米国の著名なオペラ指揮者、サラ・コールドウェル(1924〜2006)がかつて口にした言葉に、「どんなことからでも、どんな時にも、どんな人からでも学びましょう」というものがある。これは、リーダーたちが従うべき素晴らしい教訓であろう。私たちが型通りの教育方法や、自分の好きな人、自分の尊敬する人、または自分がついていきたいと思える人だけからしか学ぶことをしないならば、日常にあふれる絶好の学習の機会を逃してしまうことになる。成功よりも、失敗からずっと多くのことを学べるのと同じで、私たちは、好きではない、あるいは私たちが同意できない人々から学ぶことの方がたくさんあるのだ。
というわけで、筆者は次期米大統領に選ばれたドナルド・トランプ氏を支持していなかったので、彼から学べることがたくさんあるということだ。ではここで、キリスト教の指導者たちが、トランプ氏から、また彼の選挙活動から学べることを見ていきたい。
1. 高く目標を定め、自信を持ち続ける
最初、トランプ氏が大統領選への出馬を発表したとき、多くの人々は笑った。彼は、真面目な候補者たちの中で面白い見世物と見なされた。しかし、有力候補者らが勢いを失い、選挙運動が活発になると同時に、トランプ氏は勢いをつけ続けた。そしてトランプ氏は、スキャンダルの暴露、泥沼の疑惑、そしてあらゆる著名人からの反対があっても気にしなかった。今、彼のことを笑っている人は誰もいない。
自信というものが深刻に欠けている教会にとって、これは本当に面白く、奇妙で、インスピレーションを与えてくれる話だ。不屈の精神で何かを十分に求め続けるなら、駄目そうに見えることに対抗することも起こり得る。多くの教会指導者たちは、教勢の減速はもう取り消せないものとして認めてきた。トランプ氏はそのようなことは決してしないだろう。
2. 「現実」を受け入れることを拒む
選挙戦の間、トランプ陣営が、たとえヒラリー・クリントン氏が勝利しても、結果を受け入れないことを繰り返し示唆していたことは衝撃的だが、私はそれが一種の粘り強さを示していると思う。あなたが正しいと本当に信じているなら、なぜ民主的な選挙で負けるというようなことで、それを追求し続けることをやめるのか? 今、英国は、政治家たちが望まず、ほとんどの有権者もそれが良いアイデアかどうか疑問に思っているにもかかわらず、欧州連合(EU)を離れる準備を進めている。もしトランプ氏が英国の残留派だったら、英国のEU離脱問題(ブレグジット)は、数十年にわたり、官僚主義の法的な戦いで縛られることになったであろう。
教会は、トランプ氏が実証した、深く考えずに気楽に戦う方法を見習うことができる。大局的に見れば、礼拝出席者が一時的に落ち込むかもしれない。誰もが好きではない定期的なメディアスキャンダルや心配事で傷つくかもしれない。しかし、それらのことで、未来に対して楽観的であることをやめるべきではない。結局のところ、「信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認すること」(ヘブライ11:1)なのである。私たちは何があっても御国を追い求め続けるべきだ。トランプ氏が牧師ならそうするだろう。
3. 自分の間違いを認める
トランプ氏の選挙運動での最も魅力的な要素の1つは、自分の過ちを素直に認め、またその過ちをはねのけるという能力を身に付けていたことだ。悔い改めと赦(ゆる)しこそないが、これは少なくともキリスト教の恵みに関する理解の途中まではいっている。 彼は彼自身が完璧でないことを知っている人である。彼が完璧ではないという事実を彼に思い出させるメディアの繰り返される試みは、欠陥のある天才としての彼の(個人的に生成された)評判を高めただけである。
確かに、トランプ氏は映画「ミッション」の俳優ロバート・デ・ニーロではないが、少なくとも彼は少しの間違いを見せることに関して準備ができていた。一部のキリスト教指導者たちが全く間違いのないように見えることは、礼拝堂に座っている一般の教会員たちに、恐ろしく価値がない者と感じさせてしまい、その指導者の内の1人が失敗すると大きな危機を引き起こす。もしかしたら、キリスト教の指導者たちはトランプ氏のように、自身の欠陥をもう少し出してみてもいいかもしれない。
4. 教会の力を理解する
英国のキリスト教徒として、「クリスチャン票」の衝撃と影響は魅力的だ。だから、トランプ陣営もその獲得を狙った。英国のポスト・キリスト教的背景では、文化に影響を与え、文化を形作るような力を持つ教会を簡単には想像することができない。何ら知識のない傍観者である筆者にとっては、さまざまな主要な福音派の指導者たちが、共和党候補者への支持を取り下げようと決めたとき、選挙戦全体で何かが動いたように見えた(ありがたいことに、スティーブン・ボールドウィンは最後までトランプ氏を支持したが)。
これは、米国の教会が、もし一緒に協力するなら、本当に何かを実現できるかもしれないことを想像させる。国家を脅かす人種差別を打ち砕き、偏見と闘い、銃の繁栄の惨事を打ち負かし、貧困を終わらせる潜在的な可能性は驚異的だ。選挙が、「キリスト教の価値観」が熱心にまだ米国中で感じられることを示した。そして今、教会がその良いところを引き出し、あらゆる社会変革をもたらすために協力し合う時が来たのではないだろうか。
ドナルド・トランプ、この諦めない人について考える中で、私は突然、教会の力について希望と期待でいっぱいになった。米国の教会よ、今がその時だ。(トランプ氏のスローガン「再び偉大なアメリカを」にかけ)再び偉大な教会を。
マーティン・サンダース(Martin Saunders)
英国のキリスト教青年団体「ユーススケープ」の最高責任者(CEO)代行。英国クリスチャントゥデイ協力編集者。