キリスト教史学会の第66回大会が、9月18、19の両日、東京女子大学(東京都杉並区)で開催された。18日には、研究発表とともに、「近代日本のキリスト教『女子教育』再考」を主題にしたシンポジウムが開かれ、また、「中国の初期プロテスタント史と近代」について研究を発表した倉田明子氏(東京外国語大学講師)にキリスト教史学会賞が贈られた。19日には、「現代(いま)を生かす新渡戸稲造のキリスト教人格論〜明治から現代までの信仰継承〜」と題して、広島女学院大学の湊晶子学長が公開講演を行った。
初日に行われたシンポジウムでは、昨年、女性の教育権を訴える17歳のマララ・ユスフザイさんが史上最年少でノーベル平和賞を受賞し、また日本でも近年、女子教育に注目が集まっていることから、近代日本のキリスト教伝道事業と女子教育を考えた。同学会では過去に2回、女性宣教師に関するシンポジウムを開いているが、今年は、1870年から1900年に至るプロテスタントの女子教育事業と、それとは別の流れにあるカトリックの女子教育に焦点が当てられた。
シンポジウムの司会を務めたボールハチェット・ヘレン氏(慶応義塾大学教授)によると、日本の女子教育研究はこれまで、個別研究は多くなされてきたが、横断的な研究は少なかったという。また近年は、宣教師が何をしたかではなく、現地人である日本人がそれをどう受け止めたかが重要な研究視点となっているという。シンポジウムでは3人のパネリストがそれぞれ、「女性宣教師による女子教育とはどのようなものであったか」(小檜山ルイ・東京女子大学教授)、「日本人キリスト教徒によるプロテスタントの女学校ー女子高等教育へのルートー」(大森秀子・青山学院大学教授)、「カトリック修道会による女子教育ー聖心会の教育活動を中心にー」(小川小百合・聖心女子大学教授)と題して発題した。
コメンテーターとして招かれたのは、日本政治思想史やジェンダー史を専門とする法政大学教授の関口すみ子氏と、イエズス会司祭で上智大学教授の川村信三氏。同学会では特に、カトリックの教育事業についての知見が、その重要性にもかかわらず不足しているという。参加者は、川村氏によるプロテスタントとカトリックの教育事業の変遷の違いの指摘に、新鮮な驚きをもって耳を傾けた。
同学会では、昨年まで「学術奨励賞」が設けられていたが、今年からは「学会賞」に名称を変えた。学会賞の第1回受賞者となった倉田氏は、著書『中国近代開港場とキリスト教ー洪仁玕(コウ・ジンカン)がみた「洋」社会』が評価された。これは、2010年に東京大学に提出した論文に、倉田氏自身が大幅に手を加えたもので、渡辺祐子氏(明治学院大学教授)は、「膨大な資料を緻密に分析し、近代史研究の王道をいく結果を出すとともに、これまでの近代史研究にはない斬新な視点が盛り込まれている」と評価した。
倉田氏は、「1807年に始まる中国初期プロテスタント史の研究の少なさ、資料の少なさを克服し、宣教師の側からではなく、受け手である中国人の側から明らかにしたかった」と話し、キリスト教とそれに伴って流入した西洋文化が、特に開港場にいた中国人にどう受け止められたか、その研究成果の概要を講演した。
同学会は1949年に設立され、時代の文化を歴史的に研究し、キリスト教との類似点および相違点を明らかにすることによって、キリスト教そのものの内容を明らかにすることを目的としている。会員は約330人。今大会では、16人の会員による研究発表が行われた。発表では、宗教改革運動など、国外におけるテーマも広く取り上げられたが、今年は特に「『戦責告白と沖縄』ー『周縁』的地域からみた日本基督教団の戦後70年」(一色晢・帝京科学大学准教授)や、「1940年代日本キリスト教とファシズム国家体制との関係研究ーアメリカ・メソジスト教会の現地報告と状況認識を中心にー」(徐正敏・明治学院大学教授)など、戦後70年を意識したテーマが目立った。