プロテスタントのキリスト教信仰を建学の精神とする北星学園大学(北海道札幌市)は1日、従軍慰安婦問題に絡めて元朝日新聞記者の講師採用に対して同大学に寄せられた抗議や脅迫への対応を説明した9月30日付の文書を、同大学長名で公式サイトに掲載した。
「本学としては、建学の精神・教育目標に照らし、また、学生の皆さんおよび植村氏との契約を誠実に履行すべく、万全の警備態勢等を取りながら後期の授業を継続しています。なお、来期以降については、全ての非常勤講師の担当授業依頼と同様、本授業についても検討されているところです」と、田村信一学長は「本学学生および保護者の皆さまへ」と題する説明文で述べた。
田村学長の説明によると、大学に寄せられる意見のほとんどは、「朝日新聞社の植村記者が報道した従軍慰安婦問題は、事実に反する捏造である」という立場から、「なぜ捏造するような人物を採用するのか」という趣旨の抗議だという。
今年3月中旬から現在に至るまで、電話やメール、ファックス、手紙などで、多くの抗議が大学や教職員に寄せられており、政治団体などによるビラの配布や街宣活動なども大学周辺であったという。また、5月には危険な行動を示唆する悪質な脅迫状が届き、7月にも同一内容の脅迫状が複数届くことがあった。「大学を爆破する」と脅す電話もあり、警察に被害届を出し、現在捜査が行なわれているという。
田村学長は、「抑圧や偏見から解放された広い学問的視野のもとに、異質なものを重んじ、内外のあらゆる人を隣人と見る開かれた人間」を養成することが同大学の教育目標であるとし、下記の3つの立場を堅持すると表明している。
- 学問の自由・思想信条の自由は教育機関において最も守られるべきものであり、侵害されることがあってはならない。したがって、あくまで本学のとるべき対応については、本学が主体的に判断する。
- 従軍慰安婦問題ならびに植村氏の記事については、本学は判断する立場にない。また、本件に関する批判の矛先が本学に向かうことは著しく不合理である。
- 本学に対するあらゆる攻撃は大学の自治を侵害する卑劣な行為であり、毅然として対処する。一方、大学としては学生はもちろんのこと大学に関わる方々の安全に配慮する義務を負っており、内外の平穏・安全等が脅かされる事態に対しては、速やかに適切な対応を取る。
警察との連携も図り、不測の事態に備え、危機管理コンサルティング会社や弁護士など、外部専門家と連携した危機管理態勢も構築しているという。
田村学長によると、植村氏が担当する国際交流特別講義は、海外の提携校の要請により開講したもので、外国人留学生向け(日本人学生にも開講)に、「北海道の歴史と文化」などをテーマに行われているという。田村学長は「慰安婦問題や過去の特定の記事には何ら関係がないものです」と説明している。
北星学園は、1887年に米国の女性宣教師であるサラ・C・スミスがスミス女学校を開設し、北海道の女子教育に着手して始まった。クラーク博士の薫陶を受けた学者たちの協力で学園の基礎が築かれ、新渡戸稲造らの助言もあって「北星女学校」と命名された。1951年には女子短期大学を、1962年に男女共学の4年制大学をそれぞれ開設し、2002年に短期大学も共学とした。
なお、朝日新聞(電子版)は9月30日、「帝塚山学院大に脅迫文 元朝日記者教授の退職要求」という見出しの記事を、そして10月1日には、「慰安婦報道めぐり脅迫文 2大学に元朝日記者の退職要求」という見出しの記事を掲載した。これらによると、帝塚山学院大学の同教授は9月13日付で退職したという。