19日に72歳で死去したティモシー・ケラー牧師。1980年代後半に米最大の都市ニューヨークで開拓伝道を始め、自身が創設したリディーマー長老教会を、毎週5千人以上が礼拝に集うメガチャーチへと成長させた。30冊を超える著書は29カ国語に翻訳され、累計販売部数は600万部を超える。
そのケラー牧師が亡くなる数週間前、牧師ら教会指導者に向けて3つのアドバイスを語る動画メッセージを撮影し、遺(のこ)していた。リディーマー長老教会が、ケラー牧師の死去を受け、ホームページ(英語)で公開。メッセージは当初、同教会の指導者チームに向けて発信されたものだったという。
メッセージの中でケラー牧師は、エレミヤ書を取り上げ、自教会や他教会の指導者に役立つと思われる3つのアドバイスを語っている。
最初のアドバイスは、「かみそりの刃(境界線、危機的な状況)の上で生きよ」というもの。ケラー牧師は、エレミヤ29章7節「わたしが、あなたたちを捕囚として送った町の平安を求め、その町のために主に祈りなさい。その町の平安があってこそ、あなたたちにも平安があるのだから」を引用して、このアドバイスを説明した。
ユダ王国を滅ぼしたバビロニアは、ユダヤ人の文化や信仰を破壊するために、彼らを異邦の都市バビロンに強制的に移住させた。ユダヤ人の中には、子孫が信仰を失うことを恐れ、バビロンから離れて生活しようと話す人々もいたが、神が彼らに語った言葉は、バビロンのために祈り、その町を愛しなさいというものだった。
「関わると同時に、異なる存在であってください」とケラー牧師。「(自分が置かれている)文化圏に同化して全ての意見を取り入れないでください。でも、関わらないままでいないでください。自分の身辺をきれいに保ち、他の全ての人を非難する、そうではありません。かみそりの刃の上で生きてください」
2つ目のアドバイスは、「消費するだけではなく投資せよ」というもの。ケラー牧師は、エレミヤ32章に基づき、バビロニアの侵攻とそれに続くユダヤ人の捕囚が迫る中で、エレミヤが畑を買ったことを取り上げた。
「ただ消費するためだけにここ(ニューヨーク)に来てはいけません」とケラー牧師。「履歴書に書きたいから、エキサイティングな教会生活を体験したいから、素敵なレストランに行きたいから、という理由だけでニューヨークに来てはいけません」と語った。
「ここに投資してください。イエス・キリストは『わたしはわたしの教会を建てる』と言われました。『わたしはわたしの教会を建てる、大都市以外で』と言われたのではなく、『わたしはわたしの教会を建てる』と言っているのです。ですから、教会に投資してください。あなたの時間を投資し、そう、あなたのお金を投資し、あなたの人生を投資してください」
最後にケラー牧師は、エレミヤ45章5節「あなたは自分に何か大きなことを期待しているのか。そのような期待を抱いてはならない」を引用し、「自分の評判のことは忘れなさい」とアドバイスした。
「自分の評判を気にしてはいけません。自分は(この職務に)ふさわしいのだろうかと心配してはいけません」とケラー牧師は諭す。「ミニストリーの成功を自分のアイデンティティーにしてはいけません。物事がうまく進まないと、完全に失敗したかのように感じてしまうからです」
「ニューヨークでビッグネームを手に入れることを第一目標にしてはいけません。主イエスの御名を高く掲げてください。(主の祈りに)『御名があがめられますように』と(ある通りです)。自分のことは忘れてください。自分の評判のことは忘れてください。神の御名が高められるために自分にできることをするのです」
ケラー牧師は19日、すい臓がんとの長期にわたる闘病生活の末に死去した。ケラー牧師には、妻と3人の息子、3人の義理の娘、1人の妹と7人の孫がいる。
「夫であり、父であり、祖父、指導者、友人、牧師、そして学者でもあるティモシー・J・ケラーは今朝、自宅で亡くなりました」。ケラー牧師の息子であるマイケルさんは19日、フェイスブック(英語)にこのように投稿した。
「父は母と二人きりになるのを待っていました。母が父の額に口づけすると、父は息を引き取りました。私たちは、父の最期の言葉の中に慰めを見いだしています。(父はこう言いました。)『私が去ることにマイナスな面は一切ない。これっぽっちも』と。父さん、また会おうね」
ケラー牧師の死後、多くの教会指導者やキリスト教の著名人がSNSやウェブサイトで哀悼の意を表し、ケラー牧師が自身の信仰の歩みにどのような影響を与えたかを記している。
グラミー賞受賞アーティストでクリスチャンラッパーのレクレーは、自身のフェイスブック(英語)で、ケラー牧師の霊的指導は「私にとって闇の中の光でした」とつづった。
「これまで一度も明かしたことがなかったのですが、彼が福音派の産業構造に取り込まれることを拒否したことは、私の人生が最悪だったときに、私の魂に力を与えてくれました」
「人種差別やキャンセルカルチャーが私の行く手に立ち塞がっていたとき、ケラー牧師の声がずっと私の耳に響いていました。2017年の一時期は、非有色人種の中で私が耳を傾けることができたのは彼しかいませんでした。彼は私を招いて、多くのことを教えてくれましたし、多くのことを経験させてくれました」