新教出版社の創立70周年を記念する連続神学講演会の第1回が26日、日本基督教団信濃町教会(東京都新宿区)で開かれ、『西ドイツの精神構造』(岩波書店)などの著書がある東北大名誉教授の宮田光雄氏が講演した。約150人を前に、今年で成立80周年を迎えるバルメン宣言について、政治学の視点から解説した。
バルメン宣言は1934年、ナチス政権とそれに迎合する教会内勢力と戦うため、ドイツ国内のルター派と改革派、合同派が一致して採択した信仰告白。トーマス・ブライトとハンス・アスムッセンの協力のもと、主としてカール・バルトが起草し、ドイツ教会闘争の神学的根拠となった。
宮田氏は、ドイツ教会闘争の政治学的意義について、「国家による教会の支配、国家との一体化を阻止したという事実がもっとも重要」と強調し、「後のドイツ国防軍やその他の反ナチ抵抗運動に対して、精神的、道徳的な促しを与えた」と論じた。
バルメン宣言の第一テーゼでは、「聖書においてわれわれに証しされているイエス・キリストは、われわれが聞くべき、またわれわれが生と死において信頼し服従すべき神の唯一の御言葉である」とした上で、「教会がその宣教の源として、神のこの唯一の御言葉のほかに、またそれと並んで、さらに他の出来事や力、現象や真理を、神の啓示として承認しうるとか、承認しなければならないとかいう誤った教えを、われわれは退ける」とある。
この第一テーゼについて宮田氏は、「(ナチス政権による)政治的な救済宗教の偶像崇拝に正面から対立した」と強調した。さらに、「神の唯一の御言葉」と取り替えられうる「他の出来事や力、現象や真理」を現代社会に置き換えて考察し、「(マスメディアやインターネットなどの映像文化の発達により)閉鎖された各人の私生活の中で、支配者である何者かが明確に自覚されないままに独裁制が成立している」と全体主義的傾向の強まりと行き過ぎた営利主義に危機感を示した。その上で、「一人ひとりがかけがえのない個として人間らしく生きていくためには、バルメン宣言にうたう『神の唯一の御言葉』、すなわちキリストの福音に立ち返るほかないのではないか。そうしてはじめて、市民的でパブリックな社会を形成する主体的な力、勇気、希望を持つことができるのではないか」と述べた。
安倍政権が掲げる「積極的平和主義」については、「デマゴギー以外の何物でもない」と断じ、「積極的平和の保障どころか、戦闘行為の勃発する危険性を高めるだけ」と強く批判した。宮田氏は、「自分の国に対して無批判のままに暮らすことは許されない。政治や社会の問題に対して、自分の中で思想良心の核となる信仰、普遍的な原理を持ち、はっきり賛否を表明する責任がある」と訴えた。