1965年3月7日、米アラバマ州セルマでマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の指導の下、黒人の選挙権を求めてデモ行進した約600人が、警官隊に暴力で鎮圧された「血の日曜日」。この事件を題材にし、昨年米国で公開された映画『セルマ(原題)』が、6月から日本で上映されることが決まった。複数の映画関連ニュースサイトが伝えた。
製作には、ブラッド・ピットや『プレシャス』の製作総指揮を務めたオプラ・ウィンフリーらが参加。全米有色人種地位向上協会(NAACP)による「NAACPイメージ賞」で、作品賞、主演男優賞を含む4部門で受賞、主題歌「Glory」は、今年の第87回アカデミー賞で歌曲賞を受賞した。
主人公のキング牧師を演じるのは、『リンカーン』『大統領の執事の涙』などで知られるデビッド・オイェロウォ。さらに、『グランド・ブダペスト・ホテル』にも出演しているトム・ウィルキンソンが、黒人の公民権と投票権を認めた米第36代大統領リンドン・ジョンソンを演じている。
キング牧師はバプテスト派(プロテスタント)の牧師。主にアフリカ系米国人の公民権運動の指導者として活躍した。「I Have a Dream(私には夢がある)」で知られる有名なスピーチを行った人物であり、1964年にはノーベル平和賞を受賞している。
米国では、エイブラハム・リンカーン大統領(当時)による奴隷解放宣言(1862年)により奴隷制は廃止されたが、その後も学校やトイレ、プールなどの公共施設やバスなどの公共交通などにおいて、人種に基づく差別が容認され続けてきた。
1954年からアラバマ州モンゴメリーで牧会していたキング牧師は、白人にバスの座席を譲らずに逮捕されたローザ・パークスさんの事件に抗議して、モンゴメリー・バス・ボイコット事件運動を指導。以降、公民権運動のリーダーとなっていく。
また、キング牧師は人情に厚い人物としても知られる。当時、暴力的手法を含む強行的な手段で、人種差別の解決を訴えていたマルコムXとは反発しながらも、彼が暗殺されたときにはその死を嘆き、「マルコムXの暗殺は悲劇だ。世界にはまだ、暴力で物事を解決しようとしている人々がいる」と語ったといわれている。
キング牧師も1968年、テネシー州メンフィスで遊説活動していた際に凶弾に倒れるが、彼の活動により公民権法が施行されるなど、法的側面からの人種差別撤廃に大きく貢献した。キング牧師の生涯は、日本でも中学校の英語の教科書で紹介されるなどしている。
この映画が描く「血の日曜日」の凄惨(せいさん)さは、当時テレビで報道され、米国の公民権運動を後押しすることになった。上映時間は128分。6月から、東京・有楽町のTOHOシネマズシャンテほか全国で公開される。
■ 映画『セルマ』予告編