イラクのカルデア典礼カトリック教会のトップ、バビロン総大司教ルイス・ラファエル・サコは、ドナルド・トランプ米大統領がキリスト教徒の難民を優遇する方針を示していることについて、中東のキリスト教徒にとって益である以上に害となると警告した。サコ総大司教は一方で、トランプ氏はローマ教皇フランシスコに倣い、キリスト教徒とイスラム教徒の難民を差別なく受け入れるべきだと語った。
トランプ氏は先月末、難民の受け入れや、イスラム教人口の多い7カ国での査証(ビザ)発給を一時停止する大統領令を出す一方、キリスト教徒の難民が「迅速に」米国へ入国できるよう優遇措置を取ると表明した。これに対し、サコ総大司教は「中東のキリスト教徒にとって罠(わな)となる」と指摘。「宗教を理由に迫害され、苦難に遭っている人々を差別優遇して受け入れるあらゆる方針は、究極的に中東のキリスト教徒を害します」と語った。
サコ総大司教は、トランプ氏の方針が、中東のキリスト教共同体を、欧米によって支持され、守られている「異物」として攻撃したいと考えている人々を勢い付ける結果となると考えている。
バチカンのフィデス通信にサコ総大司教は、「これらの差別的選択は、私たちの仲間であるイスラム教徒の市民たちとの間に緊張関係を生み出し、助長します。助けを求める者たちが、宗教的ラベルによって分けられる必要はありません。そして私たちは特権を欲しません。これは福音が教えることであり、教皇フランシスコが注目させていることです。教皇は中東から逃れてきた難民たちを、キリスト教徒であれ、イスラム教徒であれ、区別せずにローマに迎え入れました」と述べた。
カトリック系の支援団体「国際カリタス」の総裁であるマニラ大司教ルイス・アントニオ・タグレ枢機卿も、キリスト教徒を優遇することが「敵意を再び生じさせ、さらにキリスト教徒をイスラム教徒に敵対させることになるかもしれません。そして、キリスト教徒に対するイスラム教徒の反発を生じさせるかもしれません」と警告した。
タグレ枢機卿はカトリック・ニュース・サービス(CNS)に対し、「私たちは世界中で増大している偏見、えこひいき、差別的態度を助長することを望みません」と述べた。
また、バチカンに新設さられた「人間開発のための部署」に属するカナダのマイケル・チェルニー神父(イエズス会)はCNSに対して、キリスト教徒は善きサマリア人のことをよく考え、「移民や難民の苦境が自分たちとは関わりのないことであるかのように反応したり、行動したりしないように求められているのです」と述べた。