「宗教と社会」学会の第23回学術大会が13、14の両日、東京大学(東京都文京区)で行われた。1993年に設立されたこの学会には、宗教と社会をめぐるさまざまな問題に関心を持つ研究者約560人が所属している。宗教学や社会学だけではなく、社会心理学や文化人類学(民族学)、民俗学、歴史学、精神医学などが専門の研究者も多く、幅広い議論が行われた。
今大会は、2日間で合計22人の個人発表があり、2日目には3つのテーマセッションが行われた。テーマセッションのテーマは、「調査データから見えてくる日本人の宗教性 / スピリチュアリティの諸相―実証的宗教心理学的研究をベースとした科研費研究プロジェクトからの提案―」(代表者:松島公望=東京大学)、「戦後70年の宗教と社会」(代表者:堀江宗正=東京大学)、「ポストオウム研究の課題と展望―地下鉄サリン事件20年の地点から―」(代表者:塚田穂高=国学院大学)。それぞれのテーマを参加者と共に共有し、活発な議論が行われた。
一方、1日目の個人発表では、キリスト教を扱った研究成果がいくつか報告された。そのうち主要なものは、「在日コリアンが関わるキリスト教会の変容―韓国系ニューカマーの流入をめぐって―」(荻翔一=東洋大学大学院)、「キリスト教や世俗化に関する経済学的実証研究」(湯川洋久=四国学院大学)、「社会主義期ポーランドにおけるカトリック教育」(加藤久子=国学院大学)、「台湾原住民族アミが経験した『教化』とキリスト教宣教―世界観の変動に関する予備的考察―」(岡田紅理子=上智大学)の4つ。
台湾東部の集落に住む原住民族アミのカトリック信者を対象に、伝統宗教からの「改宗」に至る世界観の変動を考察した岡田さんは、上智大学大学院博士課程の若手研究者。岡田さんの報告を受けた研究者たちからは、「説得力があり、これからに期待できる」「非常に興味深い」との感想が口々に聞かれた。岡田さんが今回の報告で目的としたのは、先行の原住民族研究における「改宗」についての議論に見られる、話の飛躍を克服すること。
台湾の人口の約2パーセントを占める原住民族は、現在そのうちの約80パーセントがキリスト教を信仰しているという。台湾東部について言えば、カトリック宣教が行われたのは、戦後1950年からで、中国共産党から追放されたスイス・フランス系の宣教会が中心となって布教を進めた。
先行研究の多くは、原住民族がキリスト教へと改宗していくことによって、伝統から離れ、知識や行動が秩序付けられたと論じているという。しかし、岡田さんは、2年間ほどの現地調査から、調査地の原住民族アミがキリスト教に改宗する前に信じていたのは「天照大神」という唯一神的存在であったことを明らかにした。これは、日本が台湾で植民地政策を行っていた時代に、神道を介した「教化」を進めていたからで、岡田さんは、この歴史的経緯を考察することなしに、キリスト教改宗を論じることは話の飛躍であると指摘した。
岡田さんの報告を受けて、聞き手の研究者たちからもさまざまな意見が出され、新しい視点が提供された。岡田さんは、それらの意見を受けて課題点が明らかになったとし、「『教化』事業によってもたらされた天照大神という一神的存在基礎が、『唯一の神』を中心とするキリスト教世界観の認識を容易にしたのか」など、さらに研究を進めていきたいと報告を締めくくった。