【CJC=東京】エジプトでは、ムハンマド・モルシ前大統領を支持する派のデモが治安部隊に強制排除された8月14日以降、一連の衝突による死者は800人を超えた。隣国チュニジアやリビアにも動揺がみられ、国際社会の懸念も強まっている。ただ、エジプト軍に強い圧力をかけると逆に安定を損なう恐れもあり、米欧諸国は有効な対策を打ち出しかねている。
国連安全保障理事会は15日に非公開の緊急会合を開催、エジプトの「すべての勢力」に対して暴力の停止と最大限の自制を求めた。潘基文事務総長は17日、暴力の拡大に懸念を表明し、キリスト教会や病院など公共施設が攻撃されたことを強く非難した。
潘氏はデモ参加者と当局側の双方に「最大限に自制し、直ちに収拾に転じる」よう求め「暴力に乗っ取られた政治プロセスを取り戻す」ことを訴えた。
教皇フランシスコは15日、ローマ郊外カステル・ガンドルフォの夏の離宮で行ったミサで、エジプト治安当局によるモルシ前大統領支持派への強制排除で犠牲になった多数の死者の冥福を祈った。また「エジプトに平和と対話、和解が訪れるよう祈りをささげよう」と呼び掛けた。
世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ=トゥベイト総幹事は16日、エジプトの加盟教会に宛てた書簡で、「前進する唯一の道は、エジプトの同等の市民として相互に認め合うこと、責任と権威を担い、政治的主張や信仰の多様性を受け入れること」だと表明した。
エジプトに年13億ドル(約1270億円)の軍事支援を実施している米国は15日、軍トップのアブドルファッターフ・アッ=シーシー第1副首相兼国防相に対して支援見直しの可能性を示唆した。フランスのフランソワ・オランド大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相は16日、エジプト問題を話し合う欧州連合(EU)外相会合の開催を呼びかけた。EU各国はエジプトに2年間で最大50億ユーロ(約6500億円)の経済支援をする計画だが、実行を見合わせる可能性がある。
欧州連合のヘルマン・ファン・ロンパウ大統領と欧州委員会のジョゼ・マヌエル・ドゥラン・バローゾ委員長は18日、共同声明で「EUはエジプトとの関係を早急に見直し、同国での暴力停止と対話再開を促すための措置を取る」と表明した。これに対しエジプト暫定政権のナビル・ファハミ外相は同日、援助凍結が浮上していることに「受け入れられない。我々は国際的基準に沿って事態に対処している」とけん制した。
国際社会が事態収拾を急いでいるのは人道的な立場に加え、騒乱が周辺地域に及ぶ恐れがあるため。エジプトの騒乱を放置すれば、中東・北アフリカ地域が不安定になりかねないため。
政教分離をうたう世俗派とイスラム勢力の対立、経済苦境にさらされる市民の不満という構図はチュニジアやリビアなども同じ。エジプト騒乱をきっかけに世俗派や市民らが勢いづき、イスラム勢力との対立が深刻になりつつある。
ただ、国際社会が軍・暫定政権への圧力を強めすぎると事態がかえって混乱する恐れがある。現在のエジプトで「軍は唯一の安定装置」であり、米欧はエジプトへの本格的な介入には依然慎重な構え。
暫定政権のハーゼム・エル=ベブラウィ首相は17日、「血に汚れた手で武器を持つ者と和解はできない」として、モルシ前大統領の出身母体「ムスリム同胞団」に対し、解散命令を出すことを検討していると述べた。
ムスリム同胞団は2011年のホスニ・ムバラク政権崩壊まで、長く非合法とされてきたが、福祉活動などを続け、貧困層を中心に支持を集めており、解散命令が出ても、それを受け入れる可能性は低く、一層の反発を招くのは必至と見られている。
一方、同胞団側は17日から1週間、デモ継続を呼びかけた。カイロ市内では軍と警察がデモ阻止へ交通の要所に装甲車などを展開し厳戒態勢を敷いたが、市中心部のイスラム教礼拝施設「ファタハ・モスク」に同胞団支持者が立てこもり、治安部隊と激しい銃撃戦を繰り広げた。同日夕方に治安部隊が強硬突入を図り、同モスクを制圧した。
デモ隊の強制排除後、初めての「平日」の18日。カイロ市内では道路を封鎖していた有刺鉄線が外されてごみの回収作業が行われた。エジプト証券取引所も取引を再開、市中銀行は時間を短縮して営業を再開している。
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