福祉施設や在宅介護サービスの充実を図るため、福祉・教育・教会のネットワーク化を進める社会福祉法人キングス・ガーデン東京(泉田昭理事長)が、その活動の一環として、第1回サポートネットワークシンポジウムを、5月30日に日本イエス・キリスト教団荻窪栄光教会(東京都杉並区)で開催した。「福祉・介護の『働き人』を送り出す」と題し、福祉・介護の現場で大きな問題となっている人材の不足や育成について、基調講演、パネルディスカッション、分科会を通して参加者と共に考えた。
「収穫は多いが、働き手が少ない。だから、収穫のために働き手を送ってくださるように、収穫の主に願いなさい」(マタイ9:37〜38)が、今回のシンポジウムに与えられた御言葉。聖書の価値観を土台にし、市川一宏(ルーテル学院大学前学長・学事顧問・教授)、阿久戸光晴(聖学院理事長・院長)、廣瀬薫(東京キリスト教学園理事長)、中島秀一(荻窪栄光教会牧師)、中島真樹(練馬キングス・ガーデン施設長)の各氏が、教育、教会、福祉施設、それぞれの立場から発言した。
基調講演を行った市川氏は、「『おめでとう』で始まり『ありがとう』で終わる人生~福祉とキリスト教」と題し、話を進めた。市川氏は、全ての命は神から祝福されたもので、福祉の現場で働く人はその命を支えていると言い、その行為を通じて共に生きていくことの意味を学び、自己成長をもたらすと語った。また、「福祉は伝道ではなく、その人の生活を支えること。自分がやっていることを通して、希望を届ける『パントマイム伝道』」だと語った。さらに、福祉活動をする上で、クリスチャンでない方と協働して歩んでいくところから始めなければ、連帯した取り組みにはならないと話した。
市川氏の基調講演を受け、4人のパネリストがそれぞれの意見を交換。阿久戸氏は、働き手を育て送るという立場から、「私たちの人生の祝福は、感謝と幸福感にある」と言い、3K(きつい・汚い・危険)といわれる福祉の現場を、新しい3K(清く・気配りし合え・光栄な職場)に変えていくことを提案した。また、「奉仕は、時間や余力があるからやるというのはでなく、イエス・キリストを見出していくなかで生まれてくるのではないか。このことを若い人に伝えたい」と話した。
廣瀬氏は、「神の国」とは、被造物が全て本来の姿で生かされ、喜んでいるところと位置付け、「福祉も伝道も同じ『神の国』の働きであり、両方を担うのが教会のあるべき姿」と語った。その上で、「教会が本来の使命を担えば、当然、善き人を送り出す実を結ぶはず」だと指摘。「『神の国』の最重要部分と考えられる福祉の職場を、働きがい・喜びを経験する職場としたい」と話した。
シンポジウムの会場となった荻窪栄光教会の牧師である中島秀一氏は、自由学園やキングス・ガーデン東京を例に挙げながら、「福祉の世界は、キリスト者に最もふさわしい世界」だと語った。特に超高齢社会における老老介護の現状について、福祉施設や介護サービスが今後さらに必要だと言い、「高齢者ほど天国に近い人はいない。高齢者に対する理解をもっと深めてほしい」と訴えた。
福祉の現場で実際に働く練馬キングス・ガーデン施設長の中島真樹氏は、「練馬キングス・ガーデンの職員の大半はクリスチャンではないが、理念の一致の下、共に働いている」と言い、「現場で働く人は、利用者との関わりの中から、教えられ、磨かれ、介護という仕事でしか味わえない充実感ややりがいを見出していっている」と話した。特に、ターミナルケアから教わることが多いという。「最期までお世話をし、その人から感謝の言葉を言われたとき、最高の喜びがある。この魅力をより広く、分かりやすい形で発信していきたい」と思いを語った。また、教会から学校、そして現場というルートがあれば、「働き人」がより増えるのではないかと言い、このプロジェクトを通して、共に歩む「輪」が広がっていくことを期待していると伝えた。
パネルディスカッションの後、「福祉・介護関係」「教育関係」「教会関係」「福祉・介護サービス」の4つに分かれて分科会がもたれた。「教会関係」に参加した今年大学を卒業し、現在、精神障がい者福祉施設で働いているという女性は、「参加している人たちが輝いていて、今後仕事をする上で励まされた」と語った。また、千葉県から参加したという40代の女性は、「シンポジウムに参加し、教会は福祉の現場にもっと積極的に関わり、人を送り出さなければいけないということを聞き、あらためて教会の役割を考えるきっかけとなった」と話した。
2回目の「サポートネットワークシンポジウム」は、1年後の開催を予定している。