イラクにおける「イスラム国」(ISIS / ISIL)よる人権侵害についての国連報告書によると、今年の最初の8カ月間に2万4千人を超えるイラク市民が殺傷された。また、ISISは12、13歳といった幼い少年兵を用い、少女や女性に対しては、強制的に性奴隷にするなどしているという。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と国連イラク支援団(UNAMI)は共同で、500人を超えるイラク国内の避難民に対し聞き取り調査を実施。ISISによる人権侵害の状況を調査し、今月2日にその報告書を発表した。イスラム教スンニ派の組織であるものの、ISISはスンニ派信者を含むあらゆる宗教の信仰を持つ市民に対し、残虐な殺害や誘拐、迫害行為を行っていると、報告書は指摘した。
死傷者については、さまざまな政府、非政府および地元メディアの情報源から、2014年の初めの8カ月間に8493人が殺害され、1万5782人が負傷したとしている。こうした殺傷の多くは、報告の最後の2カ月間に起きており、ISISがイラク北部のニネベ地方の大半を奪取した6月1日から8月31日までの間に、死者4692人、負傷者1万1159人が発生している。
報告書は「実際の数字はもっと大きい可能性がある」とし、「加えて、住居から逃れた後の基礎的食品や水あるいは薬の摂取不足など、暴力の副作用で死亡した市民もおり、ISILの支配下にある地域や紛争地域で捕われたままの人の数は分からない」としている。
さらに、8月30日の時点で現在も続く暴力のために180万人を超えるイラク市民が故郷を追われた。その3分の2に当たる100万人以上の市民はISISの支配下にある区域におり、人道支援を困難にしているという。
報告書は、こうした驚くべき死傷者数に加え、少年兵の実態も報告している。モスルとタッル・アファルでは、戦闘員や警備員として訓練された12歳ぐらいの幼い子どもたちが報告されている。これらの子どもたちには人々を逮捕する権限が与えられており、モスルの街路にいるISIS戦闘員の巡回軍の大多数は子どもたちであるという。また、ISISが設置した検問所では配置される少年兵の数が増えているという。
「モスルとタッル・アファルの目撃者たちは、子どもたちが武装してISILの戦闘員たちと似たような服装をしていたのを見たことを確認した。情報筋はまた、未成年の子どもたちが両都市でISILの巡回に同伴しているのを見つけた」
「子どもたちが武器を運んでいるのが目撃され、時には(武器が)大き過ぎて運べないこともあった。他の目撃者たちは、街路を巡回しているISILの分子は13歳から16歳という未成年の子どもたちだったと主張した」
報告書はまた、女性たちが戦闘員によって「とりわけ厳しく」扱われているとしている。8月5日には、ISISによって拘留されていた、主にヤジディ教徒やキリスト教徒の女性たち150人以上がシリアへ輸送され、伝えられたところでは、ISISの戦闘員らに与えられたか、または性奴隷として売られたという。
ISISが義務づける通り顔を覆うベールを着るのを拒んだ女性は、大抵殴られ、時には殺されるという。ベールを着用したまま治療に当たるのは困難だとして、女性の医者らがストライキを行ったこともある。報告によると、一部の事例では、ISISの戦闘員が病院の入り口に立ち、べールをかぶっていない女性の医者や看護師が病院に入るのを防ぐこともあったという。
戦闘員が、ベールを正しく着用していないとして、緊急患者の対応をしていた女医の医療活動を止めることもあり、この例では、戦闘員との長時間にわたる議論の末、女医は治療を継続することを許された。
「改宗か死」というISISの精神構造もあり、この調査によって報告されている死亡の多くは、ISISに対する忠誠を誓わなかったことによるものであった。ISISは「適切にイスラム教を実践している」と主張しているが、調査団は戦闘員がスンニ派信者らを殺しては迫害していると報告している。
7月22日には、ISISを非難したことを理由にスンニ派の指導者が殺害され、8月31日には、ISISへ忠誠を誓わなかったことから、スンニ派信者19人が処刑された。また、9月9日にはもう一人のスンニ派指導者が同じ理由で処刑された。