三浦綾子のデビュー作『氷点』が世に出て50周年。三浦綾子記念文化財団は懸賞小説の公募を含む記念事業を発表した。今なお人気の衰えない三浦文学と、一見して接点がないかのように思える韓流ドラマとのつながりを考察する。
これまでに最も多くの人を信仰に導いた日本人は?――そんな問いをされたとする。牧師や宣教師の笑顔を思い浮かべつつ、三浦綾子の名を挙げる人も少なくないだろう。小説やエッセイなど82冊を著し、多くの読者の心に光を差し入れてきた文書伝道者として、その貢献は大きい。
1999年に亡くなっているが、彼女の本は今も売れ続け、読書感想文に書かれ、教会の説教に引用されている。著作の言葉は、ネットメディアのツイッターに毎日繰り返し投稿されている。信仰の証は数量で測れるものではない。しかし、多くの人の魂を揺り動かし続けている、力強いメッセンジャーであることは確かだ。
代表作の『氷点』『続氷点』は世界14カ国で翻訳されている。この2冊だけで発行数は810万部、全著作では4200万部を超える。日本を除けば、最も読まれているのが韓国だ。自国文化の保護などを理由に、韓国は長く日本の大衆文化(歌謡曲、テレビ番組、映画、漫画など)を規制してきた。小説については川端康成や三島由紀夫が翻訳されてはいたものの、目立った売れ行きではなかった。
日韓関係が好転しつつあった1960年代後半から、韓国で一躍ベストセラーとなったのが『氷点』だ。以後、ほぼすべての著作が翻訳され、近年になって村上春樹に大きな注目が集まるまで、三浦綾子は韓国で最も愛読された日本人作家だった。
『氷点』は1964年12月から約1年にわたって朝日新聞に連載され、65年11月に単行本が出版された。連載中から『氷点』ブームが沸騰し、新聞社には主人公・陽子の幸せを願う多くの投書や電報が寄せられた。当時から続くお笑い番組『笑点』は、『氷点』をもじった駄洒落として名付けられたという。『氷点』は66年にテレビドラマ化され、続いて映画になり、以降も繰り返し映像化されている。
韓国での動きも早かった。キリスト教の原罪をテーマとする『氷点』のメッセージは、クリスチャン人口の多い韓国において、日本よりも歓迎され支持された面がある。67年の韓国映画『氷点』を皮切りに、やはり何度も映像化され、さらに、『氷点』と設定の似通ったドラマが量産されていった。このことが、現在の韓流ドラマの礎(いしずえ)になったという見方ができるのだ。(続く)
(ライター・高嶺はる)