進藤龍也(しんどう・たつや):埼玉県川口市にある[罪人の友]主イエス・キリスト教会牧師。前科7犯の元ヤクザで、3度の服役を経験。獄中で差し入れられた聖書で人生が変った。現在は、受刑者との文通や、出所後に教会を訪れる人々をキリストへと導くことに重荷を持って活動している。著書に『立ち上がる力』(2012年)、『あなたにもある逆転人生!』(14年)など。
野田詠氏(のだ・えいじ):大阪府東大阪市にあるアドラムキリスト教会牧師。10代で暴走族に入り、窃盗、暴力行為、暴走行為などで4度鑑別所に入る。4度目に少年院に送られ、そこでクリスチャンの兄から差し入れられた聖書を読んで神を信じるようになった。現在は、少年院から退院してきた少年を受け入れ、更生、自立へと導く活動を行っている。著書に『私を代わりに刑務所に入れてください』(15年)がある。
進藤牧師、野田牧師のお二人が並ぶと迫力がありますね(笑) 今日はお二人にお会いできて光栄です。まず初めに、お二人の幼少期のお話をお聞かせください。
進藤 俺は、生まれも育ちも埼玉県蕨(わらび)市、川口市界隈(かいわい)ですね。最初は良かったんですよ、うちの家族も。それが次第に親父が浮気するようになったり、仕事もしないで、フラフラと遊びに行くようになってね。母が生活を支えるのに、夜、仕事に出るようになったんですね。
野田 僕の場合は、3歳の時に両親が離婚したんです。小学校3年生くらいの時に、母親が経営するスナックの2階に引っ越すことになったんです。
進藤 俺の母ちゃんもスナックを経営してましたね。親父はそんな感じだったから、家には帰ってこないし、俺、ひとりっ子だから、夜は一人だったんですよ。それが寂しくてね。今でもよく覚えてるのが、外に捨ててある缶詰のカンをそこら辺の棒きれをバットにして、打ってたこと。缶を打つと、カラン、カランって音が鳴るでしょ。それを誰もいなくなった空き地とかで一人でやってたの。なんでそんなことやってたかは分からない。自分の存在を誰かに気付いてほしかったのかもしれないけど、今でも何でそんなことをしていたのかは分からないまま。でもね、母ちゃんが仕事に行く前になると、全身にじんましんが出るんだよね。俺は男だし、小さい時って恥ずかしくて、「寂しいから、母ちゃん、仕事に行かないで」なんて言えなかったんだよね。でも、体が反応して、もう必死で「一人にしないでくれ」って言ってたんだね。
野田 僕も2人兄がいるのですが、年が離れていて、スナックの上に引越したときには、すでに2人とも独立していて、僕と母と2人だったんですね。寂しかったですよ、それは。僕はテレビを見るしかなかった。当時、はやっていたアニメの「タッチ」とかね。真剣に見ている時はいいのですが、終わりの歌が流れると、何とも言えなく寂しかったな。寝る頃になると、下から母と知らない男の人のデュエットしてる声が聞こえてくるんですよ。もうむなしいというか何というか。
お二人とも寂しかった幼少時代を過ごされたようですが、お母さんについて、今、思うことは?
進藤 俺の場合、2回目の服役の時に、母ちゃんが「龍也が捕まってくれて良かった。安心した。これで龍也は殺されなくて済む」って言ったの。抗争事件なんかしょっちゅうだったからね。大けがして、入院したこともあったしね。あぁ、母ちゃんも俺のこと心配してくれてたんだな、つらい思いさせて悪かったなって思ったね。
野田 僕も「寂しい」とは思っていたけど、僕がある時、上級生の家でいじめられたとき、母がその家を探し当てて、一目散に飛んできてくれたんですね。また、少年院送りに決まったときに、「私の育て方が悪かったんです」と泣き叫ぶ姿を見たときに、本当に悪いことをしたと思いました。ある意味、母の愛情が僕に届いたから、僕は凶悪犯罪を起こさないで済んだのだと思います。
非行に走った原因は何だったのでしょうか?
進藤 俺の育った蕨とか川口って、以前はスナックがたくさんあったの。だから、クラスに何人かは「スナックのママの息子」っていうのがいて、そいつらと一緒に夜遊ぶようになって。小学4年生くらいで、ゲームセンターとかに、夜にはびこるようになったね。中学生たちにカツアゲされたらたまらないから、自分たちでしっかり縄張りっていうか、世界を作ってね。そういう所が居心地がいいんだよ。結局、この「居場所」っていうのが必要なんだよね。犯罪者にも非行に走る子どもたちにも。
野田 僕は、中学生の時はサッカー部に入っていて、それなりに一生懸命やっていたんですよ。でも、人間関係とか崩れ始めるとダメでしたね。それに、ちょうど同時期に2番目の兄が精神的な病にかかって、それが大きかったかな。そして、なぜか「居場所」を暴走族に見つけたんですね。
牧師として、また犯罪者や非行少年の矯正に関わる人間として、大切にしてることは何ですか?
進藤 関係づくりだね。まずは風呂でも入って、彼らの話を聞いてやること。色んなことを抱えてるんだよ、彼らも。
野田 僕も関係づくりですね。小さい頃から事情があって親と暮らすことができない少年の場合、「神様」を信じる前に、ある意味「人間」を信じさせなきゃいけないと思うんですよね。
進藤 俺の場合は、刑務所伝道だからだいぶ年齢が違うのと、彼らは刑務所の中で、俺の本を読んでくれたり、どこかで俺の噂を聞きつけて、どっか俺を信用するっていうか、もう刑務所出て、どこも行くところがなくて、すがるような気持ちで俺の所に来る人がほとんどだから、ある意味、人は信用してるんだよね。
先生方の元を訪れても、去って行く人も多いと聞きました。「もうやめてしまいたい」と思ったことはありませんか?
進藤 そうですね。最近はだいぶタフになったよ(笑) 俺はね、裏切ったり、途中でいなくなっちゃたりするヤツをかわいそうだなと思うようになりましたね。「こいつは人を裏切っても、罪悪感すら芽生えないんだな」と思ったら、祈らずにはいられないでしょう。俺は彼らのために祈ってるよ。それでもたまに近況を聞くと、教会は離れてるけど、再犯してないとかね、被害者に自分で稼いだお金で返金したとかね、そういう成長を見るとうれしいね。牧師になって一番嬉しいのは、そういう自分が関わった人間が成長しているところを見ること。それが一番の恵みだと思ってる。
野田 そりゃね、僕のところに来て、途中でいなくなっちゃたり、教会から離れちゃったりしたら、僕は牧師としては、5割は成功だけど、5割は失格ですよね。しっかり教会につなげることができなかったんだから。でもね、彼らが僕の所なり、進藤先生の所に来て、少なくても真剣に関わってくれた大人がいたってことを感じて、仮に離れても、その経験を元に再犯してないってことは、日本の社会には貢献してるってことですよね。これって、すごい証しになると思うんですよ。
私たちにもできることはありますか?
野田 犯罪者や非行少年たちと直接関わるのは、僕や進藤先生みたいな人がやることだと思うんですよね。でも、こうした人たちを支えるには、まずは衣食住を支えてあげる必要があります。信仰を持って、もし皆さんが献金してくださるなら、それは本当に励みになりますね。
進藤 一人でもこうした働きを支えてくれる人がいるって思うだけで、俺らは励まされるんですよ。
こうした伝道をしていると、恐怖を感じることや、誰かに恨まれるようなこともあると思います。
野田 僕らはね、暴走族だったり、ヤクザだったりして、もう免疫があるから、どんなことがあっても怖くないと思うかもしれませんが、そんなことないんですよ。何年たっても、迷いながら、傷つきながら、前に進んでいるんです。薬に溺れている少年が、金が無くなると、嘘ついたり、色んなことして親からお金をむしり取るんですね。でも、それを僕は「お母さん、お金出しちゃダメですよ」と話すと、その少年から逆恨みされて、「何でお前に関係あるんだ! 余計なこと言うな!」ってすごんでくるわけですよ。僕にも家族がありますから、そりゃ、保身に走ることもあります。そこにいくと、進藤先生はすごいと思うんですよね。「俺のせいにしていいよ。俺を悪者にすればいい」ってさらっと言いますからね。
進藤 だってさ、金を出さないと、お母さんは子どもに恨まれるわけでしょ。お母さんだって、自分のことを恨む子どもを恨むかもしれない。こんな親子関係ほど不幸なものはないでしょ。そこに悪者の俺が入って、「進藤っていうムカつくヤツが入ってきたから、親がお金をくれなくなった」って思えば、その恨む対象が俺になるわけよ。俺は恨まれたっていい。その子がすごんできたら、『薬やめればいいでしょ?やめられるよ』って言ってあげられる。
犯罪者、非行少年の家族、当時者に一言をお願いします。
野田 とにかく相談してほしい。相談したら、僕らに丸なげするのではなく、長期戦になるかもしれない闘いを一緒に闘ってほしい。
進藤 本当に、その通りですね。俺の夢は、俺が死ぬまでに日本の犯罪率が下がること。1%でも下がれば、それはすごいことだと思いますね。神様の愛によって、日本が変わることですね。
祈っています。頑張ってください。
進藤 神様が一緒にいてくださる。俺らはこの伝道を誇りに思っています。西と東でまだまだ頑張りましょう!
野田 そうですね!
■[罪人の友]主イエス・キリスト教会
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