都内とは思えない美しく広大なキャンパス
間もなく創立100周年を迎える自由学園(東京都東久留米市)では9月18日、秋の南沢フェスティバルが今年も開催された。同フェスティバルは春と秋の年2回、卒業生や関係者が組織する「協力会」が主催し、学園の魅力を知ってもらおうとキャンパスを開放する。秋雨が降る中、大勢の人が南沢の地を訪れ、自由学園の魅力に触れながら思い思いの時間を過ごしていた。
人間の土台を創る独自の少人数制一貫教育を実践
自由学園は1921年、日本を代表する教育者、羽仁吉一・もと子氏により創立された。戦時中の厳しい時代にあっても「自由・協力・愛」を訴え続け、真の教育を揺らぐことなく継承し続けてきた学校だ。
その教育理念は「生活即教育」と提唱されたように、自労自治(じろうじち)を営みながら1日24時間全てが勉強であると教える。この独自の教育方針は、国内だけではなく海外でも注目されている。幼児生活団から大学部まで約800人が学ぶ中、協力会がそれを支え続けているのだ。
「よい社会」をつくろう。自由学園協力会が配るパンフレットには、そうつづられていた。ページをめくると、鮮やかな学園のキャンパスと生徒の笑顔が写っていた。卒業生たちが自分の母校を愛し、思う。活動には「支え続けます」と記されていた。
正門には大勢の人が集まっていた。東京とは思えない広大な敷地には、緑豊かで美しい木々が一面に広がっている。校内の多くの建物は、創設時から変わらぬ瓦を使用している。豊島区池袋にある自由学園・明日館(みょうにちかん)は、20世紀を代表する世界的建築家である米国のフランク・ロイド・ライト氏(1867~1959)が設計し、国の重要文化財に指定されている。
初等部「よくみる よくきく よくする」は初等部教育の根幹
最初に訪れた、初等部は「こども広場」として開放され、味わいのある瓦校舎の下で来場者が楽しそうに教室を見て回っていた。生徒が大きな声で「ポニーに乗れます。雨が降ったら中止になります。いかがですか!」と看板を持ちながら笑顔で呼び掛ける。「やっぱり人気があります」、彼はそう答えた。ポニー乗り場は家族連れが集まっていた。「パパと乗ります」。小さな子どもを連れた母親は卒業生だという。
「コルクの積み木で遊ぼう」「作ってみよう!もしもし糸電話」など、ワークショップが盛りだくさんだ。人々の学園に対する関心の高さが伺えた。
女子部「思想しつつ 生活しつつ 祈りつつ」
女子部へ向かう。緩い坂を下っていくと広く美しい大芝生と女子部の校舎が広がる。足元は石畳が敷き詰められている。瓦のモノトーンが味わい深く空間の芸術を感じさせる。女子部の生徒たちが子どもの顔にペイントを施していた。
「野の花祭」は、生徒たちの手で準備し、運営しているという。女子部ではスタンプラリー、教室アート、部活動の発表や展示が行われていた。お化け屋敷コーナーは「予想以上に怖いみたいです」と生徒たちも苦笑い。お化けに扮した生徒が窓から手を振ってくれた。
食堂では工芸品や手作りの食べ物も販売され、来場者で満席だった。女子部を紹介するビデオ上映も行われていた。外で忙しそうに綿あめを作る生徒にカメラを向ける。「休む間がないです。すごい人気です」、そう語るのは中等科2年生の生徒。部活動の紹介、教室アート、教師バザー、スタンプラリーなどが楽しめた。質問にもしっかり答える姿が非常に印象的だった。
男子部「自ら考え、自ら学び、自ら発信する力を育てる」
最後に男子部を訪ねた。シンボルである体育館。教室の中ではスライム作りコーナーがひときわ人気だった。たくさんの家族連れが集まり、在校生と教員が分かりやすく説明をしていた。担当する教員は「たくさんの人が来てくれてよかった。上々です」と満面の笑みだ。参加する子どもたちも夢中になって手を動かしていた。
別の教室では「文字の見えるピラミッド」コーナーで、生徒が作り方や図形の魅力について説明をしてくれた。数人の在校生に話を聞けたが、学校が大好きだと語る。1年生(埼玉県飯能市)の生徒は「学園の生活はとても楽しいです」と答えた。
体育館では子どもたちがマットの上で遊んでいる。生徒が安全をしっかり見守っていた。男子部の生徒は全員が丸坊主。清潔感があり凛々(りり)しい雰囲気が印象的だった。
自由学園は海外交流が盛んな学校だ。デンマークのオレロップ体育アカデミーとは半世紀にも及ぶつながりがある。ネパールやイギリスのウィンチェスター・カレッジとも交流が深い。
キリスト教主義の同校では、入学式で「あなたがたが入学したのは自由学園をよくするためです。先生はただ1人、イエス・キリストです」と学園長より語られる。
「われわれは、確かによい社会を創造(つく)り得る」、羽仁もと子氏は自身の教育著書でこのように述べている。南沢フェスティバルではその言葉の通り、生徒たちが自らの姿で校風を証ししていた。
「本物にふれ、自ら考え、問題を発見し、それを解決することができる力を養う」。協力会を説明するパンフレットにそう書かれていた。
ここは、机の上の勉強だけでなく、農業や養豚、清掃に管理、さまざまなことを体験できる貴重な学校であることがよく分かった。子どもたちがイキイキし、積極的に自ら進んで学ぶ姿も垣間見ることができた。
間もなく創立100周年を迎える同校が、次世代にもこの教育理念と伝統を継承していくことを願う。協力会が主催する「南沢フェスティバル」は、自由学園の美しい自然と触れ合いながら、各部ごとの取り組みを肌で感じることができる貴重な場だと感じた。
家族連れが「いい学校だったね」と話しながら家路に向かっていた。多くの人が学園の魅力に触れることができたのではないだろうか。