コプト正教会式のご聖体(パン)づくりをお手伝い
コプト正教会では、ミサのたびに教会でご聖体(パン)をつくるのだという。この日も夜のミサのため、1階聖堂奥のオーブンのある小さな部屋でパン作りが行われた。
①強力粉にイーストを入れてこねて円形に
②木の棒で十字架の模様をプレスする
③しばらくヒーターの前でイーストが発酵し、パン生地が膨らむのを待つ
④5つの穴を開ける
⑤オーブンで焼く
⑥さらにミサで「聖別」されることで「ご聖体」となる
「コプトでは、ホーリーブレッド(聖パン=聖体)のことを「オルバン(orban)」と呼びます。Offret・Sacrifice(犠牲・生贄、それをささげる行為)という意味です。教会にはパンを作る部屋が必ずあり、“ベツレヘム”の部屋と呼んでいます」と言いながら、アルセニアス神父はまず、小麦の強力粉にイーストを混ぜてこね、直径十数センチの生地を作った。
このパンをつくる手順の一つ一つにも、神学的・信仰的な象徴性と意味があるのだという。「生地には砂糖も塩も混ぜません。神はそのままでも甘いからです。塩は食物を保存するために使われますが、神は永遠であり不死であるが故に、塩も必要ないのです」
次に、円形の生地に大きなハンコのような木の棒で、十字架を刻むためにプレスする。棒には十字架が彫られている。
「周りの12個の小さな十字架は12使徒、真ん中の大きな十字架はイエス・キリストを表しています。縁が円形なのは、聖書に『私はアルファであり、オメガである』(ヨハネの黙示録)と書かれている通り、神には始まりも終わりもないことを表しています。縁の外側には、コプト語で『HOLY GOD, HOLY MIGHTY, HOLY IMMORTAL』と彫られています。新約聖書で、十字架にかけられたイエスの遺体を布と没薬でくるんだ聖ニコデモスが語ったとされている言葉です」
「その後、イエスの弟子でありながら、ユダヤ人たちを恐れて、そのことを隠していたアリマタヤ出身のヨセフが、イエスの遺体を取り降ろしたいと、ピラトに願い出た。ピラトが許したので、ヨセフは行って遺体を取り降ろした。 そこへ、かつてある夜、イエスのもとに来たことのあるニコデモも、没薬と沈香を混ぜた物を百リトラばかり持って来た。彼らはイエスの遺体を受け取り、ユダヤ人の埋葬の習慣に従い、香料を添えて亜麻布で包んだ」(ヨハネの福音書19:38~40)
(※正教会の伝承では、ニコデモが布で包むとイエスは目を開き、驚いたニコデモは上記のセリフを叫んだという。この後ニコデモはキリスト教徒となり、ユダヤ人に殺されて殉教したとされている。)
「カトリックのホーリーブレッド(ご聖体)にはイーストを用いませんが、コプトではイーストを使い、そこにも意味があるのです。イーストは“罪”のシンボルです。そしてパン生地がイエス・キリストです。罪(イースト)は膨らみますが、オーブンの中で焼かれることで死にます。これは、イエスが罪をわが身に背負ったことで、私たちの罪が死んだことを象徴しているのです」
「さらに焼き上がったパンに木の棒で5つの穴を開けます。これは、十字架にかけられたイエスの傷を象徴しているのです。イエスは十字架にかけられ、縛られた両足と右手と左手にくぎを打たれ、脇腹を槍で刺され、頭に茨の冠をかぶせられました。5つの穴は、『両足、右手、左手、脇腹、頭』の5つの傷を表しているのです」
アルセニアス神父は、「やってみますか?」と木の棒を差し出してくれたので、おそるおそる5つの穴をうがった。ちょっと緊張する・・・。
この日は直径十数センチのパンが5個焼き上がり、かごに入れた。
「かごには必ず奇数個のパンを入れます。ミサで使うのは、その中で最もよく焼けた美しいパンで、祈り、consecration(聖別)して用います」
「ここは小さな教会なので、この電子レンジのオーブンで焼いていますけど、オーストラリアのコプト教会では、信徒が数百人もいるので、1メートルぐらいの大きさのパンを焼いて、それをちぎってご聖体としていただくんです。1つのパンをちぎって分けるのは、『私たちはイエス・キリストの1つの体である』ということを表しています」
「礼拝とは、イエスと共に、その生誕から十字架の死までを体験する『旅』なのです」と語るアルセニアス神父のお話を聞きながら、聖体をつくるこの「ベツレヘムの部屋」は、イエスの誕生から最期までを象徴追体験する場所なのだと感じさせられた。(続きはこちら>>)