議員会館の待ち合わせ場所に、トレードマークのオリーブグリーンのスーツ姿で現れたのは民主党の牧山ひろえ参議院議員だ。偶然にも記者が持参したグリーンのペンケースを見て「これ!私のトレードマークと一緒ですね」と笑顔を見せる。
牧山氏といえば、このオリーブグリーンのスーツとまっすぐに挙手して発言する姿勢が印象的な議員だが、なぜこれほどまでオリーブグリーンにこだわるのだろうか。
「グリーンは環境です。子どもたちのために安全な環境を作りたい。オリーブは平和を意味しています。平和で安心して暮らせる世の中にしたい。だから毎日着ているのです」
幼稚園、小学校から大学まで、クリスチャンとして学び育った。隣人を助ける聖書の教え、博愛の精神に基づく姿勢は、国会議員となった今も変わらない。
小さい時に両親が離婚。小学校で受けたイジメ。その暴力で受けたけがの治療で病院へ通い、転校を余儀なくされる。父親との海外生活では、極貧の世界を目の当たりにする。盗みをした子どもが容赦なく手足を切断され、生活のために子どもが利用される。そんな悲惨な光景に衝撃を受けた。
「困っている人を助けるのは当然のこと、この思いを忘れたことはありません」。20代で葡萄会(ぶどうかい)というチャリティーの集いを立ち上げ、集めた募金で「国境なき医師団」や「国境なき子どもたち」に医療薬を送り続けた。
ある時、68万円ほど集まった寄付に「もっと多くあればさらにたくさんの命を救える、そのためには政治しかない!」と感じ、政治家の道へ。アフリカの50を超える国々から首脳級が横浜に集まったアフリカ開発会議(TICAD4)では、首脳らと意見交換を行い、アフリカにおける母子保健向上のために、日本発祥の母子手帳を広めることが効果的だと訴え続けた。
その後、国際協力機構(JICA)を中心に、アフリカの母子手帳普及プロジェクトが次々と立ち上がり、母子手帳の普及を支える人材育成や、病院施設などのインフラ整備、識字率向上の取り組みが着実に広がっている。
2児の母でもあり、子どもの教育や地域との連携にも強いビジョンを持っている。「川崎で起きた上村君の事件をよく思い出すのです」。多摩川河川敷の中学生殺害事件だ。
昔のように祖父母と暮らさない家庭が急増し、どうしても夜遅くまで子どもたちだけで家にいることが増えている。牧山氏は、そんな中でこそ地域との連携が、特に孤独な子どもや貧困の子どもたちを救えるのだと力を込める。ノートを取り出し、力強くペンを走らせた。「私が考えた助け合いのシステムを紹介します」
そこに描いたのは、貧困の子どもたちを中心に、定年退職した世代やお年寄り、さらに比較的時間のある大学生がトライアングル方式に助け合うという仕組みを説明したイラストだ。お年寄りは、自分が得意とする文化や伝統を学生や子どもたちに教える。学生は、勉強を子どもに教え、お年寄りの介護の手伝いなどをボランティアで行うというものだ。
一部で導入された地域があるそうだが、無償という点で関わる側が長続きしないため、ポイント制や大学の単位にも影響するようなシステムを導入するというのが牧山氏の独自案だ。
教育予算はカットされ、学校を統合し、大人数制のクラスを作ろうとする流れの中で、先生と子どもたちの関係は以前にも増して多様化してきている。だからこそ、心と心が通う教育環境、少人数制で先生の数も確保していくことが必要なのだという。クリスチャンとしての使命、政治家として「命を守る」ことをどこの委員会にいても忘れることなく取り組んでいきたいと力強く語った。
「平和ブランド日本。日本は世界へ誇れるものがたくさんある。その魅力を発信していきたい」。軍事力で他国と付き合うのではなく、憲法の平和ブランドによる日本ならではのやり方で「命を助けたい、守りたいのです」。
政治には、国民が全員参加で関われる窓口を開くことも大事だと語る。ハンガリーの1パーセント法という政策も紹介してくれた。ハンガリーは所得税の1パーセント分を好きなNPOなどの支援に活用できる制度があるという。牧山氏が予算委員会やその著作などで提唱したのは、ハンガリーの1パーセント法とは少し違っていて、1パーセントの税金の使途を納税者が選べるというもの。その後、ふるさと納税において似た制度が導入されたそうだが、確定申告の際に自分が関心のある分野に援助できるというシステムだ。
集まるお金は総予算で比較したら少ないかもしれないが、国民が自分のお金で訴えるだけにメッセージ性も強く、政府も気になるはず。確かに世論調査以上に正確な動向が分かる斬新なアイデアだ。これも、海外に長くいたからこそ持てる視点だろう。
例えば軍事、教育、福祉、雇用のどれか一つに投資できるなら、どれを選択するだろうか。政治に期待しないのではない、政治に自分が参加するからこそ期待しないわけにいかない、そんな新しい取り組みの一つだ。
さらには寄付文化の向上も目指す。日本は元来5千円が寄付金控除の適用下限額だったが、牧山氏の粘り強い働き掛けで今は2千円に下がった。海外のようにサラリーマンが自分の気持ちとして出せる額。それこそ1円、10円、100円と子どもでも参加できるようなシステムにすることで、誰もが政治に関わることができると話してくれた。
選挙区でもある地元神奈川県への思い
神奈川県の魅力について聞いた。「たくさん魅力があるので、どこからお話しをしたら良いのか分かりませんが」
牧山氏はツーリズム議連に入る中で、温泉の魅力について予算委員会で発表をしたことがある。当時、その発表に周囲の議員たちに笑われたというが、牧山氏は日本の予算委員会であっても世界が見ており、日本の温泉を知らない海外に発信する思いを持って発言しているという。
日本は本当に素晴らしい文化、魅力があり、例えば温泉にしても世界からすると東洋の神秘でもあり、珍しく思われている。当たり前だから笑ったのかもしれないが、案外日本人はその魅力に気付いていないのではないか。
被災3地と選挙区の箱根にある温泉の効用を調べてパネルで紹介した。このような対外的な取り組みも、海外を知る牧山氏ならではだ。被災地を忘れない心遣いも、きっと現地の人々に届くのではないだろうか。
取材は1時間以上に及んだが、終始和やかに生き生きと語ってもらった。輝かしい経歴を持ちながら、実は庶民的でユーモアあふれる性格というのも魅力の一つかもしれない。
好きな食べ物を聞くと、「私は納豆やトロロが大好きですね! なぜか粘りが強いものが大好きなのです」。子どもたちも納豆が大好きで、冷蔵庫には常に常備されているという。「オクラも毎週買っていますよ!」。こんな家庭的な会話からも人柄の良さが感じられる。
その牧山氏だが、国会のお蕎麦屋さんでは決まってトロロそばを注文するそうだ。牧山氏の政治に対する姿勢、クリスチャンとして誠実に向き合う性格も「粘り強い」の一言だ。
牧山氏は社会貢献や教育の分野のほかにも、最近では養子縁組制度の改革のために英国視察を行うなど、幅広く活躍している。無理のない国民の政治参加を目指す。課題は多いとしながらも「負けてられない」と、まさに「粘り強さ」がタラントとして生かされている。(注:タラント=福音書(聖書)の中で使われる用語で個々が持つ良い賜物、特徴)
幸せをつかむ社会とは?
幸せとは、人それぞれの捉え方があるが、やはり一番大事なことは雇用、暮らしの安定だという。長く暮らした米国は、日本のような国民皆保険制度がない。そのため、風邪をひいて病院へ行くという習慣がない。また、雇用も安定しておらず、収入も浮き沈みが激しい。
ところが日本だと、病気をしたらすぐ病院に行けるし、生活保護を受けている人も平等に治療を受けることができる。これも実は、日本だからこそできるすごいことなのだ。「帰国して日本はすごいなあと思ったのですよ。誇れる部分はなくさない。保険制度、安定雇用をもっと守りたいのです」
議員になると、委員会ごとにやるべき仕事は異なってくるのだが、どんな時も原点である「命を守りたい」という使命と、聖書の言葉にある精神に立ち返るのだという。どんな時も「人を助けたい、自分のつらかった過去の経験を生かしたい」。そう熱く語ってくれた。
「私はバッジを付けさせていただいた以上、自分の使命である『命を守る』政治を貫き、今後も子どもたちの教育に力を入れていきます」
「命を守りたい」。取材中、何度もこの言葉を繰り返した。この願いに、日本の子どもたちの将来や夢、世界中の子どもたちの未来が懸かっている。