NHKの連続テレビ小説「花子とアン」の主人公のモデルである村岡花子さんと日本キリスト教婦人矯風会(東京都新宿区、以下「矯風会」)のつながりについては、同会の機関誌『婦人新報』に記された花子さんの記事を通じて知ることができる。
しかし、『婦人新報』に掲載されたそれらの記事は、一冊の本にまとめられたり、展示でまとめて公開されてはいない。矯風会によると、同会としては村岡花子さんに関する展示を行ったり、これらの記事の抜き刷りを本にして出版する予定はなく、矯風会のことがNHKの「花子とアン」に出てくることもないという。それだけに、NHKのテレビドラマの画面だけでは知ることのできない花子さんの世界が、この『婦人新報』にはある。
『婦人新報 解説・総目次・索引』(不二出版、1986年)の巻末索引によると、「安中花」「安中花子」「村岡花子」の名前で書かれた『婦人新報』の記事の数は、合計で170を超える。
その内容は短編・長編小説や童話の翻訳や詩・短歌・歌の評論などを中心に、会場書記として書いた矯風会の大会記録の報告や座談会の記録、書評や感想文、祈りのための文章や讃美歌の歌詞、文書部長や青年部長としての報告など多岐にわたる(下記の一覧表を参照)。文書部の報告を読むと、花子さんが部長を務めた文書部がどういう活動をしていたのか、また部長個人としての働きが分かる。
学生時代に矯風会で奉仕活動をし、同会の文書部で働いていたという花子さんが最初に書いた記事は、102年前の同誌175号(1912年(明治45年)1月25日発行)の13ページから14ページまで掲載されている「偶感」という文章と、詩が一つ。旧字体による文章の初めに「靑年部 安中花子」の名前が記されている。
花子さんの結婚後、同誌に掲載された花子さんの最初の記事は、94年前の同誌270号(1920年(大正9年))の11ページに掲載されている「米國の禁酒令實施に就いて」。「文書部長 村岡花子」と記されたこの記事には、当時の米国における禁酒令をめぐる同国内の事情が報じられている。
禁酒問題や政治を論じたものでは他に、例えば第385号に掲載された「我黨代議士に聽く」という座談会の記録では、矯風会側から出席した花子さんが、「婦選が實現すれば女の要求といふ立塲から、無産黨も禁酒を綱領に入れねばならなくなりますね」と発言している。また、第412号では、「自由の國米國に寄す」という文章で、禁酒法を覆そうとする米国民へ再考を求めている。
最後は第444号の40〜41ページにある「愛讀の一隅 この頃の感想から―」(1935年(昭和10年)3月1日発行)という記事で、当時の東京朝日新聞に掲載された女性運動家・金子しげり女史の記事「女性と議會その日その日で」を推賞している。
さらに、第416号では、「文學を愛する若き人々へ」と題する文章で、青年部長を務めていた花子さんが、「日本の廢娼運動のために、禁酒運動のために、明日の新日本建設のために、新しき意味に於ける基督敎文學者の出現を必要とします」と述べた上で、それが「我等の靑年部より出でよと叫んで、皆樣の雄飛をうながします」と結んでいる。
言うまでもなくいずれも旧字体で書かれている上、各号に掲載された広告も、歯磨き粉など当時の女性向けの商品が写真ではなく絵で紹介されていて時代を感じさせるものがあり、興味深い。
矯風会のホームページには、「村岡花子と矯風会」という見出しとともに、「私も矯風会員だったのよ!」と語る吹き出しがついた花子さんの写真と、「詳しくは、矯風会の婦人新報1345号で」と書かれた画面が他の画面と交代で数秒間出てくる。実際、同会の会報『婦人新報』2014年4月号(第1345号)には、「花子とアンと矯風会」という記事が掲載されている。同会はそれについてツイッターでお知らせをし、同号を一部291円で販売しており、同会のホームページでオンラインでも注文ができる。
同会がある矯風会館の入り口付近の掲示板にも、『婦人新報』について、「NHK朝ドラの、あの村岡花子が編集していた冊子です!〜2階事務所にて販売中〜 291yen 月〜金10〜15時OPEN」と書かれている。また、「矯風会だより」No.43(2014年2月1日)にも、「『花子とアン』(NHK連続テレビ小説)の主役ときょうふう会の関係とは?」という見出しの短い記事が掲載されている。
また、矯風会との関係については、村岡恵理著『アンのゆりかご―村岡花子の生涯』(マガジンハウス、2008年 / 新潮文庫、2011年)、同編『村岡花子と赤毛のアンの世界』(河出書房新社、2013年)、同編『花子とアンへの道』(新潮社、2014年)、同監修・内田静枝編『村岡花子の世界』(河出書房新社、2014年)でもそれぞれ簡潔に触れられている。
なお、『婦人新報』がある矯風会資料室の開館時間は毎週月・火・金曜日の午前10時から午後5時まで。同資料室や『婦人新報』など、詳しくは同会まで事前に問い合わせのこと。また、『婦人新報』はバックナンバーの合本を含め、国立国会図書館や、北海道・千葉県・広島県・東京都・福岡市・横浜市など一部の地域にある公立図書館、沖縄キリスト教学院など12の大学図書館にもあり、国立国会図書館のウェブサイトやサイト「大学図書館の本をさがす」でも検索できる。
■『婦人新報』に掲載されている、安中花(子)・村岡花子による記事一覧表
『婦人新報 解説・総目次・索引』(不二出版、1986年)の巻末索引とバックナンバーの合本を基に本紙記者が作成。数字の左側は号数、ハイフンの右側はその号のページ数。*は左隣の漢字が旧字体。
安中花(子)
175-13 偶感
175-14 詩(無題)
176-24 少年禁酒軍敎師會
177-18 我
178-15 動物を愛護せよ
179-16 我が魂と、我が心
183-24 無題錄
184-31 おとづれ「本部だより」「少年禁酒軍敎師會」
188-25 二日の働(The Two Day’s work)
191-20 綠の小島
192-18 平和運動に就て
192-27 少年禁酒軍敎師會
198-26 花籠 薔薇
200-24 詩(無題)
200-28 詩「春」
203-16 初夏の頃
205-12 第廿二回婦人矯風會大會記錄
205-23 文書課
206-16 夢の華
207-23 イエスお祖父さん
208-17 速達郵便
209-20 おもひでの一つ
210-22 林檎の木の喩
211-26 病室の天使
212-25 藝術家
214-35 霜の王樣
216-19 愛宕山より
217-22 帰京して
218-23 老樂師
220-17 聖母
221-17 なでしこ
222-18 利巧者(上)
223-16 「夕ばえ」を讀みて
223-19 利巧者(下)
224-18 二人の姪(上)
225-20 二人の姪(下)
226-12 天使の御見舞(上)
226-17 基督敎婦人矯風會第二十四回大會記錄
227-18 天使のお見舞
228-16 天使のお見舞(下)
229-19 電話
230-18 光
231-17 光
232-16 光(三)
233-15 虛禮廢止(上)
234-22 虛禮廢止(下)
235-18 日記帳より
237-29 愛のみとの(奉堂の歌)、老松(除幕式の歌)
238-12 第廿五回大會記錄
238-42 文書部長報告
239-21 他の博士(承前)
241-15 正午の祈禱
242-20 「緬甸(ビルマ)の片陰」
243-23 歌を詠んだ色々の時
244-22 クリスマスの鎖*
245-1 うまぶねの君
248-24 勲章の貴婦人(レデー オブ ダ デコレーシヨン)
249-21 花咲*く家
250-21 花咲*く家
251-17 花咲*く家
252-16 花咲*く家
253-9 基督敎婦人矯風會第廿六回大會記錄
253-32 大正六年度本部文書部長報告
254-23 花咲*く家
255-18 花咲*く家
256-21 花咲*く家
260-19 花咲*く家
261-16 花咲*く家
262-14 第廿七回大會記錄
264-9 銀の甕
265-25 美しい家族
266-26 美しい家族 その二
267-25 美しい家族 その三
村岡花子
270-11 米國の禁酒令實施に就いて
272-22 三階部屋の消*滅
273-12 三階部屋の消*滅
273-18 基督敎婦人矯風會第廿八回大會記錄
274-18 夢の華
274-19 三階部屋の消*滅
276-25 三階部屋の消*滅
277-9 試さるる日(短歌)
279-22 母
282-3 母の歌へる
284-8 第二十九回基督敎婦人矯風會大會記錄
284-27 文書部報告
285-27 鈴蘭草(童話)
286-22 遥かなる綠の丘(感想文)
287-25 不思議な話
288-17 騎士の幻
289-19 マリンソンの勝利
290-22 ルツ子のクリスマス
291-24 ルツ子のクリスマス(つづき)
294-21 母の立塲から靑年への希望
295-46 文書部
295-49 若き王子
296-18 かなしみの道
297-31 名作物語その一 骨薰屋の古店(チヤアレス、デツケンス)
298-34 名作物語その二 フロス河の水車(ジョージ、エリオット)
299-32 名作物語 こどものため 一つ眼の大男(ホーマー)
300-29 秋
302-34 クリスマスのお話
305-36 星の子(童話)
306-35 星の子(童話)
307-29 童話 黄金の川の王樣
312-39 童話 黄金の川の王樣(つづき)
313-38 黄金の川の王樣(童話)
314-38 黄金の川の王樣
319-23 童話 蒲公英と妖精
323-39 姿見の夢
328-29 文書部報告
331-49 偉大なる死
338-附6 第丗五回基督敎婦人矯風會大會記錄
338-附24 文書部報告
338-46 吾子
339-36 創作 奇遇
340-32 靑草
341-44 文書部の新運動
342-38 創作 母の旅行
344-34 二つの小說
346-38 童話 樅の木
350-14 盛會なりし大會(明治神宮外苑日本靑年會に於ける)
351-23 盛會なりし大會(二)(明治神宮外苑日本靑年會に於ける)
353-31 約束
357-34 さびしいクリスマス —愛兒道雄の靈にささぐ
362-14 大會記錄 神戸に於ける第三十七回大會
362-34 水は自由に流れる
366-51 道
366-52 「高原」を讀んで
367-48 深夜
367-49 創作 しぼまぬ花
369-42 なつかしき歌曲 —クリスマスにちなめる—
371-3 正午の祈り 旅
376-8 母の座談會 夏休・性敎育 卓をかこんで
377-42 小品 星と百合
379-3 正午の祈り 正午
382-3 正午の祈り 新しき朝
385-10 我黨代議士に聽く
387-5 正午の祈り 先驅—矢島先生を憶ふ—
389-13 大きい夢 小さい夢
397-52 まりをねつと(オー・ヘンリイ)
403-6 ラヂオ批判座談會(但し婦人の立塲から)
404-47 辻馬車(ゴルスワージイ)
406-50 あざらし(エル・エー・ジー・ストロング)
408-20 「世相と子供」座談會
408-50 忠実な妻(モーレイ・コラガン)
410-5 正午の祈り この一事を努む 手を揚げて叫ぶ
410-34 若人の頁 靑年部の皆樣へ—就任のご挨拶とともに— 靑年部長 村岡花子
411-21 先驅者を語る會 五月十三日午後四時半*、於本部會館
411-44 靑年部六月の活動—「花の日」を中心として—
412-5 正午の祈り この一事を努む 自由の國米國に寄す
412-38 若人の頁 夏休の活動 靑年部長 村岡花子
413-48 掾先の臨時書齋から 靑年部長 村岡花子
414-42 朝の歌 靑年部長 村岡花子
415-(3)
416-5 正午の祈り この一事を努む 秋の姿
416-48 文學を愛する若き人々へ 靑年部長 村岡花子
418-30 靑年部欄 水の如く古く 水の如く新しく
418-48 文苑 長編小說 婚約破棄(1) マーガレット・ウイドマー(米)村岡花子訳
419-51 文苑 長編小說 婚約破棄(2)
420-48 文苑 長編小說 婚約破棄(3)
421-52 文苑 長編小說 婚約破棄(4)
422-50 文苑 長編小說 婚約破棄(5)
423-25 古い切拔帳から
423-48 文苑 長編小說 婚約破棄(6)
424-50 文苑 長編小說 婚約破棄(7)
425-50 文苑 長編小說 婚約破棄(8)
426-51 文苑 長編小說 婚約破棄(9)
427-54 文苑 長編小說 婚約破棄(10)
428-50 文苑 長編小說 婚約破棄(11)
429-51 文苑 長編小說 婚約破棄(12)
432-20 座談會 基督者婦人と社會運動
1 社會事業及び社會運動に對し基督者婦人はいかに考へるか
2 現在の社會運動に對する批判及び希望
3 何が敎會婦人と社會運動團體との協力を困難ならしめるか
4 どうすれば今後敎會婦人と社會運動團體が圓滑に提携協力できるか
433-48 同志の書架 深尾須磨子氏の「葡萄の葉と科學」を讀む
435-38 書架 「にんじん」を讀む
444-40 愛讀の一隅 この頃の感想から