6日に行われたリオ五輪競泳女子100メートルバタフライの予選に、シリア人難民でクリスチャンのユスラ・マルディーニ選手が出場した。マルディーニさんは、難民20人が乗ったボートを引きながら、トルコからギリシャまで泳いで避難してきた18歳の少女だ。
マルディーニさんは約1年前、シリアの首都ダマスカスから妹のサラさんと避難してきた。レバノンとトルコを陸路で縦断し、6人乗りのボートに他の難民20人と乗り合わせてギリシャへ向かった。
しかし途中、ボートのモーターが止まってしまい、マルディーニ姉妹ともう1人の女性が海に飛び込み、泳いでボートを引っ張ることに。3人はボートの転覆を防ぎながら約3時間半泳いで、エーゲ海東部にあるギリシャのレスボス島に到着した。
その後一行は、ギリシャから徒歩で1600キロの旅をし、最終的には列車とバスを使ってドイツに到着した。ベルリンで亡命の認可を受けたマルディーニさんは、その地で水泳選手として才能を開花させた。6日には、10人からなる難民選手団の一員として、最初の競技に臨んだ。
結果は1分9秒21というタイムで、準決勝進出には至らなかったものの、マルディーニさんの競技は見る人々の心を魅了し、リオ五輪で最も感動的な一こまとなった。
「全てが素晴らしかったです」「私が望んでいたのは、とにかくオリンピックで競技することでした。水の中はとても気持ち良かったので、それだけでうれしいです。優秀な選手たちと競技できて興奮しています」
母親が水泳のコーチをしていたため、マルディーニさんは子どもの頃から泳いでいたという。「水泳から離れていたのは2年間だけで、今はまだ以前のレベルに戻ったところです。でも、本当に喜んでいます」
マルディーニさんは、10日(日本時間11日)には競泳女子100メートル自由形の予選にも出場する。2020年の東京五輪も既に目標にしており、メダル獲得の好機と考えている。「水の中にいるときは、いつもの自分とは違います」。昨年の体験後は海で泳ぐことが怖くなったというが、「(プールで)泳ぐときには、一切の問題を忘れることができます。私にとって、水の中は別世界なのです」と言う。
クリスチャンホームで生まれたマルディーニさんは、世界的に有名なリオのキリスト像を見学したことについて、「息も止まるほど圧巻でした」と語った。
英BBCワールド・サービスの動画では、シリアから避難した当時の決意についても話している。「もしかしら、途中で死ぬかもしれないと思いました。でも私は、母国では(生きていても)死んだようなものでした。できることが何もなかったからです」