マルティン・ルターといえば中世の宗教改革者として有名でありますが、彼の思想について少し述べてみたいと思います。ルターはプロテスタントの源流を作った人として、当時のヨーロッパの世界のみならず、世界に影響を与えた人であると言ってもよいでしょう。特に、キリスト教信仰を聖書の御言葉に土台を置くということを徹底的に主張し実践した人として知られています。その中でも「信仰による義認」という思想がキリスト教会に与えた影響は計り知れないものがあります。
これに比べると、それほど知られていないかもしれませんが、ルターが後世に大きな影響をもたらした思想にドイツ語で Beruf というものがあります。英語では calling と訳されていますが、日本語では「使命感」とか、「召命感」とかという言葉に訳されています。
これは使徒パウロが「私は、この天からの啓示にそむかず・・・」(使徒26:19)や「けれども、生まれたときから私を選び分け、恵みをもって召してくださった方が・・・」(ガラテヤ1:15)などの御言葉にあるように、人は神様からそれぞれに命と共に使命を与えられており、それを成就することがその人の人生に与えられている尊い召しである、という思想を明確にしたのがルターでありました。
人には神様からの尊い使命が与えられており、それがその人への神からの「召命」であり、「天命」であり、存在の理由でもあるという聖書の真理は、後にヨーロッパの社会を大きく変えていく原動力にもなったといわれています。
2013年、高知県出身の漫画家やなせ・たかしさんが94歳で召されましたが、この方の作詞された「アンパンマンのマーチ」の歌のセリフに「何の為に生まれて 何をして生きるのか 答えられないなんて そんなのは嫌だ!」という言葉があります。この歌詞に込められている気持ちは聖書の「召命感」という思想そのものではないかと思っています。
自分の命の意味を知らないまま、この命を終わっていくことは耐えられないほど寂しいこと、でも、一人一人に必ず神様は尊い使命を与えてくださっているのだから、それを信じて与えられている道を前に向かって進んでいけば必ず自分の「天命」を見いだして喜びに満ちるでしょうと、やなせさんは言いたかったのではないでしょうか。キリストにあって、このことがはっきりと示されることでしょう。
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