コプト正教会の正式な会堂としては日本で初めてとなる「聖母マリア・聖マルコ・コプト正教会」の開堂式が18日、京都府木津川市で行われた。
コプト正教会は、紀元後43年に使徒聖マルコの説教を受けてエジプトで始まったとされる。同教会のオーストラリア・シドニー教区は2004年から日本で活動してきたが、今年に入り、ペンテコステ派の単立・カリスチャペル京阪奈が木津川市で使用している3階建ての会堂から移転することから、会堂を譲り受け、この日、正式に引き渡された。
開堂式にはコプト正教会の信徒や日本のカトリックの司祭、ハリストス正教会、プロテスタントの牧師や信徒、コプトの研究者など約100人が参列し、日本のキリスト教史にとって貴重な1日を共に祈り、祝った。
開堂式に先立ち、カリスチャペル京阪奈の村上好伸牧師が壇上に立ち、開式の辞を述べた。単立である同教会は、現在西日本に5つの教会があり、同会堂は2番目に設立されたものだという。村上牧師は以前エジプトを訪ねたときからコプト正教会と交流があり、知人から日本で教会堂として使える場所を探していると聞き、今回の移転に伴って売却に合意したという。
村上牧師は「30年前にこの教会堂を開いた当時、私は牧師として燃え尽きかけてしまい、家族と共に山の中の水道もない廃屋に住んでいました。“それでももう1つ新しい教会を生み出したい”という思いと神様に後押しされて開いたのがこの教会でした。それから私たちは聖書に寄り頼んでいき、開拓伝道の拠点として使ってきました」
「今日は、30年間伝道の場として使ってきた私たちの教会が幕を下ろすのと、日本でコプト正教会の新しいスタートという寂しい気持ちとうれしい気持ちが入り混じっています。コプト教会は使徒マルコによって開かれた教会だと伺っています。同じ神を信じ、同じ聖書を信じ、同じ福音に仕える方たちに引き継がれることにほっとし、感謝し、うれしくてたまりません。同じ信仰の兄弟として世界に宣教をしていきましょう」とあいさつし、午前11時に会堂の鍵がコプト正教会シドニー教区のダニエル司教に引き渡された。
ダニエル司教は、「村上先生とカリスチャペルの信徒の皆様に、そしてご来場くださった全てのお一人お一人に感謝を申し上げたいと思います。この教会が開かれたとき、村上牧師が山の中の廃屋からスタートされたというお話にとても感銘を受けました。私たちの教会も聖アントニウス(251年ごろ~356年、砂漠で生活した最初の修道士とされる)が暮らした砂漠の中からやってきたからです。この教会を皆様の教会だと思い続けてください。そして、いつでもいらっしゃってください。大歓迎です。世界にはいろいろな教会がありますが、神様を信じるということは共通していて、それがあれば違いも乗り越えられると思っています。今日これから行うのは2千年前にできた聖マルコから受け継がれてきた礼拝です。日本で初のコプト正教会の開堂という歴史的な今日、宗派を問わず集まっていただいた皆様と一緒に感謝のお祈りをささげたいと思います」とあいさつした。
礼拝の前に、少女3人がアラビア語の賛美の歌を披露して会衆を歓迎した。
またこの日は、信徒であるエチオピア人とエルトリア人の2組の家族の幼児洗礼が行われた。乳児たちは「In the name of the Father(御父の名によって)」と「the Son(御子)」と「the Holy Spirit(聖霊)」の名を唱えながら3回水に浸され、体の36カ所に油が塗られた。
その後11時過ぎからは、たかれた香が立ち込める中、ダニエル司教の司式のもと、英語と日本語とコプト語で聖体礼儀が行われた。この日配られた礼拝式文は3カ国語で書かれており、表紙には「The Coptic Orthodox Liturgy of St.Basil(written in 4th Century)コプト正教会の礼拝(4世紀に聖バジルによって書かれた)」と記述されていた。
礼拝案内によると、香をたくのは、聖書の記述に由来しているという。「また、別の天使が来て、手に金の香炉を持って祭壇のそばに立つと、この天使に多くの香が渡された。すべての聖なる者たちの祈りに添えて、玉座の前にある金の祭壇に献げるためである」(ヨハネの黙示録8:3)
「アカシヤ材で香をたく祭壇を造りなさい。(中略)アロンはその祭壇で香草の香をたく。すなわち、毎朝ともし火を整えるとき、また夕暮れに、ともし火をともすときに、香をたき、代々にわたって主の御前に香りの献げ物を絶やさぬようにする」(出30:1~8)
「キリストがわたしたちを愛して、御自分を香りのよい供え物、つまり、いけにえとしてわたしたちのために神に献げてくださったように、あなたがたも愛によって歩みなさい」(エフェソ5:2)
式文集に沿って「奉納の儀」「感謝の祈り」「聖職者の罪の赦(ゆる)し」「執り成しの賛歌」「聖書朗読」「聖三祝文の賛歌(アギオス)」「福音書の祈り」と祈りがささげられたのち、ニケア・コンスタンティノープル信条とほぼ同じ内容の「オーソドックス使徒信条」を英語で唱えた。
さらに、「和解の祈り」「奉献文(アナフォラ)」「奉献式」「7つの小さい祈り」「聖人たちの祝賀」「聖体礼儀」「通常奉献文」「詩編150」「礼拝賛歌の結び」という順に祈りがささげられた。
「聖人たちの祝賀」では、聖母マリアから始まり、洗礼者ヨハネ、最初の殉教者聖ステファノ、使徒聖マルコに続き、アンティオキア総主教、聖セウェルス、アレキサンドリア教皇、聖ディオスコロス、聖アタナシウス、聖ヨハネ・クリュソストモス。さらに聖テオドシウス大帝、聖テオフィルス、聖デメトリオス、聖キュリロス、聖バジル、聖グレゴリオ、さらに歴史上の公会議に参加した司教や、その他の多くの聖人たちの名前が読み上げられた後、「聖人たちの祈りと懇願を通して、私たちを憐れんでください。私たちに呼び掛けられている、あなたの聖なる御名にかけて、伏してお願いします」という言葉に続き、司祭と会衆の間で祈りが交互にささげられた。
最後に祝福されたパンが会衆全てに手渡された。
この日は、日本各地からコプト正教会の信徒が集まった。タドロス・マンドゥさんと妻の永久道代さんは2歳の希衣(マリイ)ちゃんと、6カ月の円空(マルク)君の家族4人で広島から新幹線とレンタカーを使って駆けつけた。
マンドゥさんは「4年前に日本に来てから日本中コプト教会を探したけれど見つからず、普段は広島市内のカトリックの教会に通っています。でも私たちの教会ができてうれしい。本当にうれしいです」と笑顔で語った。
礼拝のあとは、3階のホールで、同教会とカリスチャペルの信徒やこの日訪れた会衆が集まって昼食を兼ねた懇親会が行われた。この日の食事は、パスタとニンニク入り焼き飯「コシャリ」にひよこ豆にトマトのソース、ひき肉入りピタ、さらにのり巻きといなりずしと不思議な(?)エキュメニカルな組み合わせ! しかし、どれも素晴らしくおいしかった。
そして“St. Mary & St. Mark Coptic orthodox church(聖母マリア・聖マルコ・コプト正教会)Japan opening ceremony 2016-7-18”と英語と日本語で書かれたケーキに、村上牧師とダニエル司教、信徒や子どもたちが一緒に入刀して開堂を祝った。
ダニエル司教が本紙にメッセージを寄せてくれた。
「私たちが日本に来て教会を開けたことに、日本の全ての教会とそのリーダーの方に感謝を申し上げたいと思います。私たちを姉妹教会として歓迎してほしいとお願いしたいと思います。ここはコプトの教会ではなく、私たちと皆さんの教会です。今日は長い道のりの第一歩にすぎません。私たちは1つの家族です。共に愛し合い、分かち合いましょう。教派やキリスト教徒であるかどうかにかかわらずに愛し合いましょう」
同教会には今後、司祭が常駐し、定期的に礼拝が行われる、ホームページもこれから制作する予定だという。教会への問い合わせは、日本語または英語で今出ナンシーさん(電話:0858・27・0909、FAX:050・3651・3638、メール:[email protected])まで。住所は京都府木津川市相楽清水2−1。JR片町線西木津駅から徒歩約5分、近鉄京都線山田川駅から徒歩約10分。