パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」が昨年10月7日、イスラエルに対して虐殺行為を含む大規模な攻撃を加えたことを発端に、ガザ地区で戦争が始まってから4カ月。戦争はいまだに終わりが見えない状況にある。この戦争をイスラエルはどのように見ているのか。
キリスト教オピニオンサイト「SALTY(ソルティー)」論説委員の明石清正牧師(カルバリーチャペル・ロゴス東京)が昨年12月、ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使に単独でインタビューをした。インタビューから既に1カ月半ほどたっているものの、明石牧師は「その内容はほとんど古びていません。それどころか、イスラエルが今の状況をどのように考えているのかを理解する上で重要な鍵となる言葉を、大使は次々と発しています」と話す。ソルティーに掲載されたインタビューを、一部省略・編集した上で掲載する。(第2回はこちら)
◇
間もなくクリスマスを迎えるという時期にあった昨年12月20日、イスラエル大使公邸でギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使に、ソルティーとしてインタビューをさせていただいた。イスラエルは8日間にわたるハヌカ1を終えたばかりで、また、昨年10月7日にハマスに拉致されたイスラエル人の家族の訪日日程が終わったばかりだった。
私たちソルティーは、ハマスによる大虐殺を強く非難し、イスラエルを支持する立場をクリスチャンとして明確にしなければいけないということで一致していた。ソルティー主筆で、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(救う会)会長の西岡力(つとむ)は、イスラエル大使館主催の連帯イベントに参加し2 、私は、大使が日本の牧師たちを招いて開いた懇親会に参加させていただいていた3。大使公邸に牧師たちを招くというのは、駐日イスラエル大使館が開設されて以来初めてということで、歴史的なものを感じた。このような経緯で大使と知り合うことができ、インタビューが実現した。
私はインタビューで大使に質問するとき、「ユダヤ人に寄り添う」ことを心構えとして尋ねるようにした。これは、無条件にイスラエルに肩入れするのではなく、当事者がどのように感じ、何を考えているのかを、日本の人々に伝える報道がこれまでほとんどなかったのではないか、という疑問を持っていたからである。大使には、現在のガザ地区の戦争に関してだけでなく、日本とイスラエルの関係についても話を聞いた。大使には、とても和やかな雰囲気の中で自由に語っていただき感謝している。
――今回のハマスの大虐殺について、イスラエルの人々から「建国以来最大の悲劇」「ホロコースト以来のジェノサイド」という言葉を聞きました。
ホロコーストは、国連によってジェノサイドとして定義された言葉です4。宗教や信条に従って抹殺されることですが、ナチスによって第2次世界大戦の時、ユダヤ人600万人が抹殺されました。しかし、今のイスラエル人の気持ちを、ホロコーストや他のものと比べたくありません。この悲劇は建国以来、最も痛く、衝撃的です。ハマスは、可能であったならば私たち全員を殺したことでしょう。1000万人のイスラエル人を全員です。なぜなら、彼らは抹殺すると言っていますから。
その残虐性は、近現代で前例のないものでしょう。赤ん坊を殺害し、生きたまま火あぶりにしました。子どもの前で親を殺したり、強姦(ごうかん)したり、斬首したり、手足を切断したりしました。拉致し、処刑しました。ナチスは、あの残虐な行為を隠蔽しようとしました。ユダヤ人に対してだけでなく、世界に対しても隠そうとしました。それはもちろん、人道に対する罪で、戦争犯罪だからです。しかしハマスの場合は、これを誇りました。このテロリストたちは、体に装着したカメラで撮影していたのです。喜んでいました。赤ん坊を処刑したり、女性を強姦したりすることを自慢していたのです。
個人的なことを言いますと、私の息子2人は今、ガザ地区で従軍しています。妻と共に心配しています。130人余りの人質がまだそこにいます5。女、子ども、男たちも皆がそこにいます。ハマスは彼らをもてあそび、解放しません。私たちは、最も困難な時にいます。80歳近い父に2週間前に話したのですが、こう教えてくれました。「息子よ、私はこの国で80年生きているが、こんなものを今まで見たことがない」。こんなに悲劇的で、こんなに痛い傷を受けたことがありません。
イスラエル軍がガザ地区で戦う2つの理由
私たちがしているのは、復讐(ふくしゅう)ではありません。もう二度と、同じことが起こらないようにするために動いています。ハマスは、「イスラム国」(IS)のようなテロ組織ですが、彼らは「何度でも同じことをする」と言っているのです。昨年10月7日は予告編に過ぎないと。
このようなことを、どの国も受け入れられないでしょう。隣接している所で平和に暮らすために、ハマスがガザ地区を統治しないようにしたいのです。それから、人質を解放させることです。これらが、私たちがガザ地区にいる唯一の理由です。
多くの国が即時停戦を唱えていますが、今、軍事作戦を停止したら、イスラエルの人質を誰が解放するのでしょうか。いつまで待てばよいのでしょうか。10年ですか。20年、30年、40年、50年でしょうか。日本は、北朝鮮による拉致被害者の帰国を長いこと待っていますが、私たちは待てません。そして近い将来、ハマスも、ISも、北にいるヒズボラも、彼らが統治することを許しません。何度でも(イスラエルを)攻撃することを企てるからです。(同じ状況であれば)どの国もそれを許容できないでしょう。
もし何か、ハマスを根絶するのにもっと良い対案があれば、それを行います。米国は、アルカイダとISをつぶすのに3年を費やしましたが、私たちはそんなに長い時間はかけません。しかし、何かもっと良い解決法があれば教えてほしいです。ハマスを根絶し、イスラエル市民の被害を最小限にする方法です。今のところ見つかりません。
イスラエル軍は、道徳のある軍隊です。ガザ地区の市民に対し、北部から南部へ退避するよう呼びかけました。その中には、人質を連れて退避したハマス指導者や病院関係者もいます。ですから、その通りです。これは建国以来、最も心の痛む悲劇です。
――この戦争は、非常に困難だと感じています。通常の戦争では、双方の軍が、それぞれの民間人を守るために戦います。しかし、イスラエル軍は自国民を守りながら、同時にガザ地区の民間人も守らないといけません。イスラエル軍では兵士たちに、どのように交戦規定を守るように教育し、その遵守度合いを評価していますか。
私自身、兵士でしたし、今は息子たち、そして娘も兵士です6。息子たちは予備軍に入隊しました。私たちには、厳格な交戦規定があります。兵士に対してのみしか、交戦できません。ハマスの問題は、巧みに操作することです。ヘブライ語で(イスラエル兵に)呼びかけたりします。それで残念なことに、自分たちの人質を殺してしまいました。本物のイスラエル人だと思わず、ハマスがだましていると思ったのです。また、彼らはイスラエル兵をおびき寄せて殺すこともします。
しかし、イスラエル軍の司令は明確です。白旗を振っている者は射撃しません7。民間人、女、子どもを撃ちません。守ろうとします。そのため、(イスラエル軍が突入する前)シファ病院から避難するように呼びかけました。保育器を持ち込みました。手当するための機器を用意しました。避難するための救急車も用意しました。
しかし、ハマスは司令部として病院を使っていました。病院の地下にトンネルを掘っています。彼らは、このトンネルのためのお金を使えば、別の病院2つと学校1つを建てられたことでしょう。しかし、トンネルのためにお金を費やしたのです。これが心の痛むことなのです。
ハマスは自分の民など度外視です。彼らを人間の盾に使っています。しかし、私たちは(民間人を)気にします。例えば、戦闘機のパイロットが、ある家にテロリストがいるとして攻撃する際、もしそこに市民や子どもを視認したら攻撃を中止します。そして、指揮官に中止を伝えます。
――パイロットが中止の決断をするのですか。それとも、指揮官に判断を尋ねるのですか。
指揮官からは、出撃の時に指示を得ています。パイロットに、自分で中止の決定をする権限が与えられています。これが、イスラエル軍を道徳性のある軍隊だと言っているゆえんです。
日本政府は、イスラエルに対して、国際法に従った自衛を尊ぶように言っていますが8、ロケット弾を打ち込む発射台が民家にあり、その民家の中に、親の部屋や子どもの部屋もあるのです。ロケット弾を発射しているのですから、そこを攻撃しないといけません。
そこで私たちは、最初にその建物の屋根に小さな爆弾を落とします。それを「屋根をノックする」と呼びますが、ただ音を立てるだけです。それによって、中にいる人々が逃げることができるようにします。そして、この建物を攻撃しないといけません。
これが、複雑な(戦闘の)実際なのです。邪悪な殺人鬼のテロ組織と戦うときに直面するジレンマです。彼らは、民間人の中に隠れているのです。(続く)