含む他の宗教的少数民族と共に平和に暮らすことができるのではないかと、期待感が広がっていたところだった。米国では、ネブラスカ州選出の共和党議員、ジェフ・フォーテンベリー氏が9月初旬、ニネベ平原にキリスト教徒居住地区をつくることを米国や国際社会が支援するべきだとする超党派による法案を米下院に提出していた。
しかし、アッシリア国際通信(AINA)によると、ニネベ地区代表のスンニ派議員、アーメド・アルジャルバ氏が採決を求め、イラク議会はこの計画を阻止したようだ。
アルジャルバ氏は、「イラク人は、ニネベ地区を分割するいかなる決定に対しても、拒否します。『イスラム国』(IS)が去った後の町の運命を決定するのは、その町の住民なのです」と述べ、同地区を現状から法的、行政的に変更することは、いかなるものも憲法違反になると付け加えた。
一方、アッシリア人のキリスト教政党「ベトナレイン民主党」の党首、ロミオ・ハッカリ氏は、地元放送局「クルディスタン24」に対し、「われわれは、たとえばイラクのスンニ派自治区といった地域に組み込まれたくはありません」と語っている。
AINAによると、ハッカリ氏は、キリスト教徒地区を設けるために、米ワシントンでロビー活動を行い、ニネベ地区のスンニ派イスラム教徒がキリスト教徒を差別していると訴えていた。
2年にわたるISによる襲撃後、安全な場所を求める地元のキリスト教徒はますます多くなっている。
イラク北部のドホークには、ISが支配しているモスルから7万5千人ものキリスト教徒が避難している。ドホークのジャミル・ゴルギス神父は9月初旬、地元メディア「ルードー」に、「私の教会に祈りに来るキリスト教徒のほとんど全ては、国際的保護の下にあるキリスト教徒の居住地区で暮らしたいと望んでいます」と述べた。
2014年、ISによる強制改宗や処刑の脅威にさらされたキリスト教徒の難民約8万人が、モスルとニネベ平原から逃れてきた。一般人が何百人も殺され、40万人もの難民がイラク北部に強制的に連行されていった。連行された男たちは集団墓地に埋葬される前に殺され、女たちは残虐に強姦(ごうかん)されたり、性奴隷として売られたりした。
この10年間で、イラクにいた150万人のキリスト教徒の多くが難民となり、同国内には現在、わずか20万人しかいないと考えられている。この2年間で、モスルにあった100を超すキリスト教の教会と修道院がISによって破壊されている。
また、ISの戦闘員は、ニネベ平原を去る際に地雷を残していくとも報告されている。
キリスト教徒や他の少数民族らに、イラク北部を安全な場所として提供することはかなり昔から言われてきたことだが、14年以来緊急性が高まっていた。
米国主導の「イラク持続可能民主主義プロジェクト」(ISDP)は11年、宗教的少数者に対する安全な場所の提供こそ、「アッシリア人の全ての主要な政治団体や組織の確固とした政治的目標」だとしていた。