イラクの首都へたどり着くため戦闘を続けるイスラム過激派グループ「イスラム国(IS)」による処刑という脅威にもかかわらず、首都バグダッドのキリスト教徒たちは洗礼を受けることをなおも求めている。
包囲されたこの都市で10年以上も奉仕してきた聖公会の司祭であるアンドリュー・ホワイト氏が1日、アングリカン・コミュニオン・ニュース・サービス(ACNS)に語ったところによると、ホワイト氏はISがもたらしている脅威は、実は信者が洗礼を受けたい理由の一つになっていると考えている。
「人々は自分たちの信仰を本当に示したかったのでしょうし、それは良いことです」とホワイト氏は語った。ISが意図的に宗教的少数者を標的にする国で、自らがキリスト教徒であると公に明かすことは、とりわけ勇気ある行動だ。
ISは、占領した町でキリスト教徒の家にナザレの頭文字である「N」という文字を塗り付ける。現住者が与えられる選択肢は、そこを離れるか、巨額の税金を支払うか、イスラム教に改宗するか、あるいは殺されるかだ。
この日、洗礼を受けた母親と4人の幼い子どもたちは、キリスト教徒となるよう育て上げられていたが、キリスト教徒とイスラム教徒の異なる宗教の背景を持つ。ホワイト氏は、ISの支持者たちからの報復を恐れて、彼女たちについてそれ以上何も言いたがらなかった。
その日の午後、ホワイト氏はバグダッドの中心地へ向かった。そこはかつてサダム・フセインの像が立っていたところだ。「角石にはためくのがISIS(ISの以前の呼称)の旗であるのを見て、私はとてもぞっとしました」。それにもかかわらず、バグダッドの教区牧師というあだ名を付けられているこの人は、イラクで司祭としての奉仕活動を続ける可能性があることに大喜びしている。
「彼女たちに洗礼を授けたのは素晴らしかったですし、あの子どもたちもとってもワクワクしていました。そのうちの一人の幼い男の子が私のところにやって来てこう言いました。『ぼくね、いま新しい人になったみたいな感じなの』と。そこで私は彼に言ったんです。『あなたは新しくされた人なのですよ』と」「こんな絶望的な状況のただ中で、こんなにすてきなことがあるなんて、素晴らしかったですね」
ホワイト氏は、自身の教会である聖ジョージ教会には、かつては1000人ぐらいの人たちが集まっていたと説明した。「日曜日には160人しかいませんでした。それは私たちの民の多くが北へ上って行ってしまったからなのですが」
教会員が減り、ISがいつバグダッドに侵攻してくるか分からない状況にもかかわらず、ホワイト氏はこの首都や、彼とスタッフが救援物資を届けているアルビールで、キリスト教徒たちのための奉仕活動を続ける決意だ。
「何十万人の人たちが国内避難民(IDPs)のまま北部のクルド人地域との境界線に残っているのです」とホワイト氏は言う。「食糧は限られ、質素なビニールのテントで暮らし、必要な供給品もありません。私たちは必要なものをできるだけ多く提供しようと努力してはいるのですが」
「私たちが考えていることの一つは、これらのひどいビニールのテントよりはましな(難民のための)4つの寝室がついた別々の移動住宅からなる独立したキリスト教徒の村を設立することです」とホワイト氏。しかし、移動住宅は1つ1万1000ドル(約120万円)と安くはない。
ホワイト氏へ対する資金的な支援の多くは、英国や米国、カナダの聖公会から来ているが、ホワイト氏が言うには、ソーシャルメディアの助けにより、聖公会の支援者は遠くオーストラリアやニュージーランドにまでいるという。ホワイト氏は、インターネットをうまく利用しているのはISだけではないと語った。
ISは現在、バグダッドの中心地から20マイル(約32キロ)離れたところにいると推測されている。しかしながら、ホワイト氏にとって、ものごとはいつも通りである。「私はもちろん留まる予定です。他の会合の予定が入ってきてはいるのですが。私は来週イスラエルに行きますし、カリフォルニアにも行かなければなりませんから、やらなければならないことはやり続けますが、でもなるべく早く戻るつもりです」