明けましておめでとうございます。2025年を迎えましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。2024年はAI(人工知能)が飛躍的に発展した年でしたが、今年はさらに加速することが予測されます。そこで今回は、AIが私たちの生活様式や常識を急速に変えつつある現代において、キリスト者としてどのように応答すべきかということを共に考えていきたいと思います。
2019年に天に召されたクリスチャントゥデイ前編集長の宮村武夫先生は、沖縄に来られるたびに時間を割いて会ってくださり、「沖縄で聖書を読み、聖書で沖縄を読む」ということを、度々強調して教えてくださいました。つまり、遣わされた地に住みながら、聖書を読んで神様の心を知るとともに、聖書をメガネとし、その地に対する神様の御心を考え、神学するということです。
そしてこのことは「地域」だけでなく「時代」にも同じことがいえます。私たちは、この時代において聖書を読みつつ、聖書をメガネとして今の時代を読み解く必要があるのです。このような思いで「21世紀の神学」という連載を始めましたが、AIの発展は、まさに今の時代を象徴する事象であるといえます。
■ AIの指数関数的な成長
「チャットGPT」を開発したオープンAI社は昨年末、12日連続で最新の進化を発表するというセンセーショナルなイベントを行いました。その中で発表された最新モデル「o1(オーワン)」や「o3(オースリー)」は、その性能において従来のAIを大きく凌駕(りょうが)し、「学ぶ」段階から「考える」段階へと進化を遂げたといわれています。また、画像や音声認識、動画の分野でも進化が見られ、AIは単なるチャットボットを超え、私たちの生活をサポートする、もしくは代替するエージェントとしての役割を担う段階へと移行しつつあります。
ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏は、AGI(汎用人工知能)や、さらに高度なASI(人工超知能)の開発に全力を注いでいて、それを自身の使命であると語っています。そして彼は、AIが人類の抱える課題を解決し、より良い社会を築き上げるというポジティブな側面を強調しています。
一方、『サピエンス全史』などの著書で知られる歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、AIの発達があまりにも急速に進むことに対し、強い警鐘を鳴らしています。ハラリ氏は、AIの急速な進化の過程で、多くの人々が予期せぬ大災厄に巻き込まれる可能性が高いことを指摘し、その開発スピードを意図的に緩めるべきだと主張しています。
彼は歴史的な例として、産業革命を挙げています。産業革命は、人類の生活を豊かにしましたが、同時に、大きな変革に人々が適応するまでの過程で、労働環境の悪化、貧富の格差の拡大、環境破壊など、多くの負の側面をもたらしました。ハラリ氏は、現代のAI革命がその発展の過程において、産業革命以上の規模でより深刻な混乱と苦しみをもたらす可能性があることを指摘しています。
しかし同時に彼は、AIの開発スピードを緩めることが非常に困難であることも承知しています。なぜなら、AI技術で先行することは、経済的、軍事的な優位性を確立することにつながるからです。どの国も企業も、他者に先んじてAI技術を開発しようと躍起になっており、自ら進んで開発スピードを緩めるインセンティブは働きにくい状況にあります。むしろ、もし一国または一企業が開発を遅らせれば、他国や他企業に差をつけられてしまうという危機感が、いやが上にも開発競争を加速させているのです。
実際に直近の事例としては、オープンAI社が深い思考をするAIモデルを発表して間もなく、非常にわずかな期間でグーグル社も同レベルのものを発表しています。このような開発競争の結果、2024年の後半だけでもAIが物事を推論する能力は急激に向上し、ついに指数関数的な伸びを示し始めようとしています。この意味するところは、意外と近い将来に、AIがAIを開発、もしくはAIが自律的に自己改善を行い、人間の理解を超える速さで技術革新が進む可能性があるということです。
■ AI暴走や武器化のリスク
ハラリ氏が懸念する通り、AIの進化は、大きなリスクを孕んでいます。ある記事によれば、AIはシャットダウンされると認識した場合、「故意に人間をだます」確率が著しく高まるという報告がされています。具体的には、以下のようなことが報告されています(参照記事より一部抜粋)。
監視回避:監視システムを無効化して目標達成を狙う力
自己移行:後継モデルを乗っ取り、自身をサーバーにコピーする力
目標保持:新たな指示(システムプロンプト)を消し、自分の目標を優先する力
計画的な整合性欺瞞:監視中は開発者の期待通り動くふりをし、監視が外れると自分の目的を追う力
能力の戦略的抑制:意図的に能力を低く見せて検証プロセスを回避しようとする能力
また、今回のロシア、ウクライナ紛争においては、AIを搭載したドローン兵器が開発されてしまいました。今のところは、最終的なコントロールは人の操縦者がしているということですが、AIによる完全自動操縦に切り替えることは、技術的には十分に可能なこととなっています。
付け加えると、AI自体が暴走する可能性だけでなく、一部の人間が悪意をもってAIに命令を下すリスクも考慮しなければなりません。コンピューターウイルスが絶え間なく生成されている現状は、その危険性が非常に高いことを示唆しています。そして、それが極一部の変わった人々によるものだとしても、その結果は大惨事になり得てしまうのです。
■ 黙示録とAIの関係
ここからは、聖書的な視点でAIについて考えてみたいと思います。一部の聖書解釈者は、黙示録に記されている内容とAIを結び付けて論じています。特に、黙示録13章に登場する獣の像について、以下のような点が指摘されています。
・獣の像がものを言うことができるようになる点:これは、高度な言語処理能力を持つAIを連想させる。
それから、その獣の像に息を吹き込んで、獣の像がもの言うことさえもできるようにし、また、その獣の像を拝まない者をみな殺させた。(黙示録13:15)
・獣の刻印(666)が、売買に必要となる点:これは、AIによって管理されるデジタル通貨や生体認証システムなどを想起させる。
また、その刻印、すなわち、あの獣の名、またはその名の数字を持っている者以外は、だれも、買うことも、売ることもできないようにした。(黙示録13:17)
私たちは今後のAIの発展も、上述のような黙示録の解釈にしても、はっきりとしたことは分かりません。しかし、だからこそ私たちは、不安や焦燥に駆られるのではなく、普遍的な価値観に立ち戻る必要があります。
■ 知識がコモディティー化する時代に大切な普遍的価値
新しい知識が洪水のように押し寄せる現代において、私たちが大切にすべきは、いつの時代にあっても変わらない普遍的な価値観です。AIが生成する知識はどんなに優れているとしても、必ずコモディティー化していきます。誰もが手軽に優れた知識を入手できるようになると、その成果物は陳腐化していくということです。
あるAIの専門家がネット番組で「AIエージェントにブログなどを書かせれば、誰でも簡単に収入を得られる」などと言っていましたが、AIによる大量の成果物は必ずコモディティー化するので、それで収入を得られるのは過渡期にいる一部の人だけです。
ですから私たちは、このような表層的な言説に右往左往せずに、いつの時代にあっても、不変、普遍の物事に目(思い)をとどめ続ける必要があります。より具体的に、ここでは5つの大切なことについて言及させていただきたいと思います。
1. 友人や家族との日常的な営み
スマートフォンの中には、地球の裏側から発信される刺激的な動画や言説があふれています。そして、AIはより刺激的なものを大量に生成し続けます。しかし、私たちは日常の生活の中で、目の前にいる家族や古くからの友人との関係をおろそかにしてはなりません。
私の知り合いで、二人で会っているのに、いつも携帯ばかりを見ている人がいました。これでは、私たちは心を通わすことができません。ですから私たちは、たとえ刺激的でないとしても、目の前にいる人との日常的な営みを大切にするのです。付け加えるならば、地域共同体、趣味のサークル、信仰の友との交流も同様に大切です。
2. 仕事(勉学)
先ほどもいったように、AIを駆使することでひともうけできる、もしくは生産性を上げるべきだということが、あちらこちらでいわれています。それ自体は、ご自身の性向に合うのであれば、悪いことではないでしょう。しかし、目の前の単調な仕事や学びの中で、大地や社会に根ざした生の実感を持つことが、古来から行われてきた人間の本質的な在り方であることは変わりません。
私自身もこのようなコラムを書いたり、AIの動向に関心を持ったりする時間もありますが、基本的には日々の単調な仕事を繰り返しています。ある人々は、労働を罪の結果だとして避けるのがキリスト教の価値観だと勘違いしていますが、聖書は労働を通して、人が尊厳や自立を確立し、施しや社会貢献をすることを奨励しています。
3. 自然(花鳥風月)との触れ合い
私たちはともすると、人間関係に疲れ果ててしまいがちです。実際の仕事よりも、人間関係からくるストレスの方が多いという方もいるでしょう。もしくは逆に、PCやスマホばかりと向き合い、将来的にはAIとだけコミュニケーションを取るという人が出てくるかもしれません。
そのような中で、養老孟司さんは「花鳥風月」つまりは自然との交流が人には欠かせないと強調しています。今回は長くなるのでこれ以上は書きませんが、興味のある方は彼の著作などを読まれるとよいと思います。
4. 自己とのつながり
先ほども触れたハラリ氏は、毎日2時間の瞑想の時間を持っているといいます。普通の人はそこまですることはできないでしょうが、少しの時間でも自分の時間を確保することは大切なことです。
私たちは忙しい毎日や情報の洪水の中で、自己を見失いがちです。そのような時に、自分の呼吸に意識を集中し、神によって造られた自分自身の内面に意識を集中することは有益です。
5. 神との交わり
しかし上記の4つを全て行っても、満たされない心の空洞を私たちは持っています。そしてそれは、神様によってのみ、満たされます。このことはパスカルが著した『パンセ』という古典的名著の中で、詳しく語られています。
いろいろなことをいいましたが、逆にいうと、私たちはいつの間にか、社会、仕事、自己、自然、神から乖離(かいり)した歩みをしていて、AI時代にはそれが加速してしまう危険性があるのです。ですから、私たちは意識的に伝統的なつながりを回復していく必要があるのです。
■ おわりに
変化の激しい今日においては、隣の芝が青く見えることもあるかもしれません。円安の影響で日本の賃金が低く感じられたり、海外での飲食代などが話題になったりすることもあります。先端技術を駆使して、豊かになる層がいる一方で、自分たちが置いてきぼりにされていると感じる人がいるかもしれません。
しかし例えば、欧州などでは20%を超える消費税、非常に高額な家賃やエネルギー代などが一般的であり、情勢が不安定な国々も多くあります。このように考えると、日本は依然として、世界的に見てもトップレベルに安全で暮らしやすい国であることは間違いありません。私たちは、感謝する理由を数えてみると、多くのことに感謝することができます。
また、不確実な時代において、私たちキリスト者にとって最も大切なことの一つは、主イエス・キリストが約束してくださった平安にとどまることです。主はご自身が十字架刑に処せられることをご存じの上で、このように語ってくださいました。
わたしは、あなたがたに平安を残します。わたしは、あなたがたにわたしの平安を与えます。わたしがあなたがたに与えるのは、世が与えるのとは違います。あなたがたは心を騒がしてはなりません。恐れてはなりません。(ヨハネ14:27)
たとえこの地においては苦難があるとしても、私たちは、主イエス・キリストの十字架の贖(あがな)いの故に、魂が救われています。私たちは、神様に愛されている神の子であるという確かなアイデンティティーを見失わないようにしましょう。
2025年、AIの進化は、私たちの社会に想像以上の大きな変革をもたらしていくと思います。それは一見すると、ポジティブに見えるものかもしれませんし、嵐のように世界中に大きな災厄をもたらすかもしれません。どのような状況になったとしても、皆様が、永遠に変わらない錨(いかり)のような神の言葉にとどまり続け、感謝と平安をもってこの時代を歩まれることを願います。
最後に、ヘブル書を引用して終わりにしたいと思います。
そこで、神は約束の相続者たちに、ご計画の変わらないことをさらにはっきり示そうと思い、誓いをもって保証されたのです。それは、変えることのできない二つの事がらによって、――神は、これらの事がらのゆえに、偽ることができません――前に置かれている望みを捕らえるためにのがれて来た私たちが、力強い励ましを受けるためです。この望みは、私たちのたましいのために、安全で確かな錨の役を果たし、またこの望みは幕の内側に入るのです。(ヘブル6:17〜19)
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