難民受け入れの一時停止などを命じた、ドナルド・トランプ米大統領の大統領令を受け、キリスト教の迫害監視団体や難民支援団体などの間で見解が分かれている。トランプ氏は、キリスト教徒の難民受け入れを優遇することを表明しているが、世界最大のキリスト教迫害監視団体の1つは、そのような「より好み」は、世界的な迫害に拍車を掛けるだけだと指摘。一方、別の難民支援団体は、これまでの米政権による政策と比べて大差があるものではないとし、大統領令の本質的な意味を読み取るよう訴えた。
迫害監視団体「米国オープン・ドアーズ」のデイビッド・カリー会長は、大統領令を受けた声明で、「トランプ大統領は、キリスト教徒への迫害が驚異的に増加していることを適切に認識しています。政権の始動から100日もたたないうちに、国務省内に宗教の自由ための職員を任命し、インドやサウジアラビア、ベトナムなどの主要貿易相手国に、宗教の自由に関する説明責任を果たさせようと働き掛けていることは素晴らしいスタートです。どの国もオープン・ドアーズのワールド・ウォッチリスト(キリスト教徒に対する迫害が激しい国のリスト)に挙げられている上位迫害国ですから」と述べた。
一方、「ヤジディ教徒やキリスト教徒、一部のイスラム教徒のグループなど、『イスラム国』(IS)によって意図的に標的にされている人々の難民申請を急ぐのは適切だと思われます。しかし、特定の宗教を他の宗教よりも優先してより好みするなら、既に深刻化している宗教的迫害の世界的な広がりを悪化させるだけです」と続け、「全ての宗教を平等に扱い、世界中の宗教的自由の包括的な強化に向けて働くという、ニーズに基づいた手法」を求めた。
トランプ氏はこの大統領令に署名する前、迫害下にあるキリスト教徒は「とんでもない扱いを受けている」と言及。イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7カ国に対する査証(ビザ)発給の一時停止は、イスラム教が支配的な国に対する措置であり、「イスラム過激派のテロリスト」を米国から締め出す目的で行うものだとしている。
難民支援のキリスト教系NGO「世界難民ケア」(WRC)の会長であるジャリル・ダーウード牧師は30日、クリスチャンポストの取材に応じ、結論に先走る前に、トランプ氏による大統領令の本質的な意味を読み取るよう強く訴えた。
ダーウード氏は1982年、イラン・イラク戦争により難民としてイラクから避難し、米国で新たな生活を始めた。「私はイラクの迫害の中を生き抜いてきましたから、自分の子どもや他の人々が迫害されるのを見たくありません。おぞましい体験だったからです」。ダーウード氏は、イスラム教徒の大半は平和的な人々で、他の人々と同じように生活することを願っているが、一部のイスラム教徒はあまり平和的ではない目的を持っていると話す。
WRCのウェブサイトに掲載した声明(英語)では、「難民受け入れの一時停止が攻撃的な措置であるというのは確かですが、一方で、ここ数十年にわたって民主党、共和党の両政権によって続けられてきた数々の政策よりも攻撃的ということはなく、大差はないのです」とコメント。シリアではキリスト教徒やヤジディ教徒が人口の10パーセント近くを占めるにもかかわらず、2016年に米国が受け入れたシリア難民のうち、これらの少数派は1パーセントにも満たないことを指摘した。
「オバマ大統領の政策が、シリアからの難民受け入れでキリスト教徒よりもイスラム教徒を長期にわたり優遇したのは、恐らく不注意からだったのでしょう」とダーウード氏。「私は米国の自己防衛権を全面的に支持します。しかし、難民として、またキリスト教徒として、自分と同じような人々を助けることに賛同します」と付け加えた。また、「現在の(難民受け入れ)一時停止やその後に何が起こったとしても、私とWRCの使命は、世界中の難民に支援と慈愛を提供することです」と語った。
ダーウード氏はこの他、今回ビザの発給が一時停止された7カ国は、オバマ前政権時代に「2015年ビザ免除プログラムの改定およびテロリスト渡航防止法」により、既に米国土安全保障省(DHS)による規制対象になっていた国々であることを指摘した。
トランプ氏の大統領令に対して、より強硬に批判する人たちもいる。米カトリック教会のシカゴ大司教ブレーズ・J・キュピックは、シリア難民の米国入国を無期限に禁止する措置は大きな問題だと述べている。
キュピック氏は声明(英語)で、「今週末は、米国の歴史の中で暗い瞬間であったことが明らかになった」とコメント。「難民を追い返し、暴力や抑圧、迫害から逃れようとしているイスラム教徒に対してわが国を閉ざす大統領令は、カトリック教会と米国の価値観に反している。私たちは特定の民族や宗教を脇へ追いやり、排除することで、暴力から逃れようとしている人々を追い返した過去の悲惨な決定を繰り返しているのではなかろうか」と続けた。
キュピック氏はまた、ビザ発給一時停止の対象国にイラクが指定されている一方、サウジアラビアが指定されていないことを疑問視。イラク人の一部はテロとの戦いで米国に協力したにもかかわらず、大統領令の影響を受け、米同時多発テロ(9・11)の背後に多数のサウジアラビア人がいたにもかかわらず、サウジアラビア人には大統領令が適用されないことに疑問を投げ掛けた。
一方、福音派の世界組織である世界福音同盟(WEA)は、聖書は「在留異邦人」を「愛し」「虐げてはならない」と教えていると述べ(レビ記19:33~34、マタイ25:34~36)、難民を歓迎するよう呼び掛けた。
WEAのエフライム・テンデロ総主事らは声明(英語)で、「強制移住に関する聖書的理解を深め、難民を受け入れる余地を人々の心と思いの中にもたらすため、キリスト教の指導者や牧師が意識的に奉仕することを私たちは求めます」とコメント。「強制移住に関して聖書に裏打ちされた見解を持ち、難民の幸福を積極的に願うことを、全てのキリスト教徒に求めます」とした。
また、「世界的な難民危機が政府に大きな圧力を掛けていることを認識し、難民関連の政策決定に関わる政府指導者に知恵が与えられるよう、クリスチャンたちに祈ることを求めます」と続けた。