自称「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の武装集団による攻撃によって住居を追われた何十万人もの人々が、イラク北部のクルディスタン(クルド人自治区)の地域にある町に避難場所を見つけてはいるものの、これらの国内避難民(IDPs)を支援している機関は、迫りくる冬の兆しによって悪化している人道的なニーズが満たされていないと警告している。
世界教会協議会(WCC)の職員による代表団が8月27日から31日までイラク北部で耳にし、直に目の当たりにしたのは、この人道的なニーズ必要であった。WCCはその後、自国民の保護と支援をイラク政府に、そして人道的対応の大幅な増強を国際社会に求める声明を発表した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、140万人を超えるイラク人が1月以来、自らの住居を追われたと報告している。最近モスルやニネベ平野およびその周辺地域から逃げて来た人たちは、仮の避難所をクルディスタンの町であるアルビルやドホーク、そしてこの地域にあるその他の多くの町や村に見つけた。
クルディスタン地域におけるドホーク行政区域緊急支援活動の責任者であるハバル・モハンマド・アメディー氏は、政府および(教会も含む)非政府機関の救援活動を調整している。IDPsが673の学校とほぼすべての礼拝場所に収容されていることに注目し、彼らの活動は、アメディー氏いわく、この地域に流入してくる物資や専門知識の最も効率的な利用をもたらしている。
「私たちはここであらゆる資源(情報)を集めています。さまざまな機関から来た私たちの同僚たちは、週1回の割合で会合を開いては、情報を共有し、どこに格差があるのか、そしてどこで私たちがこの問題をまとめて克服するための実行を改善できるかを確かめます」と彼は言う。
ドホークのすぐ北にあるカンケという町は、人口が2万5千人から10万人にまで膨れ上がり、そのほとんどがヤジディ教徒で、シンジャルやその他の地域におけるISISの大虐殺という暴力から逃れて来た。町の郊外にあるだだっ広い6万人収容のUNHCRのテント野営地と共に、学校や公共建築物、そして地元の家庭に収容されたこれらの避難民は、この町の経済基盤の許容能力を引き延ばした。依然としてISISの支配下にある故郷や村落へ帰る見通しが立たない代わりに、滞在を引き延ばすためにこれらの人々が落ち着くにつれ、水や衛生、そして食糧の調達は人道支援団体にとって相変わらず懸念事項となっている。
避難民の窮状
WCCの代表団が対話した人たちのほとんどは、着の身着のまま故郷を逃れてきた。改宗するか、離れるか、さもなければ死ねという、ISISの暴虐な繰り返し文句は、あちこちの町で繰り返され、ISISが代弁していると主張する人たち以外の全ての宗教集団がいたこれらの村落は誰もいなくなった。WCC代表団が聞いた話で繰り返し出て来た話題は、ISISの勢力が地元のイスラム教徒たちをこれらの町における彼らの代理人として雇いやすく、近所の人たちを裏切っては追放し、離れようとしなかった、または離れられなかった人たちの看守としての働きをしているということであった。
モスルの南にある村の出身であるヤジディ教徒の男性であるアヤド・ハッジョ氏は、彼の地域社会が近くの山へ撤退した後に起きた、ISISの戦士たちによる大虐殺について語った。疲れ果てたり動力がなくてその山を離れられなかった人たちは守る術がなかった。「ISISの戦士たちは数百台の車でやって来ては、動けなかったその人たちを攻撃した。彼らが終わると、彼らは私たちの宗教的な対象物をすべて破壊したのだ」と彼は言う。その攻撃の後、ハッジョ氏が言うには、彼の兄弟がその山へ調べに行ったという。「彼が見つけたのは遺体だけだった」と彼は言う。
人々が逃げることを余儀なくされたという緊急事態もあって、財産やお金、パスポートや身分証明書などの文書を持っている人たちはほとんどおらず、避難所や衣料は援助団体に頼りっきりだという。
カンケの町長であるピーア・デヤン氏が言うには、その町は最善を尽くしてこのように大量に流入してくる人々を収容しているが、援助団体からの助けが継続し増大しなければ、その需要に追いつくことができないだろうという。
人道的危機
彼が言うには、直近で必要なのが、個々の調理用品に加えて、冬物の衣料と避難所だという。UNHCRのテントが何キロにもわたって景色を覆っているとは言え、これらのビニールでできた壁つきの建物は、夜間の気温が零下を下回りかねないイラク北部の寒い冬から何も守らないだろう。ほとんどの人たちが故郷から着の身着のまま逃げて来たのは真夏であったことからすれば、寒い天気用の衣料が緊急に必要である。
UNHCRや他の援助団体の監督の下で、共用の台所がキャンプの中や町内会所に作られた。デヤン氏は、こんなにたくさんの人たちに食事を与えるにはこれが効率的な方法だと言ってはいるが、ある時点で家族は自分たちで調理することができるようにする必要があると彼は感じている。「自分たちの基礎的なニーズに精を出そうと長い列を作って並ぶ代わりに、彼らが自分たち自身の食事を調理するというだけで、通常の状態に戻る印となるだろう」と彼は言う。
観察と報告に基づくニーズを強調して、WCC国際関係教会委員会(CCIA)局長であるピーター・プローブ氏は、9月1日、イラクの人権状況に関する国連の人権委員会特別会合に報告書を送った。プローブ氏は、人道支援のニーズが持つ即時性と規模を強調し、この状況には「国際社会全体が注意の焦点を当て続ける根拠が十分にある」と述べた。
プローブ氏の報告書は、この地域で刑罰放免の文化を支えている人たちを非難するよう国連に呼び掛け、イラクとシリアにおける戦争犯罪や人道に対する犯罪で有罪である人たちを処理して訴追するために戦争犯罪法廷の設立を強く求めるものであった。彼は加えて、国際社会の中でISISに対して物資や資金、そして道義的な支援をする人たちは、「名指しをして」、この地域にテロリズムや過激思想そして暴力を永続化させていることの「責任を取ってもらう」よう求めた。
包括的な対応の必要性
これらの呼び掛けに加えて、プローブ氏は国連に対し、ヤジディ教徒やキリスト教徒、そしてイスラム教徒の少数派社会に対する、ISISによる信教の自由の侵害を調査するよう求めた。彼は、東洋で最も古いキリスト教共同体の一つである、モスルにあるキリスト教の地域社会が、ほとんど排除されてしまったことに特に言及している。「この都市にはキリスト教徒が残っておらず、教会や修道院、そして聖典といった、この古代の共同体が持っていた物的な名残は、神聖を汚されて破壊されてしまった」と、彼の報告書には書かれている。
プローブ氏の報告に続いて、WCC総幹事のオラフ・フィクセ・トゥヴェイト牧師・博士は、加盟教会に対する声明文の中で次のように述べた。「イラク政府にはその市民を守る責任があり、もしそれができないのであればその時は国際社会が立ち入って、故郷から容赦なく追いだされた人々の安全を確保しなければならない。この地域における国際的な軍事力の適用がもしあれば、国連安全保障理事会の権限の下に行われるべきだ」
トゥヴェイト氏はこの地域における多様なニーズを強調し、援助が届くとはいえ宗教的少数者の保護を求めた。「国際社会は自らの責任を行使して、この地域のキリスト教徒やその他の宗教社会の人たちを含め、これらの非常に脆弱な人たちを守らなければならない」と彼は語った。
これを書いている時点では、すでに進められている人道支援物資の大規模な配給を超えた、この状況に対する長期的対応を、国連はまとめていない。
(レポート:グレッグ・ブレッケ)
※ グレッグ・ブレッケは世界の宗教に関連する人権や世界の保健問題を専門とするフリーランスのジャーナリスト。シックスビューー・スタジオ(SixView Studios)の創立者で、米国に拠点を置くアソシエイテッド・チャーチ・プレスの会長。
※ 2014年のWCCによるイラク訪問を録画した動画集はこちら。