特に若い世代のクリスチャンにとって、恋愛と結婚は信仰生活を送る上での非常に大きなテーマだ。にもかかわらず、教会の中でこのテーマを取り上げて共に考える機会はそう多くない。2月27日、日本基督教団東京教区東支区青年委員会は「神さま、この人でいいの?―クリスチャンの恋愛と結婚―」と題して、日本基督教団三崎町教会(東京都千代田区)で講演会を開催した。
講師は、青山学院大学総合文化政策学部准教授の森島豊氏。10人ほどだろうという主催者の予想に反して、会場には10代から30代までの約30人の青年たちが集まった。森島氏のテンポ良い講演に、会場からは終始笑いが起こり、グループディスカッションや質疑応答も大いに盛り上がりをみせた。
大学宗教主任を務める森島氏は、同大学のクリスチャン学生の集まり、青山キリスト教学生会(ACF)をはじめとする青年伝道に携わっており、教育機関などにおいて恋愛・結婚をテーマに話をすることも多いというが、このテーマで教会に呼ばれるのは初めてのことだという。森島氏は、これまでの自身の経験の中で神から教えられたことを分かち合いながら、聖書を開き、青年たちの「神さま、この人でいいの?」と不安に思う心に必要な御言葉を伝えた。
聖書はその冒頭部分で、神が人を男と女に造られ、2人は一体となると語り、人間は本来他者と一緒に生きる存在として造られたという結婚の本質を明らかにしている。時として人は、自分一人だけで生きていけるような気になったり、また家族など自分に都合の良い人だけと生きることの方が楽に思えてしまったりすることもあるが、森島氏はそういったあり方を「つまらない」と断言する。
また最近では、アニメなど二次元のキャラクターに陶酔し、現実の人との関わりを避けようとする青年も見られるが、そういったあり方に対しても、「人間が作ったものも素晴らしいが、神様がお造りになった存在はその何百倍も素晴らしく面白い」と森島氏は話す。
自分と違う存在である他者と一緒に生きるとき、自分にはないものに出会う喜びを知り、関係が豊かになる。だが、他者といってもさまざまで、全員が全員を「喜び」と思えないのが現実だ。学校や会社、教会の人間関係においても「この人さえいなければ」と思うような人と出会うことがある。それは、「この人だ」と思って結婚する相手であっても例外ではない。
赤い糸で結ばれた人、運命の人、神が与えてくれた人――青年たちの心の奥にある淡い期待についても、森島氏は「仮にそんな相手が与えられたとしても、あとはその人との幸せな人生しかないということは絶対にない」と一刀両断する。いざ結婚生活を始めてみれば、歯磨きの使い方であるとか、食事の仕方の癖であるとか、ほんのささいな出来事から「離婚してやる!」という思いにつながってしまうことなどよくあることだ。
森島氏は、問題のない夫婦関係などはどこにもないと言い、その問題を乗り越えられるか、そうでないかの違いがあるだけだと話す。ささいな問題ならまだしも、相手が自分にとって何の支えにもならず、不利益をもたらすだけの存在に思えたり、一人で生きていくことの方がはるかに楽であると感じてしまったりする場合もある。
だが、そのときにこそ、神でありながら人間となられ、どん底までへりくだられたイエス・キリストを思い出してほしい、と森島氏は語る。主イエスは、人間と共に生きることを選ばれ、そのために必要だった、ご自身による十字架の犠牲さえもいとわれなかった。聖書は、神は私たちと一緒に生きることを喜んでくださった、と教えている。
また聖書には、人間が神の似姿に造られたと書かれている。自分と違う価値観を持つ他者と一緒に生きるとき、私たちは神の愛をイメージすることができる。「なんで私ばっかりこんなに苦労しなければいけないのか」という思いが湧いてくるとき、その人は主イエスの十字架の最も近くにいる。その人はもう一人じゃない。キリストが共に歩んでくださっている。
教会の結婚式で「健やかなときも、病むときも・・・」と十字架の前で行う誓いの言葉は、神の愛に支えられて誓約している。愛に乏しい2人の関係を神の愛が支えてくださる。だから「この人でいいの?」と不安になるとき、何も恐れることはない。神がその道を共に歩んでくださる。祈って、神に委ねて一歩を踏み出すことが必要だ、と森島氏は力強く語り掛けた。
講演後に行われた、グループごとのディスカッションでは、「自分の信仰を守るのだけでも大変だから、クリスチャンの人とでないと結婚するのは難しいと思っている」「『病めるときも・・・』と言われても、その状況にならないと分からないのに誓ってもいいのかと、深く考えると立ち止まってしまいそう」といった素直な心境の分かち合いがなされ、「洗礼を受けたときのように、神様が助けてくださるからと信頼して飛び込んでみるのが、信仰なのではないか」と互いに励まし合う光景が見られた。
最後に設けられた森島氏への質疑応答の時間には、「先生は価値観の違いを乗り越えた経験はあるか」「夫婦げんかをすることはあるか」といった森島氏自身への直球の質問から、「『許す』のではなく『赦(ゆる)す』ことが大事だと聞いたが、相手のためにならないと分かっていても赦すべきか」といった講演内容を踏まえた質問、「結婚相手はどうしたら見つかるか」「年齢差のある恋愛についてどう思うか」「好きになった相手が他の宗教を信じていたら」といった具体的な質問にまで及び、森島氏の赤裸々な回答に会場は湧いた。
森島氏は「この人でいい、と神からのしるしを求めるのは安心が欲しいからだと思うが、そんなしるしなんか必要ない。誰と生きても必ず上手くいかないことは起きる」という。「でも私たちには、どんなときでも神が共にいてくださる、というこれ以上にない大きなしるしが与えられている。人生において必ず乗り越えなければならない問題を、この人と一緒に乗り越えたいと思う人が与えられたら、まず、祈ることから始めてください。神と共に歩んでいるならば、どんな人との問題も乗り越えていける」と青年たちを送り出した。