韓国人のテレビドラマ愛はよく知られている。韓国では連続ドラマの放送は週2回が基本。「月火ドラマ」「水木ドラマ」「週末ドラマ」(土日の連日)と呼ばれる三つの放送枠が主流で、さらに「連続朝」(月~土)、「連続夜」(月~金)がある。 全100話を超えるドラマも珍しくない。
このような多作と質の高さが、もちろん玉石あるにしても、アジア各国での韓流人気を盛り上げてきた。今やドラマ・コンテンツは韓国の重要な輸出品だ。
日本でも韓流ドラマが放送されない日はない。ブームに火をつけたのはNHKが放送した『冬のソナタ』であり、同じ放送枠の『チャングムの誓い』がそれを決定的にした。NHKは現在も『トンイ』を放送している。
視聴した方はおわかりになると思うが、これらのドラマには共通項がある。物語上の次のような設定だ。「美しく清い心の少女」「出生の秘密」「いわれなき迫害」「試練に正しく向き合う姿勢」。ここで重ね合わせて思い浮かぶのが、『氷点』である。主人公の陽子は、美しく清い心の持ち主だが、出生の秘密をめぐって不当な迫害を受ける。試練に負けずに正しく生きようとする。清いはずの自分の心の闇にも気づかされていく。
私たちの心を揺さぶり、回心を呼び起こす『氷点』物語の基本型が、現在の韓流ドラマに受け継がれていることは想像に難くない。主人公を美少女ではなく、イケメンの少年に代えるなど変化させてはいても、よく観察すると『氷点』のバリエーションと指摘できるドラマが多い。ともすればワンパターンという評価につながりかねないが、視聴者を飽きさせまいとする創意工夫は常に注がれている。
ひるがえって最近の日本のドラマを思う時、残念ながら『氷点』から引き継がれた「美点」は見い出しにくい。昨年放送された『八重の桜』は、ヒロインの台詞「ならぬことはならぬ」そのままの正義と純真さで記憶に新しい。キリスト教に直接つながる例外的なドラマだった。全体を見れば、日本のドラマで主人公が最初から心清く描かれる例は、むしろ少数なのではないか。
真っ直ぐに正しさを求めることを、古くさいと思ったり煙たがったりするのが、今の日本だからなのだろうか。また、異性間における性的な清さ正しさについての葛藤もなく、安易に関係を結ぶという一部のドラマのあり方は、私たちのリアルがそうだからなのだろうか。
最近では児童養護施設を舞台にしたドラマにおいて、過度に露悪的な表現で話題性を狙うかのような姿勢が物議を醸した。(続く)
(ライター・高嶺はる)