ウクライナ南部の都市オデーサに23日未明(日本時間同日午前)、ロシアによる大規模なミサイル攻撃があり、市内中心部にあるウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系、UOC)の救世主顕栄大聖堂が破壊された。
大聖堂は、オデーサでは最も大きな正教会の聖堂。オデーサの中心部は今年1月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に「オデーサの歴史地区」(英語)として登録されたばかりで、大聖堂もこの地区内に位置していた。
ユネスコは同日、「オデーサ中心部の複数の文化遺産に被害を与えたロシア軍による恥知らずな攻撃に深く失望し、最も強い言葉で非難する」とする声明(英語)を発表。この攻撃により、大聖堂を含む多くの重要な文化遺産が被害を受けたとし、数日前にもオデーサや西部リビウで世界遺産条約により保護されている地域の多くの文化遺産に影響を与える攻撃があったばかりだと指摘した。
ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、「この非道な破壊行為は、ウクライナの文化遺産に対する暴力がエスカレートしていることを意味する。この文化に対する攻撃を強く非難する」と表明。ロシアに対し、武力紛争時の文化財保護などを定めたハーグ条約(1954年)や世界遺産条約などの国際法上の義務を遵守するよう強く求めた。
ユネスコはまた、文化遺産の意図的な破壊は戦争犯罪に相当する可能性があると指摘。これは、ロシアが常任理事国を務める国連安全保障理事会も2017年の決議で認めていることだと釘を刺した。
ユネスコは近日中に使節団をオデーサに派遣し、被害の予備評価を行う予定だという。
今回の攻撃で破壊された救世主顕栄大聖堂は、1809年に聖別されたオデーサ最初にして最大の正教会の聖堂。宗教を否定するヨシフ・スターリン統治下のソ連時代である1936年に破壊されたが、ウクライナ独立後の1999年から再建が始まり、2003年には現在の聖堂が聖別された。
英公共放送BBC(日本語版)がオデーサで取材をするジェイムズ・ウォーターハウス記者の話として伝えたところによると、大聖堂は屋根のほとんどが攻撃で失われ、分厚い壁は直立して残っているものの、柱は幾つかが傾いている状態だという。
ウォーターハウス氏は、ミサイルが大聖堂に直撃したことは疑いようがないと指摘。現場でがれきの撤去作業をする人たちからは、ロシアのミサイル破片とされるものを見せられたという。
大聖堂のアンドリー・パルチューク首輔祭は、攻撃があった後すぐに現場を訪れたとし、BBCに「とんでもない規模の破壊だ」とコメント。「窓も、漆喰(しっくい)の繰形も、全て吹き飛ばされていた。イコンやろうそくを販売している場所から出火し、あちこちに燃え移り、何もかも燃えていた」と話した。
BBCによると、オデーサに対する23日の攻撃では、少なくとも1人が死亡、子ども4人を含む19人が負傷した。
ウクライナ第3の都市であるオデーサは、黒海に面した湾岸都市で、輸出拠点があることから、ロシアによる攻撃を連日受けている。時事通信がウクライナ軍の発表として伝えたところによると、23日は陸海空から巡航ミサイル17発と弾道ミサイル2発の計19発が撃ち込まれた。このうち撃墜できたのは、約半分の9発だったという。
一方、ロイター通信によると、ロシア国防省は、ロシアが大聖堂を攻撃したという報道は「虚偽」だと主張。オデーサの攻撃目標は、大聖堂から「安全な距離」にあったとし、ウクライナの対空ミサイルが大聖堂に被害を与えたとしている。