50年ほど前の1963年8月28日に、全米各地から約25万人が首都ワシントンのリンカーン記念ホールの前に集まりました。そこで、キング牧師があの有名な「私には夢がある」というスピーチをしました。今も人種差別が残っているとされている米国で、再びキング牧師の働きに光が当たっています。
キング牧師としばしば比較されるのがマルコム・Xという人物です。マルコム・X氏も人種差別のために闘い、そして暗殺されました。2人とも同じ目的のために働き、若くして殺されています。しかし、この2人がしばしば比較されるのは、2人の取った手段が大きく異なっていたからでした。
目的は同じ黒人解放でありましたが、キング牧師は白人と黒人が協働してより良い社会をつくるべきとして、彼の働きには多くの白人も協力しました。一方、マルコム・X氏の場合は、白人に対する嫌悪感をあらわにしたようなメッセージを発信し続けましたから、白人から嫌われました。彼自身もイスラム教徒に改宗して、当時の米国白人主義に真っ向から立ち向かっていきました。
2人がこのように同じ目的のために全く異なる方法を取ったことには、2人の育ってきた環境が大きく影響していると思われます。キング牧師は南部米国の大きな教会の牧師の家庭に生まれています。そして、白人の子どもたちとも友達になっていました。後には北部にあるボストン大学で学び、神学者パウル・ティリッヒの研究で博士号を取得しています。一方、マルコム・X氏はニューヨークのハーレムに生まれ育ち、劣悪な環境の中で社会のあらゆる暗部を見ています。
こういった生育環境の違いから、キング牧師は融和的な手段を取り、マルコム・X氏は攻撃的な手段を取るようになったと思われます。キング牧師は「夢」を語ることができましたが、マルコム氏は現実主義に立ったと言わざるを得ないでしょう。
考えてみれば、あらゆる問題の対処に、「夢」と「現実」のどちらを取るかが突きつけられているように思います。
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