全国から当社に寄せられる電話相談の中で最も多いのが、墓地や納骨堂の相談である。状況はさまざまだが、最善の策を見いだすのに大変苦労している。
現代の日本では、死者は火葬され、墓に葬られ、子どもや兄弟などの親類縁者によって維持されるが、代を重ねるに連れ、無縁化する場合が出てくる。このような墓は、大都市の霊園では約10パーセントを超えるほどあるともいわれ、墓地側で用意した永代供養墓に合祀されることが多い。核家族化の進んだ現代では、早い段階で無縁化する墓が増えているともいわれる。
キリスト教信仰では、死者は神様のもとにすでに召されているので、そもそも供養という概念が存在しない。供養とは、残された者の働きが故人を幸せにできると考える人の思い込みに起因するため、無縁墓になったとしても、供養される墓への合祀は避けたいところだ。家族、親族において正しい信仰を継承するためにも、墓地や納骨堂をキリスト教信仰に基づいて管理することが大切になる。
本来キリスト教社会には、墓を非常に大切にする習慣があるが、それは、召された故人を思い起こし、神様に感謝をささげる礼拝場所としての価値と、キリストが墓から復活したように、体のよみがえりを信じていることに起因する。供養をことさら重要視する仏教文化とは相いれないものがある。
歴史のある教会では、教会員のために墓地を所有しているところが多い。家族が皆信者である場合は何も問題は起きないが、通常は信仰を持つ者は家族、親族の中でも少数派になる。信仰を持った者だけが、先祖の墓を利用しないで、教会墓地を使うとしたら、未信者の家族には理解し難いかもしれない。
教会が未信者の家族の墓地利用を受け入れることは多いが、未信者の家族にとっては、見知らぬ教会に組み込まれることになり、不安を感じるだろう。
所属教会が墓地を持っていない場合は、さらに難しくなる。他の教会を探せば可能性がないわけではないが、普段付き合いのない教会の墓に間借りするようで、気の進まない人も多いだろう。教派を超えたキリスト教の共同墓地は使いやすいが、全国にわずかしかない。
それでも教会に集っている信者であれば、基本的には所属教会の牧師が、それぞれの悩みに個別対応しているに違いない。しかし、当社に寄せられる相談の大半は、相談できる牧師のいない信者や、未信者でありながらキリスト教葬儀や墓地を望んだ方たちである。このような方々からの電話相談は長時間に及び、対応に苦慮する骨の折れる仕事になる。
昨年、九州の男性から相談があった。ミッションスクールに通い、教会にも集ったことのある娘さんが突然亡くなった直後だった。キリスト教に触れたことのない男性は、葬儀や納骨についての質問をされたが、何度目かの電話で、どのように供養したら娘が天国に行けるのかと質問された。おそらく最初から最も質問したかったことだったのだろう。
私はできるだけ丁寧に、神様がキリストを通し、命懸けで娘さんを愛しておられることや、その神様のもとに娘さんは召されたことを告げ、人の手による供養の必要がないことを伝えた。葬儀やその後の記念の時は、やがて天国での再会を期待する祈りの場であることを告げると、とてもよく理解してくださり、安心されたようだった。
私は、娘さんの集ったことのあるカトリック教会に相談することをお勧めした。おそらく葬儀は教会の神父に司式してもらえたと思うが、納骨に関してはさまざまな問題があったに違いない。その男性は娘さんをお寺にある先祖の墓ではなく、キリスト教墓地にぜひとも埋葬したいと願っておられた。娘を思う親心である。
核家族化が進み、先祖の墓や納骨堂を敬遠して、個人が自由に埋葬のスタイルを考えるようになった現代社会において、一般の人でも利用しやすいキリスト教の納骨堂や共同墓地がぜひとも必要になっている。
日本人は生涯の中で仏教に触れるよりも、はるかにキリスト教に触れる機会を持っている。キリスト教関連の教育、福祉にお世話になる人は多い。キリスト教の結婚式を挙げたものは6割以上に達している。TVや映画にも良い作品が紹介され、多くの人がキリスト教に好感を持っているのである。彼らが先祖から受け継がれた仏教墓ではなく、キリスト教の墓や納骨堂を希望するのはむしろ自然である。
仏教葬制文化が急速に崩れる中、牧師が悲しみの中にある家族に寄り添い、支えることが急務になっている。その時に、共に継続的に祈りをささげる場所として、墓や納骨堂の存在は極めて大切である。その場所は、天国に心を向ける場所であって、故人を供養する場所ではない。
未信者や教会を離れた信者が利用しやすいキリスト教墓地、納骨堂をぜひとも日本全国に増やしたいものである。行政側の理解が必要だが、粘り強くその必要を訴えたい。時間の掛かる仕事だが、賛同してくださる多くの方々の協力が必要になる。
賛同者の登録をしています。[email protected] までご連絡ください。
◇