北星学園大学は17日、ホームページで「国際交流特別科目の非常勤講師との次年度契約について(報告)」と題する文書で、元朝日新聞記者の植村隆氏との 2015年度の契約を更新すると発表した。
大山綱夫理事長と田村信一学長の名で出されたこの文書で同大は、同大の評議会や全学公聴会、経営母体となる北星学園の理事会や評議員会など、学内のさまざまな立場で議論を重ねてきたことを説明。同大の掲げるキリスト教の建学精神や同大の歴史、また教育機関として暴力や脅迫に屈するべきではないといった観点から、契約更新を支持する立場がある一方、学生の安全と平穏な学習環境を維持するため、事態を早く収束すべきという立場があったという。
双方の立場について同大は、「われわれが置かれている状況を率直に表現したものであり、それぞれが正当な根拠を有している」としながらも、「大学内外を取り巻く状況を勘案すると、暴力と脅迫を許さない動きが大きく広がり、そのことについての社会的合意が広く形成されつつあり、それが卑劣な行為に対して一定の抑止力となりつつあるように思われます。このような状況からも、本学として主体的に判断した次第です」と、今回の決定に至った理由を説明した。
プロテスタントのキリスト教信仰を建学の精神とする同大は10月1日、従軍慰安婦問題に絡めて元朝日新聞記者である植村隆氏の講師採用に対して同大に寄せられた抗議や脅迫への対応を説明した文書を、同大学長名で公式サイトに掲載し明らかにした。その後、学問の自由や大学の自治、言論の自由を守り、同大や個人、家族への脅迫、嫌がらせを許さないとして、クリスチャンを含む学者やジャーナリスト、法律家などが同6日に「負けるな北星!の会」(略称マケルナ会)を結成した。
同23日、警察は新潟県の男が脅迫電話をかけたとして、この男を逮捕。田村学長は同24日、「本学に対する脅迫電話の容疑者逮捕について」と題する文書をサイトに掲載し、同大関係者の安堵の気持ちと警察関係者への感謝などを表した。
ところが、同31日、田村学長は学内会議で、一転して植村氏を来年度は雇用しない方向で検討していることを明らかにしたことが、一部の報道機関によって報じられた。これについて同大学は、「今後、学内での様々な手続きが必要であり、本学としての最終決定ではございません」などとする文書をサイトに掲載した。
逮捕された男は、11月7日に札幌地裁がその拘留取り消しを決定したために釈放されたものの、任意で捜査が続けられ、札幌区検によって略式起訴された。朝日新聞などの報道によれば、札幌簡裁はこの男に14日付で罰金30万円の略式命令を出したという。
同日、東京都内で行われた鈴木範久氏(立教大学名誉教授)による内村鑑三に関する講演会で、大山理事長は、「内村(鑑三)や新渡戸(稲造)が願った日本とは違う方向へ急旋回していると思わざるを得ません」と、短く同大に対する脅迫事件について言及した。
また、北海道新聞が同8日に伝えたところによると、同じくプロテスタントのキリスト教主義大学である明治学院大学(東京都港区)の教員有志が、脅迫に屈せずに北星学園大学を支えるとする声明を出し、同大に送付するとともに、それを書いた立て看板を東京と横浜のキャンパスにそれぞれ掲げた。
そして同17日には、日本キリスト教婦人矯風会(東京都新宿区)が、同大に対し、平和を脅かす言動に屈することなく大学の自治、言論、学問の自由を堅く守ることを要望する書簡を送付したと発表していた。