福島第一原発事故により避難区域以外の地域から避難している人たちへの避難用住宅の提供が、来年3月で打ち切られることを受け、避難住宅問題連絡会は20日、「避難住宅打ち切り反対 福島原発事故避難者の院内集会」を参議院議員会館(東京都千代田区)で開催した。集会には、全国の避難者、支援者、国会議員など約200人が集まり、避難区域以外の避難者にとって唯一の支援である避難用住宅の打ち切りに反対の声を挙げた。
同連絡会は、福島原発事故のため、全国のみなし仮設住宅(公営住宅など)に避難している避難者らで組織する全国15団体の連絡会。カトリック信徒らによるボランティア団体「きらきら星ネット」も避難当初から支援を続け、避難用住宅打ち切り反対の街頭署名活動を6月からずっと続けている。この日の集会でも事務局の信木美穂氏が司会を務めた。
集会では、同連絡会事務局長の鴨下祐也氏が開会のあいさつに立ち、避難用住宅の打ち切りが避難者の気持ちを無視した一方的な決定であることを述べ、「このままでは来年3月から避難者消去が始まってしまう。原発事故避難者が新たな生活の危機に陥らぬよう力を貸してください」と語った。
続いて、東京災害支援ネット(とすねっと)代表で弁護士の森川清氏が、避難住宅の現状について実際の調査結果から報告した。この中で、避難者の7割が打ち切り撤回を希望していることを伝え、その理由として、安全性の不安とともに、生活費負担の問題が大きいことを明かした。また、都営住宅への入居は制度的にも非常に困難であることを強調し、「避難住宅を打ち切れば、2次被害を招くことは明らか。ぜひ、避難者の声に耳を傾け、民意の在り方について検討していっていただければと思っている」と語った。
集会では、実際に避難している当事者からの報告もリレー形式で行われた。東京、埼玉、千葉、大阪、京都、広島、山形、北海道などから避難者のリーダーや、母子避難をする母親ら10人が登壇した。
広島県尾道市に避難している長野寛さんは、震災後、自身や家族だけでなく、多くの福島の隣人がつらい目に遭っていることを切実に訴えた。また、放射能による甲状腺がんにも言及し、「人の健康を守るため、災害救助法を国民が信頼できるものにしてほしい。3・11のことを振り返ったときに、誰もが参考になると思える支援をしてほしい。今、住宅支援は必要です。支援を打ち切らないでください」と訴えた。
また、郡山市から大阪市に母子避難をしている森松明希子さんは、「加害者側が勝手に帰還時期を決めないでほしい。帰還時期を決めるのは被災をした当事者です」と語った。さらに、「ここに集まっている避難者が、見えない原発事故の被害を見えるものとしている。たとえ住宅支援を打ち切っても、私たちは原発事故の被害者として存在し続ける」と話した。「住宅支援を打ち切ることは、お母さんが身を切る思いで選択した避難を排除し、強制送還をすることに等しい。こんな非人道的なことが許されていいわけがない」と声を震わせた。
また、この5年半にわたる避難者のつらい思いを伝え、「放射能被ばくから免れて健康を享受するというのは、支援をしてもらうこと以前の問題で、そもそも人に与えられた基本的人権」と述べた。そして、「声を上げたくても、上げられない被災者がいる。避難したくてもできない人もいる。本当に被害を受けてきた人たちの声に耳を傾けてください。住宅の支援を打ち切ることはやめてください」と切望した。
この集会には、多くの国会議員も参加した。初めに登壇し、発言したのは、日本共産党のいわぶち友氏。福島県出身だといういわぶち氏は、「政府は、原発事故の被害を終わったことにしている。しかし、避難住宅の打ち切りは、命に関わる問題。避難されている人が、いつどんな選択をしても、支援する国が責任を果たせという声を上げていきたい」と全面的に避難者を支援していく考えを示した。
福島原発事故対応について国会で追及を続ける自由党の山本太郎氏は、まだ現状を変えられない自身の無力さを謝罪した。それでも今日の集まりに参加し、国の不条理さと闘う力をもらったと話し、正しい賠償がされるように国会活動を続けていきたいと決意を述べた。民進党の大島敦氏は、避難者のための唯一の法律である「原発事故子ども・被災者支援法」が成立した時の熱気が、現在ではなくなっていることを明かし、今こそ議員が一致団結で闘っていかなくてはならないと話した。
その他にも、菅直人元首相、山崎拓元自民党副総裁、社民党の福島瑞穂氏、日本共産党の池内さおり氏、田村智子氏らが登壇し、それぞれが同様に、「住居」という最低限の支援を打ち切ることは絶対に許されない、民意を結集させ、長期の無償住宅支援実現を目指して共に闘っていくことを呼び掛けた。
集会の最後には、参加避難者を代表して「福島原発かながわ訴訟」原告団長の村田弘さんが、安倍晋三首相と国会議員に宛てた「原発事故避難者からのアピール」を読み上げた。全文は次の通り。
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原発事故避難者からのアピール
国会議員のみなさま
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
福島県は、平成27年6月、避難指示区域以外からの避難者について、平成29年3月末をもって、みなし仮設住宅を含む被害救助法に基づく応急仮設住宅の提供を打ち切ることを発表しました。さらに、同年9月に避難指示が解除された楢葉町についても、福島県は、今年7月、同様に、平成30年3月末をもって応急仮設住宅の提供を原則打ち切ることを発表しました。政府は、福島県の方針を支持しています。避難指示の解除が進んでおり、まだ発表されていない地域でも、早晩打ち切られるのではないかといわれています。
しかし、原発事故避難者の多くは、応急仮設住宅の打ち切りの撤回を求めています。
原発事故は収束していません。多くの避難者は事故前の汚染のない状態に早く戻ってほしいと願っていますが、それには程遠いです。様々なリスクを考え、避難を続けたいと考える避難者が多いです。子どもや若者を抱える世帯では、特にその思いが強いです。
避難世帯は避難に伴う生活費増に苦しんでいます。母子避難者のいる世帯では深刻です。特に、避難指示区域以外からの避難者にとっては、応急仮設住宅の提供が唯一の支援になっており、これがなくなることは死活問題になります。そこで、本日、ここに集まった全国の原発事故避難者は、共同して、国に対して、以下の通り要望します。
(1)福島県に対しての災害救助法に基づく行政指導を行い、避難指示区域以外からの避難者に対して、平成29年4月以降も、災害救助法に基づく応急仮設住宅の提供を打ち切らず、今後も避難用住宅の無償提供を続けさせること。
(2)すでに民間住宅や公営住宅に移った者に対しては、国が責任をもって、その住居費の全額を補助すること。
(3)平成29年4月以降、やむなく応急仮設住宅にとどまらざるをえない避難者に対しては、国として、強制的な立ち退きをしない方針を示し、各避難者受け入れ自治体にその旨要請すること。
住まいは人間の生活の基盤です。わたしたち避難者から、住まいを奪うようなことはしないでください。どうか、わたしたちの要望を実現してください。
本日の集会に参加された国会議員の皆様及び市民の皆様のご賛同をお願い申し上げます。
平成28年10月20日
避難住宅打ち切り反対 福島原発事故避難者の院内集会 参加避難者一同
参加避難者代表 村田 弘