今年で教会創立10周年を迎えた「罪人の友」主イエス・キリスト教会(通称:罪友)。15年前に獄中で聖書に触れ、出所後、受洗、献身へと導かれた進藤龍也牧師が、埼玉県川口市に建てた教会だ。スナック「ジュンブライド」を改造して作ったというこの教会は、当初、窓はミラーで覆われていて開けることができず、ダウンライトの室内は、薄暗かった。そこに、元ヤクザが「聖書を語っている」とはいえ、なかなか寄り付く人はいなかった。「犬を相手に説教をしたこともある」と進藤牧師は笑う。しかし、10周年の記念礼拝を迎えたこの日、会堂には入りきれないほどの人が集まり、立って説教を聞く礼拝者もいたほど。「10年後には、ここにたくさんの人が集まって、主を賛美し、多くの人を救いに導きたいと祈っていた」と当初を振り返る。10年間の思い出動画がスクリーンに映し出されると、男泣きする進藤牧師の姿があった。
「罪友」では、刑務所から出所してきた人、人生をやり直したいと考えている人が教会に住み込んで「やりなおしまでの伴走」を続けている。現在、罪友に住み込んでいるTさんもその一人だ。Tさんが、初めて進藤牧師に会いにきたのは、今年7月の末。進藤牧師が、東京・御茶ノ水で開いている集会「ザアカイの家」を訪れた時だった。派手なシャツに香水のかおり、どこかギラギラとした目つきは、一目で「その筋」の人と容易に想像ができた。しかし、こうした青年が進藤牧師のもとを訪れる時、進藤牧師は「ワクワクする」のだと話す。「おそらく世の中に迷惑ばかりかけてきたこの青年が、これからどんな風に変わっていくのか、どのように神様に変えさせられ、導かれていくのか・・・それを見るのがとても楽しみなのです」と話す。初めて教会にやってきたというTさんは、「教会って初めて来たけど、ヤクザの世界とどこか似てますね。みんなが兄弟みたいで温かい」と話した。
Tさんは、北海道室蘭市で生まれ育つ。2歳の時に両親は離婚。一人っ子だった。「離婚後は、母親の実家に投げ込まれた」とTさんは言う。母親は仕事や自分のさまざまな事情を優先させ、なかなか家に戻らなかった。Tさんが7歳の時に、母親が突然再婚。再婚相手と母親、自分の3人での生活が始まった。両親共働きだったので、学校から帰ると一人だったという。「いつも一人ぼっちで寂しかった」とTさんは話す。中学校に入学してからは、寂しさを紛らわすため、同じような友達と遊ぶようになった。寂しさを友達と悪さすることで紛らわせていた。地元の高校に進み、すさんだ生活は続いたが、なんとか卒業。
その後は、覚せい剤の売人、闇金融のアルバイト、お金になりそうなことは何でもやった。「悪いことをしているという意識は?」と尋ねると、「あんまりなかったですね。『バレなきゃいいや』と思っていました」と話す。29歳で、日本有数の暴力団のメンバーに。
「いつか『島持ち』になるのが当時の夢でした」とTさんは話す。「島持ち」とは、縄張りのリーダーになることだという。「ヤクザの世界では、一つのステータスですよね」と説明してくれた。
薬物の売人をしていたTさんは、次第に自身も手を染めるように・・・。しかし、警察の目から逃げることはできず、逮捕。Tさん、35歳の時だった。初犯だったため、執行猶予付きの判決が下り、釈放された。Tさんのいた組織では、薬物に手を出すのは規律違反。組(クミ)に戻ることもできず・・・かと言ってカタギの仕事をしたこともなかった。フラフラと日銭を稼ぎ、2年ほどが経過したが、経済的にも行き詰まり、将来的な見通しも立たず、ヤクザの世界に戻ろうかなどと考えながら、インターネットで「ヤクザ」をキーワードに検索していると、「元ヤクザの進藤牧師」と書かれた動画や記事が続々と出てきた。なんとなく惹かれて、それらを見ているうちに「この人なら、俺を助けてくれるかもしれない」と思い、進藤牧師に電話をしてみることに。そして、7月末の初対面となった。
あれから3カ月近くが経ったTさん。ギラギラした目は人懐こいやさしい目に、派手なシャツは、進藤牧師のお下がりの黒いTシャツになっていた。周りの人々に気を使い、誰よりもよく働く。年配者への配慮も忘れない。「今はどんな生活をしているのですか?」と尋ねると、朝4時半ごろ起床して、お弁当を作り、数週間前から罪友メンバーで塗装工を営む親方のもとで修行しているという。帰ってくると、近くの銭湯で汗を流して、夕飯を食べ、聖書を読み、祈る時間を持ってから就寝。そんな生活を月曜日から土曜日まで送り、日曜は礼拝へ。「俺が初めて出勤する日の朝、進藤先生のお母さんが『行ってらっしゃい』って見送りに来てくれたんですよ。帰ってきたら、熱い風呂を沸かして待っていてくれました。本当にうれしかった」と笑顔で答えた。親方に話を聞くと、「Tさんは、非常に真面目で筋もよい。何より、変えられていくのをこの目で見ることができるので、私も感謝でいっぱいです」と答えた。先日、数日分だが、お給料が出たのだとうれしそうに話してくれた。
「俺は、本当に寂しい幼少期を過ごしてきました。母親に『寂しいから帰ってきて』ということもできませんでした。今、子育てをしているお母さんたち、とても忙しいと思います。仕事をしている人もいるし、育児に家事にとやることがたくさんあるでしょう。でも、大きく道をそれてしまった俺から言えるのは、『1日10分でいいから、子どもの顔を見てあげてほしい』ということです。『学校どうだった?』と聞いてあげてください。一定の年齢を過ぎると、子どもたちは『別に』『普通』などと気のない返事をするでしょう。それでも、聞き続けて、ちょっとおかしいな・・・と感じたら、話を聞いてあげてほしい」とTさんは力を込めて話した。
暗く寂しかったTさんの人生に、突然差した大きな光。その光の下を歩む時、Tさんはもう一人ではない。いつも共にいてくださる神様が、どんな困難をも乗り越えさせてくれる。進藤牧師、罪友メンバーとともにワクワクしながら、Tさんのこれからを、祈りをもって見守りたい。
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罪友では現在、住み込みの生活を支える献金と献品(缶詰、レトルト品、野菜など)を募集している。
【献金の振込先】
① ゆうちょ銀行 口座名:罪人の友 主イエス・キリスト教会
(ツミビトノトモシュイエスキリストキョウカイ)
記号:10310 番号:36450041
② ゆうちょ銀行 口座名:罪人の友 主イエス・キリスト教会 刑務所伝道ミニストリー
(ツミビトノトモ シュイエスキリストキョウカイ ケイムショデンドウミニスリー)
記号:10330 番号:62911571
また、罪友を密着取材したドキュメンタリー映画『ジュンブライド』が、米ロサンゼルス、ハワイ、岡山で上映されている。詳しくは、罪友ホームページ。