私は自ら記入した電話番号やID番号などに間違いがないかどうかを確かめるとき、何度も読み直すのではなく、必ず逆から読み返すようにしている。
例えば「0551353621」という数字を確認するときは、右側から読み返すのである。右から読んでも誤りが無ければ、誤りが無いと確信できる。これは昔ある先生から学んだことで、人の脳の認識には癖があるので、同じことを繰り返すだけでは過ちに気付かないとの教訓から来ている。
「0551353621」はわが家の電話番号であるが、あまりにも慣れ親しんでいるので、「0551353261」と書いてしまっても、「0551353621」に見えてしまう。しかし、脳の回路を変え、逆から読むと、「1263」と「1623」の違いにすぐに気付く。
同じように、「クリス」という名のボーイフレンドがいる女の子は、街で「クスリ」という看板を見たとき、それを瞬間的に「クリス」と読んでしまう可能性が高い。脳に「クリス」を求める癖が付いているからだ。
教会の牧師がとんでもない過ちを繰り返していたこともあった。日曜学校で「いつくしみふかき…」という子ども賛美歌を歌うとき、いつも大きな声で「いつくしふみかき・・・」と歌っていたのだ。当然子どもたちも先生に合わせて「いつくしふみかき・・・」と歌っていた。
その牧師は私がその誤りを指摘するまで全く気付いていなかったのである。本当は意味の通じない言葉なのに、脳の認識の癖が、正しい言葉として受け止めていたからだ。
われわれは自分の誤りに気付くのに、異なる脳、すなわち他からの指摘を必要とする。誰かが文章を書くとき、「proof reader(校正係)」の仕事が大切となる。なぜなら著者は、自らの癖から来る過ちに気付かないからだ。20冊ほどの本を出版してきた私も、同じことを経験している。
先入観、思い込み、自覚のなさなどが脳の認識に大きな癖をつけてしまう。酒飲みは「俺は酔っていない」と平気で言う。また悪者は自分を善人だと思う。ヨハネの福音書9:41でイエスは「もしあなたがたが盲人であったなら、罪はなかったであろう。しかし、今あなたがたが『見える』と言い張るところに、あなたがたの罪がある」と言っている。
原罪はわれわれの脳の認識をひどくゆがめてしまった。真理が見えないのに見えると錯覚し、逆に明確に示されている真実が全く見えなかったりする。
認識の大逆転を体験した人の1人は使徒パウロである。ダマスコに行く途中で、彼は迫害の対象そのもの、すなわちキリストと出会い、打ちのめされた。そして一時的に視力を失った。彼はその時、脳の大手術に匹敵する体験をした。その後の彼は、命を賭けてキリストと宣べ伝える人となってしまった。
われわれは信仰においてもビジネスにおいても、時々脳の回路を逆転させることが大切だ。そうすれば、自分の過ちや弱さに気付き、改善することができる。もし自ら逆転することが難しければ、他人の脳の認識に耳を傾ける必要がある。このようにビジネスの「proof reader」、あるいは人生の「proof reader」を持てば、自分の癖を直すことができる。
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