衆議院本会議で安全保障関連法案が可決されたことを受けて、日本のキリスト教界では、さまざまな教団や団体から、同法案に抗議する声明や文書が出された。
日本聖公会は17日、「安全保障関連法案に対する緊急声明」を発表。「安倍政権が掲げる『積極的平和主義』は『戦争で平和を創る』ということであり、集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法案は憲法違反である」とし、同法案の撤回・廃案を求めた。
日本聖公会管区事務所の矢萩新一総主事によると、この声明は英訳して、世界の聖公会のニュースメディアである「アングリカン・コミュニオン・ニュース・サービス」(ACNS)で発信する予定だという。
声明は矢萩総主事ら5人の連名で出されており、「安全保障関連法案は、自衛隊が『いつでも』(国際平和支援法)・『どこでも』(重要影響事態法)・『切れ目なく』(グレーゾーン)、他国が起こす戦争に介入し、武力を行使できるようにする『戦争法案』です」と主張。「わたしたちは、自衛隊を他国で戦う軍隊に変え、戦争をする国にするような法案を認めることはできません」としている。
日本ホーリネス教団も17日、教団委員会の中西雅裕委員長ら3人の連名で、「安全保障関連法案強行採決に抗議する声明」を発表した。昨年7月の集団的自衛権の行使容認閣議決定から、今回の安保法案衆院可決に至るまでの政府の姿勢は、野党の質問に真摯(しんし)に答えず、憲法学者の声に耳を貸さず、反対・懸念の声が多い世論調査を無視するものだと指摘。「日本国憲法の根幹である『国民主権』の原則をないがしろにする高ぶりと言わざるを得ません」と糾弾し、同法案の廃案を求めた。
日本福音ルーテル教会は、社会委員会が16日、公式ニュースブログに「安保関連法案についての現状を踏まえ、これを憂う」という見出しの記事を掲載。同教会は2006年、「『日本国憲法』の前文および第9条の改定に反対する声明」を、同委は昨年、「真の平和を実現するために—集団的自衛権の行使容認を懸念するー」と題する文書を発表しており、今回の安保法案衆院可決に対しても、これらの文書をもって姿勢を示すとした。
日本バプテスト同盟は16日、「総理大臣が『国民の理解が得られていない』との認識があるにもかかわらず、議論を打ち切り、採決を強行したことは許されることではありません」など抗議する、安倍晋三首相へ宛てた山本富二理事長の書簡を公式サイトに掲載した。山本理事長は、「日本の周辺諸国、世界のあらゆる国々との信頼関係を培っていくことこそが今日本政府のなすべきことです」「多くの人々の流された血の上にある平和憲法を踏みにじるような愚行は止めて下さい」などと訴え、安保法案の廃案を求めた。
日本YMCA同盟は16日、安全法案の廃案を求める緊急声明を公式サイトで発表した。島田茂総主事名で出されたこの声明は、「この法案を強行に制定させることは、戦後培ってきた日本の民主主義、立憲主義、国民主権の存立の崩壊と言わざるを得ません」と主張。「特定秘密保護法・集団的自衛権行使容認決議に続き、明らかな憲法違反となる安全保障関連法案を国民の理解の無いまま制定し、理解は後からしていただくという考えは、第二次世界大戦を歩んだ日本政府の辿(たど)った道を彷彿(ほうふつ)させます」と述べている。
一方、日本同盟基督教団は、安保法案の衆院可決前の14日、公式サイトに「日本同盟基督教団『教会と国家』に関する戦後70年宣言文―この時代に見張り人として立つ―」(6日付)を掲載した。戦時下の罪責告白などを含む、同教団がこれまで出してきた宣言を振り返りつつ、戦後70年となる今年、「改めて神である主への悔い改めと、平和をつくる者としての使命」を宣言。その中で、「2014年には戦後69年間、歴代政府が『違憲』としてきた集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、現在、国会において安全保障関連法案が審議されています。改憲の動きが進み、いよいよ憲法改正への発議がなされるのではないかとの懸念があります」などと述べている。
日本基督教団は14日、「戦後70年にあたって平和を求める祈り」を常議員会で可決。この中で、「今、日本は、多くの憲法学者が憲法違反と指摘しており、多くの国民が懸念しているにもかかわらず、集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、そのための安全保障法案を国会で議決しようとしています」と安保法案に言及し、懸念を示した。
また、日本バプテスト連盟の性差別問題特別委員会は14日、安倍首相らに宛てた「命を軽んじ尊厳を奪う安保関連法案成立に反対する要望書」を発表した。この他、日本バプテスト連盟理事会と日本カトリック正義と平和協議会は15日、衆院平和安全法制特別委員会で安保法案が採決された直後、抗議声明を発表している。