来月オープンする「東中野キングス・ガーデン」(東京都中野区)で19日、見学会を兼ねた勉強会が行われた。参加者は、同施設の目指す介護の在り方と、看取りケアについて興味深く耳を傾けた。
東中野キングス・ガーデンは、小規模多機能型居宅介護と認知症高齢者グループホームを併設する地域密着型のサービス施設。特別養護老人ホーム「練馬キングス・ガーデン」を運営する社会福祉法人キングス・ガーデン東京が、東中野に新しく建てた施設だ。
この日、夕方6時から行われた勉強会には、20人ほどが参加。初めにスライドを見ながら、同施設の説明が行われ、その後2つのグループに分かれて、完成したばかりの5階建ての同施設を1階から3階まで見学した。
1階は、地域交流スペース「キングスカフェ」となっており、多目的室の他にカフェコーナーも設置されている。置かれているテーブルや椅子は全て木製で、床も無垢材が使われており、木材独特の温かみに満ちている。また、昔風のかき氷機なども置かれおり、遊び心も満載だ。
2階から上が介護施設。階段に至るまでカーペットが敷き詰められ、住居スペースである2~4全階は床暖房を取り入れておりとても暖かい。1階と同様に置かれている家具は全て木製。施設長の清水冬生(ふゆお)さんの説明によると、施設の内装や家具については、スタッフが一つ一つ吟味し、素材選びを行ったという。
利用者が使ったときに無理な姿勢を取らずにすむよう、きめ細かく工夫されたパブリックスペース。また、居心地よくいられるような工夫が、ふんだんに取り入れられているリビングとダイニング。さまざまなニーズに対応可能な各部屋を見ていると、スタッフがいかに心を込めて、利用者を迎えようとしているかが強く伝わってくる。
同施設では、最新の器具に見られる使い勝手のよさや、便利さを追求していない。水道はセンサーで反応するものではなく、どこかに触れなければ水が流れないようになっている。キッチンのコンロもIH(電磁誘導加熱)ではなく、目で火を確認できるガスになっている。清水さんは、「全てを新しくするのではなく、普段の生活の中で使っていたものを、延長して使えるようにした」「自分の手でどこか触ること、目に見えるようにすることで、自ら動くことを尊重するようしたかった」と説明する。
見学のあと、勉強会が行われた。同施設では、入所者に最期まで寄り添う介護を視野に入れている。この日のテーマも「最期まで本人らしさを支える看取りケア」。実際に看取りケアを体験した様子をビデオで見たあと、参加者との活発な質疑応答が行われた。ある女性参加者からの「どこから看取りケアになるのか」という質問に対して、清水さんは「入所した時から」とし、「入所した時から関係性を作っていく過程が、看取りでケアではないか。死を前にして『さあ始めよう』では間に合わない」と答えた。
キングス・ガーデン東京の理事の中島真樹(まさき)さんは、「どういう環境で生活をしたいのか、どういう死に方をしたいのか、一人ひとり違う。このことは、スタッフと入所者の信頼関係で分かるもの」と言う。そして、キングス・ガーデンの看取りケアは、「最期が分かったから、諦めずにきょうを大切にしよう。この人のために後悔が残るより、“今”やろう」というものだと話す。
また同施設では、「認知症は生きていく中で新しく生まれた個性」だと考えている。「個性なのに、それを無理やり抑え込むことは間違っている。これは、他の障がいでも同じこと。その個性を生かして、その人ができることを見つけ、支えていくのが、スタッフの役目」と清水さんは話す。その上で、「これまでの日常生活を奪わないことが大事」だという。同施設が目指す「ありのままの自分でいられる場所」はここでつながる。
また、こうした介護を実践するために必要なのは、地域の協力だ。そのために、1階のキングスカフェが役割を果たす。ここを地域の活動の場としてもらうことで、利用者と地域住民との交流が生まれることを期待している。
さらに、1階のスペースは、神を知ることのできる空間でもある。キングスカフェの壁には、十字架が埋め込まれているのだ。「この地域には、主の導きを必要とされている方が大勢いるはず。この施設がこの地域にある意味は、そういった方々に福音を知らせることだと思っている」と、同施設のコーディネーター奥山寧(やすし)さんは語る。
「夕暮れ時に、光がある」。同施設に与えられたゼカリヤ書14章7節の聖書の御言葉は、逆転的な主の御業を示している。この御言葉は、東中野キングス・ガーデンの新しい試みの励ましだ。
利用者とその家族だけではなく、地域にも大きな可能性をもたらす新しい介護施設のオープンは、今後の介護の未来にも一石を投じることとなるだろう。