東京基督教大学(TCU)ケアチャーチプロジェクト主催のケアチャーチ講座「教会と福祉の実践を考える」が7日、TCU国際宣教センター(千葉県印西市)で行われた。港北ニュータウン聖書バプテスト教会牧師で、NPO法人「五つのパン」理事長の鹿毛独歩(かげ・とくほ)氏、同教会員で同法人理事の岩永敏朗氏が講師を務めた。同プロジェクトでは、これまですでに3回のセミナーを都内で開催し、広く教会で行われている福祉実践について紹介してきたが、さらに深く知りたいという要望に応え、今回は参加者のディスカッションを含めての開催となった。
まず、担当教員の井上貴詞准教授が、過去の講座を振り返り、これからのキリスト教における福祉のあり方は、「主日だけでなく、平日に主の教えを生きる」ことが大切であると述べた。教会は、信者だけでなく、外部の人々にも目を向け、宣教の種を蒔く土壌を整えることにも力を注ぐべきではないか。福祉における道を教会が見出すことで、牧師・伝道師だけでなく、教会全体を挙げて地域に仕えていくことができる。そのためには、教団・教派を超えた一致、人材・資金の援助が必要だと提言した。
日本福祉大学社会福祉学部出身で福祉事業に従事した経歴を持つ鹿毛牧師は、牧師の立場から、教会とNPO法人の今までの歩み、今取り組んでいることについて話をした。同教会は、「地域伝道・聴覚障がい者伝道・病院伝道」の3本柱で働きを進めている。
鹿毛牧師は、誰もが幸せになるネットワークを目指しており、教会員だけでなく、地域に住む全ての人々に心を向け、地域のネットワークにクリスチャンが入っていくことの重要性を話した。「福祉の働きは地域によってニーズが違うから、どの教会でも必ず成功するという方法はない。だが、時間をかけて信頼関係を構築していくことが大切」だという。「福祉を教会成長の道具にしてはならない。ただ、一人ひとりと向き合い、愛したいと願い、愛するだけ。福祉には限界があるから、本当にやるべきことはキリストの愛と救いを提供していくことだ」とメッセージした。
信徒の立場から、「五つのパン」のこれまでの働きについて話をした岩永氏は、救いの体験を通して変えられた障がい者の青年たちの証しや、福祉事業現場の現状を実例を挙げて分かち合った。「人手が足りないなどといった弱さは確かにあるが、見返りを求めず、愛をもって建て上げていける関係は教会にしかない。この世の力に頼ろうとすると霊的に弱まるのを感じるから、何よりも牧師との信頼関係が大事。主に立てられた人に従って行くということが、教会の働きの祝福の源になる」と話した。
今回の講座には、精神障がい当事者や介護事業経営者、宣教師、牧師、TCUの学生・教員などさまざまな立場の人が参加した。参加者からの「介護事業において、働き手をどのように確保していくのか」「介護福祉士を目指しているが、職員に対するケアも考える必要があるのではないか」「地域のコミュニティー形成に教会が貢献できるか」「行政との関わり、国の制度の利用をどう考えるか」という声に応じて、講師と参加者全員でディスカッションが行われた。
鹿毛牧師は、「それぞれの教会が力を持つためには、教会全体が明確なビジョンを共有することが必要だ」と話し、「50年先の教会を夢見ながら今を歩む」というヒントを与えてくれた。「50年後に自分はいない。だがその時、地域の人たちに『ここに教会があってよかった』と思われたら、それがキリストにある勝利なのではないか。言葉だけでなく、手を差し伸べて触れて癒やしてくださった主に倣って、働いていきたい」と抱負を語った。