日韓国交正常化50周年を記念した「世界老人指導者フォーラム」が15日、都内のホテルで開催された。日韓両国の「人生の先輩」たちが集い、両国間の歴史的・政治的な対立と不信を超え、両国が同様に抱える高齢者福祉の問題を分かち合い、平和と和解のための交流の時を持った。
初めにフォーラムを主催した社団法人大韓老人会の李沁(イ・シム)会長があいさつに立ち、「日本と韓国の高齢者が、両国を重要な隣人として考え、和合的に東アジアの平和の礎となることを望む」と話し、このフォーラムを通じて、民間外交の枠において新たな関係が結ばれることを期待すると語った。また、日本側からは、鳩山由紀夫元首相と河村建夫衆院議員が祝辞を述べた。
鳩山氏は、日本の政治家は、日韓友好のために歴史の事実を事実として受けとめることが必要だと語り、その一方で、約3千人の孤児を韓国で守り育て、反日感情の強く残る当時の韓国と日本の架け橋となったクリスチャンの田内千鶴子(1912〜68)や、大韓老人会の民間レベルでの働きをたたえた。そして、「皆さんの努力こそ、お年寄りに未来を与え、日韓関係の改善の大きな力となる」を語った。
河村氏は、日韓の高齢者団体が相互交流を図って、高齢者のためにできることをしていき、両国の友好をもっと深めていく必要があると語った。日韓親善協会中央会の会長も務めている河村氏は、今年10月末から11月にかけて日韓中の首脳会談が行われることに触れ、「親善協会としても訪問団を結成し、首脳会談が行われる前に朴槿恵(パク・クネ)大統領にも会いたい」と話した。
基調講演では、朝鮮の独立運動家、安重根(アン・ジュングン、1879〜1910)と竹島(独島)問題の研究の第一人者である国際韓国研究院院長の崔書勉(チェ・ソミョン)氏が登壇し、「韓日関係再照明」と題して講演を行った。崔氏は、戦後両国が驚くほどの発展を遂げ、極東の平和の軸となったと語り、今後の発展のためにも日韓は協力するしかないと話し、「(韓国が)日本との平和を失わないことが望み」と語った。
基調講演に続いて、韓国の元国会議長で韓日親善協会中央会会長の金守漢(キム・スハン)氏が「韓国と日本の共同体的和合」と題して主題講演を行った。また、日本側からは、NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長で東京家政大学名誉教授の樋口恵子氏が「人生100年時代への船出」と題して、元朝日新聞主筆の若宮啓文氏が「日韓の新しい夢」と題して、そして社会福祉法人こころの家族理事長の尹基(ユン・ギ、日本名:田内基)氏が「在日コリアン高齢者の福祉」と題して、それぞれ講演した。
これらの講演では、「過去の歴史を踏まえながら、未来に向かって手を結んでいくことが課題」であることや、「国際的な友好には、市民同士の交流が大切」であること、「ナショナリズムの危うさを中和させるのは田内千鶴子が持っていたようなヒューマニズム」など、日韓が友好を保ち、平和を継続させていきたいという登壇者の思いが語られ、参加者は一人一人の話に熱心に耳を傾け、大きな拍手を送った。
最後に登壇した尹氏は田内千鶴子の息子で、1988年に「在日韓国老人ホームを作る会」を設立し、理事長に就任。祖国に帰りたくても帰れない在日韓国人の高齢者たちに、祖国の暮らしに近い環境で安心して老後を送ることのできる老人ホーム「故郷の家」の建設を進めてきた。
現在、故郷の家は、堺市、大阪市、神戸市、京都市の4カ所にあり、現在、東京都江東区でも建設が始まり、2016年秋にはオープンする予定だ。この日の講演でも、同会のビジョンと展望をスライドを使って説明。これまでも、日韓で文化交流や福祉の学びなどを協力して開催してきたことを紹介した。さらに、今後日本の在日韓国人の高齢者が11万人にもなるとし、故郷の家がさらに各地で必要であることを訴え、韓国語が話せる専門職の育成の必要性も話した。
ソーシャルワーカーでもある尹氏は、地域社会で問題があった場合、その地域で協力者を探し解決することが大切であることを経験したと話し、市民参加型の地域福祉の必要性を語った。そして、故郷の家を日本と韓国の共生・友情の架け橋とし、今までにない国際的な高齢者の社会福祉の確立を目指していきたいと述べた。
最後は、神奈川県立大学名誉学長で、在日韓国老人ホームを作る会会長の阿部志郎氏があいさつに立ち、この日集まった人々に「韓国との美しい友好の夢を、少しずつでも確実に実現していきましょう」と力強く呼び掛け、この日のフォーラムを締めくくった。