紀元後43年に行われた使徒聖マルコの説教を受けてエジプトで始まったとされるコプト正教会。そのオーストラリア・シドニー教区が、2日午前10時から午後12時半まで、同教区から来日したダニエル司教とジョシュア司祭の司式により、基督兄弟団成増教会(東京都練馬区)で礼拝を行い、ローマ・カトリック教会や聖公会の信徒を含む14人が参祷した。このうち、ダニエル司教は本紙に対し、日本の教会指導者へ向けたメッセージを語った(記事後半部分に全文あり)。2004年から日本で活動してきた同教区は、7月に京都府木津川市にある教会堂を日本で初めてコプト正教会の会堂として正式に使い始めるという。
午前10時、ジョシュア司祭が振りまいた乳香がチャペルの中を漂う中、英語とコプト語でジョシュア司祭とコプト正教会の信徒1人が、それぞれタブレットやスマートフォンに入った祈りの式文を、独特な抑揚を付けて朗々と歌うように唱えていた。
この礼拝に最初出席していたのは、ジョシュア司祭とこのコプト正教会の信徒、そしてエチオピア出身の女性2人とその子どもたち2人の計6人。その後、10時半過ぎにフィリピン出身の女性3人がさらに加わったが、ダニエル司教が来るまで待つようにとジョシュア司祭とそのコプト正教会の信徒から告げられると、3人のうち2人の女性がいったん退席した。
10時45分ごろ、ダニエル司教が数人の男女らとともに入堂し、9人に増えた会衆らと英語であいさつ。そしてダニエル司教は会衆に対し、同教区が木津川市にある教会堂を購入する契約に署名したと語った。この教会堂は、最近まで単立ペンテコステ派のカリスチャペル京阪奈として使われていた3階建ての教会堂である。
その後、信徒2人が日本語と英語およびコプト語で書かれた礼拝式文集を会衆に配布した。式文集の最初のページには日本語と英語で、「4世紀に聖バジルにより書かれた」「福音筆者マルコは1世紀にコプト正教会を創立した」と書かれていた。
この式文集には、奉納の儀、感謝の祈り、聖職者の罪の赦(ゆる)し、執り成しの賛歌、聖書朗読、聖三祝文の賛歌(アギオス)、福音書の祈り・・・と続いて記されていた。
そして会衆は共に、ニケア・コンスタンティノープル信条とほぼ同じ内容の「オーソドックス使徒信条」を英語で唱えた。式文集にはさらに、和解の祈り、奉献文(アナフォラ)、奉献式、七つの小さい祈り、聖人達の祝賀、聖体礼儀、通常奉献文、詩編150、礼拝賛歌の結びが続いて掲載されていた。
「キリエ・エレイソン(主よ、憐れみたまえ)、キリエ・エレイソン、キリエ・エレイソン・・・」と、ダニエル司教がギリシャ語で3回歌うように祈ると、会衆は「Lord, have mercy(主よ、憐れみたまえ)、Lord, have mercy, Lord, have mercy・・・」と歌うように祈った。これが数回繰り返された。
11時過ぎ、さらにもう1人の信徒、今出(いまで)ナンシーさんが会衆に加わると、聖書朗読が行われ、英語訳聖書(新欽定訳=NKJV)から、使徒言行録6章5~11節、ヨハネの手紙一4章18~21節・5章1節が読み上げられた。
その後、ダニエル司教とジョシュア司祭は祭壇の上に置かれた箱にぶどう酒を入れて、パンを神にささげた。「箱はモーセの十戒(契約の箱)を意味するシンボル(象徴)です。祈りの途中でそれはイエス・キリストの聖体(体と血)になる(ことを意味する)シンボルです」と、この礼拝の取材を依頼してきた今出さんが本紙記者に説明してくれた。そのパンとぶどう酒は後で、聖体礼儀のときに信徒らがいただくのだという。
祭壇の周りを回っていたダニエル司教とジョシュア司祭はその後、祈りを朗々と歌うように唱えながらイエス・キリストの聖画を持って乳香を振りまき、礼拝室内の席の周りをゆっくり3回、反時計周りに歩いて回っていった。その頃に、エチオピア出身の男性がもう1人会衆に加わり、一部の信徒は胸に十字を描いて聖画に接吻し、ひざまずいた。
「お香は、天国にささげる祈り。聖人の祈り。聖人は私たちのために祈っているんですね。悪から守ってくださる」と、エジプト人と日本人の両親を持つという今出さんは語った。
今出さんによると、祭壇に置かれた聖画には、聖人やイエス・キリストの聖画もあるという。「聖人は私たちと共におられる。家族の写真があると家族を近く感じる。それと同じ。共に祈ってくださっている」と付け加えた。
やがてダニエル司教が朗々と歌うように、ヨハネによる福音書17章18~21節を朗読した。「私は聖書朗読の間、帽子を脱ぎました。なぜだか分かりますか? それは私たちが聖書に敬意を払っているからです。司教が聖書を朗読しているときは、司教の冠は脱がなければならないのです」とダニエル司教が説明し、英語で説教を始めた。
「家の中で女性の役割はとても重要です。教会の中でも女性の役割はとても重要です。自分の体を気遣う必要があります。そしてキリストをあなたの人生の中心にする必要があるのです。そしてあなたがたは組として働く必要があるのです。あなたがたはお互いに愛し合う必要があるのです」と、ダニエル司教は説いた。
「『私はエジプト人です』とか、『私は日本出身です』などと言わないこと。私たちは皆、神の子たちなのです。私たちは誰をも愛するのです。そして私たちは日本の人たちを尊敬しています。彼らはオーストラリアの人たちのように、とても良い人たちです。彼らは私たちがここに来るのを歓迎してくれました」と、ダニエル司教は話した。
「ご存じの通り、この教会は私たちの教会ではありません。私たちには東京に教会がないのです。でも、日本の人たちが私たちを歓迎してくださったのです」とダニエル司教。「一つ事実をお話します。初めは、(オーストラリアの)シドニーにもコプト正教会が一つもなかったのです。すると、カトリック教会とプロテスタント教会が私たちを歓迎してくださったのです。今ではシドニー教区に、私たちは41のコプト正教会があるのです。想像できますか? もし私たちの兄弟であるオーストラリア人が最初の場所を提供できなかったら、私たちはこれらの教会を持つことはなかったでしょう」と続けた。
「ですから、私はあなたがたに、日本の人たちに敬意を払って彼らのために祈ってほしいのです。同時に、あなたがたの愛を彼らに示してほしいのです。彼らは良い人たちなのです」と、ダニエル司教は付け加えた。
その後、会衆は「あなたに平和があるように」と握手してあいさつ。ダニエル司教とジョシュア司祭は祭壇に向かって祈りを唱え続けた。
この時点で、参祷者は大人の女性が9人で、そのうちフィリピン出身のカトリックの女性が4人、聖公会の日本人女性が1人、その他はコプト正教会の信徒で、他に男性はエチオピア人が2人、加えて男の子が2人、女の子が1人の合計14人に増えていた。
「私たちはあなたを賛美します。私たちはあなたに仕えます。そして、私たちはあなたを礼拝します・・・」とジョシュア司祭が祈ると、会衆の一部はひざまずいて祈った。
奉献文でジョシュア司祭が英語で、「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、あなたは本当に私たちの主、私たちの神。あなたは私たちを形作り、創造して、私たちを喜びの国、天国に置いてくださいました」などと祈った。
続く奉献式でジョシュア司祭が、「イエス・キリストは私たちのため、この神聖なる秘義をお定めになりました。その秘義とは、キリストが世を救うため、ご自分を死に引き渡されたことです」と式文を読み上げると、会衆が「信じます」と応じた。ジョシュア司祭は「キリストは、清く、染みも汚れもない、祝福に満ちた、命の源であるその御手にパンを取り・・・」と続けた。
続く「七つの小さい祈り」で、ジョシュア司祭は「おお、師よ。私たちの心と体、霊の浄化のために、あなたの聖性に預かれる者としてください。こうして私たちが一つの体、一つの心となり、世の初めからあなたを喜ばせてきた諸聖人の遺徳を分かち合うことができますように。おお、主よ。唯一で、聖なる普遍の使徒伝承のあなたの教会を心に留め、平和で満たしてください」と祈り、会衆が「主よ、憐れみたまえ」と応えた。
また、「主よ、私たちの栄えある司祭であり、大主教、総主教であられるババ・タワドロス2世を心に留めてください。また、司教アンバ・ダニエルを心に留めてください・・・」「あなたの聖所である、この地が安全であることを、おお、主よ。心に留めてください」などとジョシュア司祭が祈り、会衆がこれに応えた。
そして「聖人達の祝賀」では、ジョシュア司祭がコプト正教会の諸聖人を記念して祈りをささげた。「世の初めからこれまであなたをずっと喜ばせてきた聖人たち全てを憐(あわ)れんで心に留めてください。私たちの聖なる教父、総主教、預言者、使徒、説教家、福音史家、殉教者、迫害に遭って信仰を守り通した人、信仰を極めた諸聖人、これら全ての人を心に留めてください・・・」
次に聖体礼儀の祈りをジョシュア司祭が呼び掛けた。「天地万物の創造主、私たちの主、神なる救い主イエス・キリストの父である神に再び感謝をささげましょう。イエス・キリストは、私たちをこの聖所に立たせ、両手をささげて聖なる御名に仕える者としてくださったからです。また、私たちが御聖体と神聖で不滅の秘義を受けることができる者にしてくださるよう願いましょう」と、ジョシュア司祭が式文を読み上げると、会衆は「アーメン」と応え、聖なる御聖体に礼拝をささげ、キリストの御血を尊いものとした。
そして通常奉献文でジョシュア司祭が、「おお、主よ。私たちの主なる神、偉大にして永遠、輝かしい栄光に包まれたお方です。あなたはご自分の契約を守り、心から神を愛する人に憐れみを絶やされません」「万人の命である私たちの主、あなたの御独り子イエス・キリストを通して、あなたは私たちを罪から贖(あがな)われました。あなたは、あなたの懐に逃げ込む人の助け、あなたに向かって泣き叫ぶ人の希望です」などと祈ると、会衆は「主よ、憐れみたまえ」と繰り返し応えた。この通常奉献文では、主の祈りが英語で行われたが、その後、ジョシュア司祭による祈りでは時折コプト語も使われた。
そして、詩編150で一同が主を賛美すると、聖体礼儀が行われ、コプト正教会の会衆は子どもたちも含めて、ダニエル司教とジョシュア司祭の前に列を作って、イエスの御血(おんち)と御体(おんからだ)を2人から受けていた。2人が自ら聖体を受ける間、フィリピン人の会衆がフィリピンの聖歌を、エチオピア人の会衆がエチオピアの聖歌を手拍子を取りながら、それぞれ歌っていた。
ダニエル司教が聖水をまき、会衆に祝福があるよう祈ると、会衆が再び主の祈りを唱え、三位一体の神が会衆と共にあるようにとダニエル司教が祈って、礼拝を終えた。
終了後、ダニエル司教はカトリック信徒も含めた会衆に対し、「良いお知らせがあります。ローマ教皇フランシスコとコプト正教会の教皇(タワドロス)が会談をされました。今や、私たちは対話をしているのです。コプト正教会の群れとカトリック教会の間の諸問題が解決されるように、そしていつか私たちが一つの教会になれるように、そして相互に聖体拝領(聖体礼儀)を受けられるようになることを、私たちは望みます」と語った。
また、聖公会からの参祷者も意識して、「そうです、私たちは聖公会とも対話をしています。これら全ての諸教会が一つになれますように。ただし、それは聖書と使徒たちの伝承に基づいてですが・・・」と語った。
そしてダニエル司教は祝福した残りのパンをちぎり、会衆一人一人に「あなたの名前は?あなたに神の祝福があるように」と言いながら、それを手渡していた。
この礼拝に参祷した日本聖公会の女性信徒は本紙に対し、「素晴らしかったです。西方系教会に比べてキリスト教界内でさえ認識が薄い東方諸教会への理解が広がるきっかけになればと思います」などと感想を語った。
礼拝終了後、ダニエル司教は本紙に対し、日本の教会指導者たちに下記のようなメッセージを英語で語り、歓迎を求めた(日本語訳は本紙による)。
父と子と聖霊そして唯一神の名において アミン
このメッセージをお読みくださっている全ての方々へコプト正教会シドニー教区 ダニエル司教
私は今日2016年6月2日、日本におります。私は日本の全ての教会指導者の方々にメッセージを送りたいと思います。私たちが日本に来てあなたがたの教会で祈るのを認めてくださったことに、感謝を申し上げたいと思います。そして私があなたがたにお願いしたいのは、私たちを姉妹教会として歓迎してほしいということです。というのは、私たちには、鳥取県や京都、大阪、そして広島など他の場所に、コプト共同体が幾つかあるからです。最後に教会指導者の皆さん、私はここで、ぜひともあなたがたの兄弟でありたいと思いますし、そして私はいつの日か私たちの教会を日本キリスト教協議会にぜひ登録したいのです。そして私たちは共に、私たちの主イエス・キリストの御名の栄光のために働きます。各々の教会指導者の方々、ありがとうございます。神があなた方を祝福してくださいますように。そして私のために祈ってください。
ダニエル司教によると、鳥取県倉吉市の聖ジョージ日本コプト正教会はコプト正教会の正式な礼拝の場所ではなく、倉吉市で礼拝の場所を見つけることができなかったが、木津川市でようやく見つけることができたのだという。
なお、コプト正教会は世界教会協議会(WCC)の創立時からの加盟教会の一つで、オーストラリアでも同教会シドニー教区および付属地域、メルボルン教区および付属地域はオーストラリア教会協議会(NCCA)に加盟している。
ダニエル司教がこの日、本紙に提供した小冊子『コプト正教会に関する質問と答え』(英語原書『Q&A on the COPTIC ORTHODOX CHURCH』、St. Mark’s Press、シドニー、2015年9月)は、1)歴史、2)殉教、3)秘跡、4)修道院生活、5)断食、6)福音伝道、7)礼拝、8)聖人たち、9)伝承――の9つの章からなっている。そして最後に補遺として、「なぜ私はキリスト教徒にならなければならないのか?」が記されている。しかし、これは日本では販売されておらず、日本語訳もまだ出版されていない。
ダニエル司教とジョシュア司祭は礼拝後、日本聖書協会(東京都中央区)を訪問すると語っていた。
コプト正教会シドニーおよび付属地域の教区の英文公式サイトはこちら。また、木津川市で7月18日から正式に始まるコプト正教会の住所は、京都府木津川市相楽清水2−1。JR片町線西木津駅から徒歩約5分、近鉄京都線山田川駅から徒歩約10分。問い合わせは、日本語または英語で今出ナンシーさん(電話:0858・27・0909、FAX:050・3651・3638)まで。