田内千鶴子氏の生誕100周年を記念した事業の一環として、国連「世界孤児の日」制定を推進するためのハイレベルフォーラムが27日、東京・赤坂の日本財団ビル会議室で行われた。千鶴子氏の長男である田内基(もとい)氏をはじめ、デイビッド・アルトン英上院議員など各分野の専門家を招き、約70人が参加した。
田内千鶴子氏は1912年に高知県で生まれ、母の影響でクリスチャンになった。1938年、日本統治時代に同じくクリスチャンの韓国人男性と結婚。そのまま韓国に渡り、夫と共に孤児救済のために「共生園」という施設を運営した。太平洋戦争終結後も韓国に残り、朝鮮戦争で夫を失うも、約3000人の孤児を守り育てた。この偉業は日韓共同の映画として取り上げられたこともある。
千鶴子氏は1968年、56歳でこの世を去るが、反日感情の強く残る当時の韓国・木浦(モクポ)で市民葬が行われ、約3万人が日本人である彼女との別れを惜しんで参列したという。
現在、共生園は基氏が事業を引き継ぎ、この国連「世界孤児の日」制定も基氏の発起による。「共生園には『愛がある限り人間に希望がある』という碑がある。当時の孤児たちが成人し、各分野で活躍し、韓国や日本はもとより世界中で協力して次世代のための活動を始められる。これは素晴らしいことだが、まだ半分。私たちが具体的な行動をすることが後の半分」と基氏は挨拶で述べた。
その後の基調講演では、アルトン上院議員が「生まれてくる全ての子どもは、神が人間に絶望していない証」であると言い、聖書をはじめ、コーランの一節を引用し、「子どもの扱われ方で、人類の未来が決まる」と訴えた。
その後も、神奈川県立保健福祉大学名誉学長の阿部志郎氏をはじめ、スリランカ、韓国、マラウィ、米国から訪れた専門家が、各分野の視点で講演した。戦災孤児、少年兵、災害、疾病、親の育児放棄や離婚など、さまざまな視点から現在の問題が説明された。阿部氏は『五体不満足』の著者、乙武洋匡氏の母の反応を例に取り、「親に愛された子どもは人を愛するようになる」と、この活動の意義を説いた。
現在、「孤児」と定義される子どもは世界に1億5000万人に上ると言われている。彼らには自分の意見を主張する方法がない。そのため、その数が多いにもかかわらず、いまだに国連の記念日に制定されるには至っていない。基氏は、「この世界孤児の日制定の真の発起人は母の千鶴子である」と、自ら発信できない孤児たちのために社会が行動するよう訴えた。
マルコによる福音書10章で、イエスが子どもたちを呼び寄せ、「神の国はこのような者(子ども)たちのものである」と語っている通り、子どもは人類共通の宝。「神がこれほどまでに心を砕いているのに、どうして自分がこのことに心を砕かないことがあるだろうか」と、参加者の訴えかけるような言葉でこの日のフォーラムは幕を下ろした。
このフォーラムは、31日には韓国・ソウルでも行われる。