去る2014年1月16日、小野田寛郎(おのだ・ひろお)氏が召天されました。享年92歳でした。フィリピンに在住していたことのある私は、小野田氏に特別な関心を持っていました。
小野田氏が戦後29年間も潜伏していたフィリピンのルバング島というのは、マニラ湾の沖合にあるコレヒドール島からさらに沖合にある島です。ここで島中の地形と食べ物のある場所、水の出る場所を全て克明に記憶し、転々と移住しながら任務を果たしていったのでした。
小野田少尉があのルバング島のジャングルから投降して出てきたときの顔を忘れることができません。あれほどまでに一筋に自らの任務を遂行することを貫き、最後はただ1人の戦友を失って、ついに投降の決断を下し、旧日本軍の上官からの解任命令をもらってから、彼は任務を終えました。
あのような強靭(きょうじん)で透徹した顔を見たことはなかったと思います。与えられた使命一筋に合計30年間も戦い、命を国にささげて、諜報活動をし、いつかまた戦争になったときのために情報を集めて準備していたというではありませんか。
小野田氏の死去に際し、ワシントン・ポスト紙も、「彼は戦争が引き起こした破壊的状況から、経済大国へと移行する国家にとって骨董(こっとう)のような存在になっていた忍耐、恭順、犠牲といった戦前の価値を体現した人物だった」とし、多くの軍人は「処刑への恐怖」から潜伏生活を続けたが、小野田氏は任務に忠実であり続けたが故に「(多くの人々の)心を揺さぶった」と論評しました。
小野田氏は信仰者ではありませんでしたが、その使命に生きる姿勢、物事の本質を見抜く力、忍耐、克己といった、現代の社会が忘れ去っているような価値観を見せてくれた人のように思われます。そして、キリストの兵士であるクリスチャンとして、私たちはそのような姿勢から学ぶところが非常に大きいと思うのです。
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