『なんでもわかるキリスト教大事典』(朝日文庫)や『もっと教会を行きやすくする本』(キリスト新聞社)などの著者、八木谷涼子氏を講師に迎え、第22回インターネットセミナーが4日、聖パウロ修道会若葉修道院地下ホール(東京都新宿区)で開かれた。さまざまな教派から40人が集まり、教会ホームページ(以下、HP)の現状とこれからの方向性について考える機会となった。
八木谷氏がキリスト教に関心を抱いて実際に教会に訪れるようになったのは、およそ20年前。当時はHPを開設している教会はごく限られており、目当ての教会の情報を知るには電話が一番手っ取り早い手段だった。それがだんだん多くの教会でHPを持ち始め、そこから情報が得られるようになったので、便利になった。ただ、最新の著書『日本の最も美しい教会』(エクスナレッジ)を執筆するため、多数の教会HPを見ていて、「新来者の知りたい情報がすぐ分かるようになっていない」サイトが多いこと、またサイトそのものが存在しない教会がまだまだあることを痛感したという。
八木谷氏は、執筆者、新来者として教会HPを見ている。その目的は、教会の情報を手に入れることと教会の歴史を知ることだ。これまでは、『キリスト教年鑑』(キリスト新聞社)や図書館にある資料を調べなければならなかったことが、HPですぐ分かるようになり、「それはとても感謝すべきこと」と語る。その一方で、以前あったHPがなくなっていたり、更新されていなかったりすることも多い。何より、見ていて疲れるサイトがあることが困ると話した。
新来者が最も知りたいことは、教会の場所や礼拝時間。八木谷氏は、「ページを開いて10秒以内にこれらの情報を余すことなく分かるようにしてほしい」と述べ、そのためにトップページの一番上にこういった必要事項を掲載することを勧めた。また、ディスクリプション(検索結果画面でサイトの内容が3行ぐらい表示されている部分)に載せるようにすることも提案した。「たとえアクセス数は増えなくとも、より親切な方法を考えること、探せば分かるではなく、探さなくても分かることが理想」と八木谷氏。
また、「初めて教会に訪れる人にとって最も重要なのは地図。それも、ネットの地図だけでなく、手書きの地図、文字と説明と写真が入っている地図、道順を案内してくれる動画など、遠くから来る旅人を想定して、ありとあらゆる方法で教会に辿り着ける地図(行き方の紹介)を用意してほしい。今はスマホが案内してくれると言われるかもしれないが、誰でも最新の端末を利用できるわけではない」と力を込めた。
デザイン性を重視して文字列を画像で提供しているサイトもよくあるが、とくに住所はテキストで掲載されているほうが利用する側にとっては便利であることも付け加えた。たとえば八木谷氏は教会の住所をコピーペーストして、使い慣れた地図サイトで検索することもあるという。
続いて、教会側のネット発信のツイッターを例に挙げながら、「(ミサの)参加条件は一切ありません」「のぞいてみるだけでも、ぜひ」などの誘いの文言を読むと安心すると話した。「教会に初めて行こうと思う人は、『私が行っていいのか。行ったら何が待っているのか』と不安に思っているので、こういった不安な気持ちを取り除く説明をぜひHPに載せてほしい」と八木谷氏。また、もし設備があるなら必ず入れてほしい情報として、エレベーター、親子室、多目的トイレ、駐車場の有無などを挙げた。
教会の中で信徒が使う「業界用語」にも触れ、「業界用語を使ったばかりに、せっかくの気持ちが伝わらないとしたら、とても残念なこと」と自身の経験を振り返りながら語った。さらに、名前や肩書などの誤変換、不適切な画像の掲載、プライバシー保護への配慮の足りなさなど、ちょっとしたことから大きな問題につながることの恐ろしさにも言及した。
最後に八木谷氏はお薦めの教会HPを幾つか紹介した。その特徴として、知りたい情報がすぐに分かること、教会外の人にも配慮した表現が使われていること、HPを充実させつつフェイスブックやツィッターもうまく使い分けていること、そして、掲載されている写真が美しいことを挙げた。なおフェイスブックについては、アカウントを持っていない人もいることに配慮して、メーンのページではなくサブページとして用いることを勧めた。
休憩後のフリートークでは、カトリック・プロテスタントそれぞれの教会のHP担当者、プロのHP制作者らが意見を交換し合った。その中では、プライバシー保護の問題、外国人にも対応できるHPを作るにはどうしたらいいのか、あるいは葬儀に関することまで幅広い課題が話題に上った。
八木谷氏の講演の後、主催のSIGNIS JAPAN(カトリックメディア協議会)会長の土屋至氏より、「約900教会のHPについて調べ、定点観測という形でまとめた」という報告があった。今回の調査を通して土屋氏は、「さまざまな教会でユニークな取り組みをしながら、HPでそれらが上手く伝えきれていない」と語り、「HPが教会を活性化させる」「読まれるHPは、信仰の喜びにあふれている」と訴えた。
SIGNIS JAPANでは2003年から、その時々にふさわしいテーマでこのようなインターネットセミナーを行っている。また、昨年11月から、シグニスのメンバー有志と外部メンバーで新しくキリスト教系のウェブマガジン「AMOR-陽だまりの丘」の発信を始めた。「キリスト教に興味を持つ人、違った角度から見てみたいと感じている人、さらにもっと深く知りたいと思っている人にぜひ読んでほしい」と土屋氏は語る。